一般社団法人 地域創造

北九州市 「響ホールフェスティヴァル2018」

 開館25周年を迎える北九州市の響ホールと響ホール室内合奏団(*1)が、市民と共に音楽や文化をエンジョイする新たなお祭り「響ホールフェスティヴァル2018」が6月23日、24日に開催された。今年で3回目となるフェスの柱が、芝居仕立ての本格日本語オペレッタで、第2回から子ども連れで楽しめる音楽会をプラス。また、入り口ロビーでは市民団体による無料の演し物が多数行われ、ダンスをテーマにした今年は、ダンスグループ2組がクラシックホールに初見参。ゴスペルグループ、少年少女合唱団のコーラス、九州国際大学吹奏楽部なども出演し、黄色い声援が入り乱れる賑やかな光景が展開していた。

 

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上:「こうもり~Dr.ファルケの復讐劇」
下:「0歳からの踊る音楽会」
写真提供:北九州市芸術文化振興財団

 響ホールと言えば、1988年に市政25周年記念で創設された北九州国際音楽祭(今年の会期は10月13日~11月23日)の主会場であり、また、国際的なヴァイオリニストの数住岸子さんが音楽監督を務めたことで知られる。しかし、志半ばにして開館4年目に数住さんが45歳の若さで急逝。93年にスタートした響ホールフェスティバルはプロデューサー制で2012年まで継続したものの、社会環境も変わり、事業の方向性が模索されてきた。
 今回の新たなフェスを担当したのが八幡西区出身の神田和範さんだ。「私も就職するまで響ホールをあまり知らず、音楽家には知られていても地域に認知されていなかった。そこで“地域の一員になる”を合言葉に、4年前から地域訪問コンサートやポスティングをやりながら、色々な人から話を伺い、フェスの土台をつくっていった」と言う。1年目のフェスをきっかけに八幡東区のまちづくりを行っている「けやきテラスプロジェクト」(*2 )のメンバーと出会い、音楽が街に広がる「YAHATA MUSIC PROJECT」が立ち上がるなど、この3年でこれまでになかったネットワークも生まれてきた。
 フェスを取材して実感した成果が2つある。ひとつが一芸をもつ地域住民の呼び込みに成功したことで、その代表格が市民ダンサー約40人を抱えるイマ☆タカDance Familyを率いる今村貴子さんだ。「小劇団をやっていたが、北九州芸術劇場でコンテンポラリーダンスを学ぶ機会を沢山いただき、北村成美さんが市民と一緒に立ち上げた赤シャツ隊のダンスアシスタントをやるようになった。ダンスをコミュニケーションツールとして活かす面白さに目覚め、今では色々なところから声を掛けてもらっている。前回はオケの人たちと楽しみながらオペレッタの振り付けもした」。
 もうひとつが北九州芸術劇場ディレクターで、劇団「飛ぶ劇場」演出家の泊篤志さんが初回から構成・脚本・演出を担っている“オペレッタ演劇”だ。『メリー・ウィドー』『天国と地獄』を経て、満を持して取り組んだのが今回の『こうもり(』仮面舞踏会の帰りに酔いつぶれ、友だちのアイゼンシュタインにこうもりの仮装のまま置き去りにされ、赤っ恥をかいたファルケ博士が一芝居打って復讐するというオペレッタの傑作)。仕掛け人のファルケ博士を狂言回しとして俳優が演じ、ストーリーを伝わりやすく整理。歌を減らしてテンポを上げ、2時間半の作品を歌手4人、俳優4人で1時間半に構成。ステージに響ホール室内合奏団28名が陣取り、上手、下手、舞台奥中央に設けた3カ所の仮扉を効果的に使って3場の原作を見事に展開していた。
 泊さんは、「オペレッタだからこうした構成が可能になった。最初は音楽と演劇の稽古の仕方や発声方法の違いなど基本的なところに戸惑った。3作目でようやく踏み込めるようになり、今回は俳優も少し歌い、歌手もセリフを喋り、お互いが歌や演技について考えられるようになった」と言う。相方である合奏団楽員長の関原弘二さんは、「ラ・フォル・ジュルネ鳥栖に関わって音楽に対する発想が変わり、こうした家族で楽しめる面白いオペレッタを提案した。未来を育てなければとよく言うが、オケだけでできることではない。こういうフェスでお互いが話し合いながら課題をクリアしていくことが面白さだと思っている」と返す。
 パンドラの箱が開いた響ホールでは、今年の秋には地域のさまざまな施設と連携した「アートマンス」を仕掛け、JICAや大学とも新しいプロジェクトをやりたいと夢を膨らませていた。
(編集部:坪池・勝田)

 

●響ホールフェスティヴァル2018
[主催](公財)北九州市芸術文化振興財団
[会期]6月23日、24日
[会場]響ホール全館
[プログラム]「響ホール室内合奏団presents 0歳からの踊る音楽会」(23日)、「ショート&ドラマチックオペレッタ こうもり~Dr.ファルケの復讐劇」(24日)ほか

●北九州市立響ホール
1993年7月開館。客席数720席のシューボックス型ホール。北九州市が八幡東区平野地区に整備した国際交流ゾーンの中核施設「北九州市立国際村交流センター」を構成する施設として「国際村交流センター」「八幡東生涯学習センター」とともに開設。

*1 響ホールの後藤忠雄初代館長の呼びかけにより1998年に結成された北九州市と近郊の弦楽器奏者で構成されるプロの合奏団。響ホールを主な練習拠点、定期演奏会会場とし、北九州市の委託により地域への出前演奏会などを行う。2005年にNPO法人化、2016年から認定NPO法人。

*2 官営八幡製鐵所のあった製鉄のまち「八幡東区」を中心としたJR八幡駅周辺の居心地のいいまちづくりを目指す取り組み。JR八幡駅、八幡東区に関わる自治区会・企業・団体などによる実行委員会が主催。響ホールフェスティヴァルと連携し、第2回から商業施設、図書館、学校などでミニコンサートやワークショップを行う「YAHATA MUSICPROJECT」を展開。

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