一般社団法人 地域創造

横浜市 ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017「不思議の森の大夜会」

 ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017「不思議の森の大夜会」が横浜港に面した象の鼻パークと象の鼻テラスを会場に10月7日から3日間にわたって開催された。2014年にスタートしたパラトリは、多彩なアーティストと、障がい者、健常者との協働により新たな芸術表現に取り組む国際芸術祭。5月からいくつもの協働プロジェクトに取り組み、この大夜会で成果を披露した。
 全容はとても紹介しきれないが、テラスとパークの各所には障がい者の突出した能力とアーティストがコラボレーションした作品が展示され、野外の円形舞台ではプロのパフォーマーとさまざまなハンディのある人たちがボーダレスでファンタジックな現代サーカスを披露し、露店では福祉施設でつくられたオリジナル雑貨やフードが販売されていた。

 

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上:アーティスト密林東京によるシンボルツリー

中:澤村祐司(右)とMIWA KAKUTAのパフォーマンス

下:エアリアル(空中パフォーマンス)

 そこで展開されている「協働のカタチ」は本当に多様だった。ライゾマティクスリサーチとファッションデザイナーの森永邦彦は盲目の檜山晃とパートナーを組み、見えない人が世界をどのように知覚しているかを体感できるセンサー付ウェアを開発。全盲の箏曲家の澤村祐司はジュエリーデザイナーと一緒に楽器のような装身具を製作。また、会場全体を覆ったインスタレーションの白い網は国内外の8,000人が参加して編み上げ、あらゆる人に表現を解放する試みとしてペンキ缶を倒すという片山工房の技法が紹介され、公募によるボーダレスな市民59人はうさぎの仮装をしてダンサブルな案内役を務め、詩人の三角みづ紀が目の見えない人のための音声ガイドの言葉をつくった等々。

 この壮大なパラトリを立ち上げ、総合ディレクターとして牽引しているのが、NPO法人スローレーベル代表で自らも障がい者である栗栖良依だ(*)。「2014年はアクセシビリティの壁があり思うように障がいのある人に参加してもらえなかった。この間、パフォーマーや支援者を育成し、難易度の高い空中パフォーマンスにも挑戦できるようになった。これから新しい芸術表現をつくっていけると感じている。プロの舞台に普通に出演できるようになるには、まだメンタルが追いついていないといった課題もある。今は、2020年のオリンピック・パラリンピックの式典の規模を想定しながら、どういう経験が必要で、どうすればオールジャパンの体制がつくれるかを考えながら取り組んでいる」と話す。

 こうした栗栖に対し、関わってきたアーティストや福祉関係者はどのような思いでいるのだろう。
 金井ケイスケ(サーカス指導):「障がいのある人が他の障がいのある人をサポートするチームワークが生まれてきた。ヨーロッパにあるサーカス学校では、プロもアマチュアも、大人も子供も一緒になってステージをつくっている。そもそもサーカスは家族でやっていたものであり、いろいろな人に居場所があるのがサーカス文化。テクニックの凄さではなく、みんながつくっている一体感を共有するような表現世界をつくりたい」
 佐藤央一(横浜市健康福祉局障害福祉課担当係長):「パラトリは文化観光局と健康福祉局が連携して取り組んでいる。健康福祉局としては、障害者の生活の質の向上、中でも余暇活動の充実を図り、家族も含めて笑顔で暮らせるまちにしていくという考えがある。私たちだけで行うとどうしても福祉的なイベントに止まってしまうが、文化観光局やアーティストと連携することによって発展的な取り組みにできる。パラトリを一過性のイベントで終わらせず、環境整備を行い、日常的な活動として地域に下ろして根づかせていきたい。そのための障害者芸術活動支援ネットワーク構築事業を今年度からスタートする」
 内藤亮介(シーダひのき工房支援課長):「アーティストが2カ月ほど滞在し、赤と銀で彩られたアトリエを見たときにはどうなるかと思った。でも交流している利用者がいきいきしていて、アーティストが関わることでその人らしさが引き出されるのを見て、職員の意識が変わった」
 パラトリの最大の成果は、これまでタコツボ化していた取り組みや個人の思いや開かれることのなかった才能を、アートという創造力・想像力によってダイナミックにコーディネートし、大きなムーブメントを生みだそうとしていることだ。「みんなが特徴あるひとりの人としていられる社会」に向けての大きな歩みが始まっている。 (編集部・坪池、江坂)

●ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017
[会期]2017年5月27日~2018年1月下旬
※発表「不思議の森の大夜会」は10月7日~9日
[会場]象の鼻テラス、象の鼻パーク、横浜ラポール、横浜市内各所
[主催]横浜ランデヴープロジェクト実行委員会、特定非営利活動法人スローレーベル
[共催]横浜市

*2010年に右脚に悪性線維性組織球種が見つかり、右下肢機能全廃という障がいを抱える。11年、象の鼻テラスで展開する福祉施設と連携したものづくり「横浜ランデヴープロジェクト」のディレクターに就任。手づくりの雑貨ブランド「スローレーベル」設立。14年に横浜市とともに「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を開始。ワークショップなどで多様な人との協働を学ぶ「スローアカデミー」、障がいのあるパフォーマーに表現の機会を提供し、支援者(アクセスコーディネーター、アカンパニスト)を育成するためのプラットフォーム「スロームーブメント」を立ち上げ。16年のリオ・パラリンピックでは大会旗継式のステージアドバイザーも務めた。

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