一般社団法人 地域創造

沖縄県竹富町 シンポジウム「民俗芸能の未来のために 今できること─継承者育成の実践と精神─」

 高齢化や人口減少などにより民俗芸能の継承が各地で課題となっている。こうした継承方法を考える注目すべき取り組みが国指定重要無形民俗文化財「与那国島の祭事の芸能」(1985年指定)を有する与那国島で始まっている。1月26日、その関連企画「民俗芸能の未来のために今できること─継承者育成の実践と精神─」が竹富町竹富島まちなみ館で開催された。
 これは、一般社団法人与那国フォーラム(*1)が沖縄県と公益財団法人沖縄県文化振興会の支援(*2)を得て2016年度から行ってきた調査事業の集大成として実施されたものだ。最大の特徴は、芸能の継承者自らが同じ離島環境で継承に取り組む竹富島、西表島、小浜島など7島の現地調査を行い、島を越えた関係づくりによる人材育成を行うところ。調査報告とともに、有識者のシンポジウム、与那国島と竹富島の芸能交換会も行われ、深夜まで交流が続いた。

 冒頭、与那国民俗芸能伝承保存会相談役の宮良純一郎さんは、「与那国では地域の自治公民館を中心として芸能の継承が行われてきたが、師匠世代と演者世代の年齢差が広がり大きな課題となっている。広く八重山の継承を参考にして今できることを考えていきたい」と挨拶。調査報告では、「鳩間島では師匠がいなくて、先輩が後輩に教えている。こういうやり方もあるのかと思った」「竹富島では親が子どもを連れて自然に参加できるような場が常に確保されている。これが継承の下支えになっていると感じた」など、継承者ならではの視点が示された。
 また、「子どもと祭事の関わり」をテーマにしたシンポジウムでは、玻座間民俗芸能保存会顧問の亀井保信さんが、竹富島の国指定重要無形民俗文化財である「種子取祭」について「種子取祭は見世物ではなく、神様に奉納するもの。そうした芸能の背景にある、無くてはならない精神についても若い継承者に伝えていく必要がある」と指摘。40歳代の西表島・干立公民館長、山下義雄さんは「親世代の多くが観光業に従事するようになり、芸能に込められた自然への願いや感謝、集落の共同性といった精神性を感じる機会が薄れている。学校教育と連携し、稲作、漁業、紙漉きといった体験学習を通して、島の言葉や先人たちの思いを伝えることが、島を離れた時、自分のルーツとして子どもたちの宝物になる」と若い世代からの見解を話した。
 芸能交換会では、この日に向けて稽古を重ねてきた与那国島5集落の若手合同による実演と、竹富島3集落による実演が交互に披露された。幕開けの「道唄」(ゲストを歓迎する踊り)では与那国島の立方から各地域のゲストに供物が手渡され、賑やかに交流がスタート。また、竹富島からは子どもたちが立派に演じた「むりか星」など、層の厚さを感じさせる実演が続いた。与那国からの来訪を受け入れた竹富公民館長の上勢頭篤さんは「次は与那国島に竹富の芸能を運びたい」と会場を沸かせていた。

 

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第2部で行われた芸能交換会
上:「道唄」(与那国民俗芸能伝承保存会)
下:「むりか星」(竹富公民館)

 立ち上げから事業を支援してきた沖縄県文化振興会のプログラム・オフィサー(PO)が、八重山諸島の民俗芸能研究者であり、14年前から竹富島に通っている遠藤美奈さんだ。「八重山諸島の祭事は、地域自治が優れているため継承が上手く行われているように見られがちだ。祭事は秘匿性の高いものもあるが、理解しあえる近隣の島に住む人たちが顔を合わせ、課題を持ち寄って時間を共有することは、自らの故郷の芸能の在り方を考える上でとても重要だ と思う」と遠藤さん。
 イベントの翌日、与那国の担い手たちに感想を聞いた。「いつもは行事を担うという義務感が強いが、初めて同世代だけで島外に出て、楽しさを感じながら開放的な気持ちで踊れた」「竹富の師匠たちの子どもたちへの関わり方を見て、自分もこんな風に教えたいと思った」「今回のために化粧、着付けもすべて自分たちでできるように頑張ってきた。そのことを褒めてもらって、これでよかったんだと確信がもてた」など、確かな刺激を得たようだ。
 中学卒業とともに島を出ざるを得ない離島では世代間継承が難しい。芸能の交流が地域内の空白を越えた“継承への力”に繋がっていくのか。学びあいの姿に可能性を感じた。(野村政之)

 

●民俗芸能の未来のために 今できること─継承者育成の実践と精神─
[主催]一般社団法人与那国フォーラム
[会期]2018年1月26日
[会場]竹富島まちなみ館
 ※同時中継:DiDi 与那国交流館
[パネリスト]亀井保信(玻座間民俗芸能保存会)、花城正美(小浜民俗芸能保存会)、古見代志人(祖納公民館)、山下義雄(干立公民館)、小岩秀太郎(公益社団法人全日本郷土芸能協会)、三木剛志(公益財団法人日本離島センター)、宮良純一郎(与那国民俗芸能伝承保存会)

*1 一般社団法人与那国フォーラム2016年に設立(外間守吉代表)。同年9月に開館したDiDi与那国交流館を、指定管理者として管理運営している。

*2 沖縄県と沖縄県文化振興会による支援「沖縄文化活性化・創造発信支援事業」(2012~16年度)、「沖縄 文化芸 術を支える環 境形成推 進事業」(2017年度~)として、県内民間事業者の取り組みを支援する補助事業。財政的支援に加え、文化芸術に関わる専門性をもったプログラム・オフィサーを置き、助言・相談等、事業者と随時協働して事業運営にあたる点に特徴がある。通称「沖縄版アーツカウンシル事業」。

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