一般社団法人 地域創造

地域創造フェスティバル2017報告

地域創造フェスティバル2017報告
2017年8月1日~3日

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左:共通シンポジウム「高齢社会における公立文化施設の取り組みについて」
右:おんかつ支援プレゼンテーションの様子。白石光隆さん(ピアノ)と小川正毅さん(ホルン)のプレゼンでは、漏斗を使ったビニール管ホルンで金管楽器の難しさを体験

 今年で10回目となる地域創造フェスティバルは、地域創造の事業紹介とともに、公立ホールを運営する上で参考となる情報提供を行うこと、ネットワークをつくる場を提供することを目的としています。なかでも特徴となっているのが、おんかつ支援登録アーティストとダン活登録アーティストの実演によるプレゼンテーションで、今年は計66組がその実力を披露しました。
 そのほか、調査研究成果を踏まえたシンポジウム、近年の公立ホールを取り巻く動向を紹介するセミナー、音楽アウトリーチや現代ダンスに取り組みたい会館向けの各種セミナーが行われ、連日、アーティストや関係者との情報交換会も催されるなど、地域創造のネットワークを総動員したプログラムとなりました。
 また、今回は、地域創造理事でもあるピアニストの仲道郁代さんが芸術監督となって立ち上げたフォーラム事業「音楽がヒラク未来」(*)とタイアップしたシンポジウムが行われるなど、新たな試みもありました。開催にご協力いただきました関係者の皆様、全国から来場してくださいました公立ホールの皆様には、心よりお礼申し上げます。

テーマは“高齢社会”

 共通シンポジウムでは、地域創造が平成28年度に実施した「高齢社会における公立文化施設の取り組みに関する調査研究」(左欄参照)がテーマになりました。まず、調査を担当した大澤寅雄さん(ニッセイ基礎研究所)が公立文化施設に行ったアンケート結果や有識者による座談会での意見を報告。高齢者事業の目的は、文化・生涯学習・余暇活動が主であり、社会的孤立の防止や介護予防を掲げるところは限られているといった傾向などが紹介されました。
 それを受けて、パネリストによる事例紹介とディスカッションが行われました。そのひとりが熊本県立劇場で高齢者事業を展開してきた嶺浩子さんです。同劇場では、演劇のアウトリーチ事業をきっかけに、地元の関係機関と連携して地域の課題解決を行う「地域をむすぶアートプロジェクト」を立ち上げ、2014年から高齢者向け事業をスタート。熊本保健科学大学などと連携し、介護系学生や作業療法士向けの研修会、ワークショップを行うとともに、特別養護老人ホームなどでのアウトリーチを行ってきました。
 また、おんかつ登録アーティストとして数多くの高齢者施設でのアウトリーチを行ってきたピアニストの白石光隆さん、長年にわたってアーティストを派遣する高齢者アート・デリバリー事業を行ってきたNPO法人芸術資源開発機構(ARDA)の三ツ木紀英さん、地域に開かれた多世代交流拠点「世田谷中町プロジェクト」を立ち上げた東京都市大学准教授の坂倉杏介さんがそれぞれの取り組みを紹介。「大学と連携して演劇ワークショップの手法を使って介護職員の育成をしていけるような仕組みづくりが必要」「アート・デリバリーによっていきいきしたお年寄りに触れ、介護職員が癒される」「(高齢者だけではなく)すべての世代が自分のもっているものを他の人のために使うというサービスデザインの観点でコミュニティが提供してきたメニューを見直すべき」「文化施設はいろいろな人が集まっていろいろなことを考えられるオープン・イノベーションができる場になる可能性がある」など、さまざまな観点からの意見交換が行われました。

平成28年度「高齢社会における公立文化施設の取り組みに関する調査研究」報告書のご案内
この調査研究は、高齢者を意識した多様な事業を展開している公立文化施設を対象に具体的な取り組み事例などを調査し、高齢社会に向けて全国の地方公共団体や公立文化施設の今後の文化・芸術面での事業計画の参考となる情報資料などを提示することを目的として企画されたものです。
高齢者福祉や公立文化施設等に関する専門家座談会や公立文化施設へのアンケート調査の実施、そして全国5カ所の関係施設等での現地調査を行い、その結果を整理して報告書にとりまとめました。報告書は当ウェブサイトからも閲覧・ダウンロードが可能です。
https://www.jafra.or.jp/library/report/

事例から学ぶ「ダン活のススメ」

 来年度のダン活に参加する会館を対象にした全体研修会の一環として、ダンス事業の可能性を知っていただくための事例紹介セミナーが公開で行われました。今回は、平成27年度の要綱変更により応募が可能となった都道府県・政令市として初めて県立ホールでの実施となった島根県民会館と、八尾市文化会館プリズムホールの取り組みが紹介されました。
 県立施設として県域でダンスのアウトリーチや神楽とのコラボレーションなどの館外活動を行ったことのある島根県民会館では、障害者差別解消法が整備されたことに伴い、今回はじめて視覚障害者向けのワークショップを企画しました。
 担当の福間一さんは、「障害のある人に県民会館を利用する場所として感じてもらえるためにどうすればいいかと考えていました。できるかどうかわからなかったので、まず、下見の時にアーティストの田畑真希さんに会ってもらい、体験してもらった上で実施を決めましたが、お互いのことを知りあうとても貴重な機会でした。参加者からは、『盲導犬歩行の汗とダンスの汗は違う。心の緊張がとれた汗だった』など、素晴らしい感想をいただきました」と振り返っていました。
 また、舞踏家の田村一行さんと事業を行ったプリズムホールでは、「180分間舞踏入門」というワークショップを行い、参加者15人(うち60歳以上の女性11人)が公演に出演。八尾らしい作品として河内音頭なども取り入れたパフォーマンスを行いました。今年度実施館からダン活の要綱が改変され、アウトリーチとワークショップを行うAプログラム、市民参加作品の創作を行うBプログラム、作品の公演を行うCプログラムから選択できるようになったので、こうした市民参加事例も参考になったのではないでしょうか。

