一般社団法人 地域創造

地域創造フェスティバル2018報告

 11回目となる地域創造フェスティバルを7月31日、8月1日に東京芸術劇場で開催しました。今年は、音楽とダンスを合わせて計62組のアーティストが集結。意欲的なプレゼンテーションが行われるとともに、今日的なテーマのシンポジウムを開催し、大盛況となりました。開催にご協力いただきました関係の皆様、全国からご来場くださいました公立ホールや自治体の皆様には、心よりお礼申し上げます。

●地域創造フェスティバル
地域創造の事業紹介を目的に年1回開催しているフェスティバル。音楽、ダンスのアーティストによる多彩な実演(プレゼンテーション)、シンポジウム、セミナーなどを実施するとともに、財団事業の説明会を開催。アーティスト、全国のホール関係者、専門家が一堂に集い、交流する貴重なプラットフォームとなっている。会期中に都道府県・政令市課長会議を同時開催。

テーマは“2020以降のレガシー”

 今回は、東京オリンピック・パラリンピック後を見据えた「2020の先にあるもの~文化芸術基本法成立から1年、今、地域が取り組むべきこと~」と題したシンポジウムを行いました。昨年度まで文化庁文化審議会委員を務めた東京藝術大学教授・熊倉純子さん、現在同委員のニッセイ基礎研究所研究理事・吉本光宏さんに加え、創造都市として文化のまちづくりに取り組む新潟市と八戸市の担当者が顔を揃えるとあって大盛況でした。
 まず、熊倉さんによる基調講演が行われ、文化芸術を豊かにするための文化芸術振興基本法から文化芸術で社会が豊かになる文化芸術基本法の成立に至る流れと、基本法に基づきこの3月に政府が閣議決定した「文化芸術推進基本計画」について解説が行われました。その中でも特に強調されたのが計画の4つの目標のひとつとして掲げられた「地域の文化芸術を推進するプラットフォーム」の形成であり、そのための「専門人材の育成と登用」や「文化芸術団体・諸機関の連携・協働」の重要性なども指摘されていました。
 この基調講演を受けたシンポジウムの冒頭、モデレーターの吉本さんが、「2020に惑わされないために文化プログラムに取り組まない選択肢もある」と切り出すと、一瞬会場に緊張が広がりました。その後、2012年ロンドン大会におけるイギリスの文化プログラムの事例を紹介。「やるなら発想を転換し、大会のためのプログラムではなく、地域にどんな意義があるのか、2021年以降の地域文化ビジョンを考え、この機会でなければできないことを企画し、地域の文化的なレガシーに繋げることが必要」とエールを送っていました。
 次に、地域のプラットフォームの実例として2つの都市の取り組みが紹介が紹介されました。新潟市文化スポーツ部参事・政策監の真田弘彦さんは、創造都市の歩みとともに2016年に新潟市芸術文化振興財団に事務局を設置して立ち上げたアーツカウンシル新潟について紹介。また、専門人材の登用という観点を踏まえて、八戸市まちづくり文化推進室芸術環境創造専門員の高橋麻衣さんは、「生活に文化芸術が溶け込むまちづくり」を推進する八戸市の施設整備(*1 )やアートプロジェクトについて紹介しました。
 ディスカッションでは、「求められることが高度化して一般行政マンでは対応しきれないところがある」「立場の異なる行政マン、施設のコーディネーター、専門員、アドバイザリーボードが一緒に話し合える状態になっていない。専門家によって求めていることが異なっていて、それぞれの理想を語り合っている状況」「関連分野と連携するといっても、どこが主導するのか、予算はどちらに振り分けるのかといったことが課題になる。それでも懲りずにやり続けることが大切」など、忌憚のない現場の声にたくさんの課題をもらったシンポジウムでした。

おんかつ20周年、アウトリーチを振り返る

 おんかつ(公共ホール音楽活性化事業)は今年で20周年を迎えます。この間、アウトリーチという考え方は広く普及し、プログラムも多様化してきました。今回のフェスでは、新旧のおんかつコーディネーターがパネリストを務め、アウトリーチについて考えるシンポジウム「アウトリーチの忘れ物」も開催しました。
 唯一外部の有識者として登壇したのが、廃材を創造的に活用するものづくりプロジェクトを各地で展開している大月ヒロ子さんです。調布市文化会館たづくりが小学校にアウトリーチしている「フィルム缶にアート」(*2 )について紹介。「この展覧会ではアーティストのものづくりに市民が立ち会うので、市民は廃材がアートになる瞬間を目撃できた。そのことがとても大切。また、アウトリーチは廃材を通じて地域を学ぶきっかけになり、ホールと地域を繋ぐ機会になっている」と大月さん。
 また、平成13年度からおんかつ事業に携わり、現在チーフコーディネーターを務める小澤櫻作さんは、初期の実験的なプログラムや学校にアウトリーチを受け入れてもらうことが困難だった時代を振り返るとともに、「アウトリーチによってホール運営を強くすることができたのか、地域の人から愛されるホールになれたのか」と問題提起。
 現役のおんかつコーディネーターも交えたディスカッションでは、音楽やアートの「本質的な価値」と「社会的な価値」について意見交換が行われ、「コンサートもアウトリーチも本気で音楽を伝えることに差はない」「社会的に評価されてから安易にアウトリーチに取り組んでいる」「アーティストがリスペクトしている芸術に対する共感が足りないのではないか」「アーティストが“なぜ自分は音楽をやっているのか”という自問自答に辿り着いたところからアウトリーチは始まる」などなど、おんかつの基本と向き合う言葉が続きました。

多彩なプレゼンテーション

 今回は、平成31年度ダン活(公共ホール現代ダンス活性化事業)登録アーティスト8組、おんかつ支援登録アーティスト54組がプレゼンテーションを行いました。ダン活では、コーディネーター7名が各自の取り組みをセミナーで紹介した後、登録2年目になるアーティストが、コンテンポラリーダンスから舞踏まで、参加者と共に多彩なワークショップを展開。それぞれの持ち味を生かしたファシリテーションに初心者もすっかり引き込まれていました。
 また、おんかつでは経験豊かなベテランがこの1年の成長を盛り込んだプレゼンテーションを展開。子どもたちと曲づくりを行う新しいアウトリーチの実演、音楽の多様性を伝える曲で構成した“音楽のたまて箱”、珍しい楽譜によるヴァイオリン演奏、30分間トークなしでひとつのストーリーを伝えたチャレンジングなプログラム、打楽器の身近な魅力を伝えるためにさまざまな日用品を持ち込んだパーカッショニスト、登録アーティスト同士のコラボレーションなど、工夫されたパフォーマンスが続きました。

 

*1 八戸ポータルミュージアム はっち、八戸ブックセンター、準備中の新美術館。
*2 地元を歩いて集めた廃材をフィルム缶にレイアウトして写真を撮影するもの。廃材を活用してアーティストと市民が作品づくりを行った展覧会から生まれたプログラム。

 

地域創造フェスティバル2018 プログラム

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