アーティストの多彩なプレゼンテーション

 ダン活プレゼンテーションには、初めての登録となる中村蓉さんと長井江里奈さんが登場。誰かの思いの込められた場所で踊り、映像作品をつくるプロジェクトを行っている中村さんは、トイレを必死で我慢するときのように全身全霊で何かになり切ってみるというワークショップで会場を沸かせていました。また、ダンサー・音楽家・造形作家などが参加する「山猫団」を率いる長井さんもマイムや音楽を使った遊び心のあるパフォーマンスを披露しました。
 また、おんかつでは経験豊かなベテランがそれぞれの持ち味を生かしたプレゼンテーションを展開。楽器の音色に耳を澄ませてもらうため暗闇の中で演奏したり、伴奏者とのコラボレーションや大曲への挑戦や新しいアウトリーチプログラムにより音楽家としての成長をアピールし、また、学校で演奏している定番曲やワークショップの再現でアウトリーチへの思いを語るなど、それぞれに工夫したパフォーマンスが続きました。

 

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左:音楽がヒラク未来 in 地域創造フェスティバル
右:ダン活プレゼンテーション。中村蓉さんによるワークショップのデモンストレーション

地域創造フェスティバル2017 プログラム

1日目(8月1日)
共通シンポジウム「高齢社会における公立文化施設の取り組みについて」
[調査報告]大澤寅雄 [モデレーター]吉本光宏 [パネリスト]嶺浩子、白石光隆、三ツ木紀英、坂倉杏介
ダン活プレゼンテーション
セレノグラフィカ、北尾亘、中村蓉、田村一行、長井江里奈、鈴木ユキオ、東野祥子、田畑真希
音楽アウトリーチセミナー 入門・発展コース共通ワークショップ [講師]北村成美
都道府県・政令市課長会議
おんかつ支援プレゼンテーション 白石光隆/中川賢一/佐々木京子/新居由佳梨(ピアノ)、北島佳奈(ヴァイオリン)、長谷部一郎/奥田なな子(チェロ)、岩間丈正/岩佐和弘/森岡有裕子(フルート)、藤田旬(ファゴット)、小川正毅(ホルン)、加藤直明(トロンボーン)、渡邊史(ソプラノ)、村上敏明(テノール)、吉川健一(バリトン)、浜まゆみ/大熊理津子(マリンバ)、前田啓太(打楽器)、松尾俊介(クラシック・ギター)、Dual KOTO×KOTO(箏デュオ)、QuartetSPIRITUS/Quatuor B(サクソフォン四重奏)
2日目(8月2日)
音楽アウトリーチセミナー 入門コース基礎ゼミ「アウトリーチとは」「おんかつでの事例紹介」/発展コース応用ゼミ「自己紹介と発展基礎」「事例紹介と広報計画」 [講師]小澤櫻作、丹羽徹、花田和加子、山本若子、三浦幸恵
ダン活セミナー「ダン活のススメ」
[講師(ダン活実施団体)]井上恵理子(八尾市文化会館プリズムホール)、福間一(島根県民会館)
[ダン活コーディネーター]佐東範一、志賀玲子、平岡久美
公共ホールを取り巻く近年の動向─芸術創出の「場」を考える─ [講師]草加叔也
おんかつ支援プレゼンテーション 久保田葉子/今野尚美/新崎誠実/泊真美子/岩崎洵奈(ピアノ)、礒絵里子/早稲田桜子/瀧村依里/松本蘭(ヴァイオリン)、加藤文枝(チェロ)、吉岡次郎(フルート)、大石将紀(サクソフォン)、高見信行(トランペット)、喜名雅(テューバ)、大森智子/乗松恵美/廣田美穂(ソプラノ)、菅家奈津子(メゾソプラノ)、黒田晋也(テノール)、ヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン)、野尻小矢佳(パーカッション&ボイス)、塚越慎子(マリンバ)、福島青衣子(ハープ)、デュエットゥ かなえ&ゆかり/ピアノデュオ ドゥオール(ピアノデュオ)、Buzz Five(金管五重奏)、BLACK BOTTOM BRASS BAND(ブラスバンド)
3日目(8月3日)
音楽アウトリーチセミナー 入門・発展コース共通ゼミ「事業計画」/発展コース応用ゼミ「グループディスカッション」[講師]小澤櫻作、丹羽徹、花田和加子、山本若子
地域創造助成要綱説明会/リージョナルシアター事業説明会
おんかつ支援プレゼンテーション 高橋和歌(ヴァイオリン)、海野幹雄(チェロ)、田村真寛(サクソフォン)、益田正洋(クラシック・ギター)、江崎浩司(リコーダー)、片岡リサ(箏)、Duo Yamaguchi(ピアノ&チェロ)、Quintet H(木管五重奏)
音楽がヒラク未来 in 地域創造フェスティバル [パネリスト]仲道郁代、吉本光宏、津村卓、小澤櫻作

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