一般社団法人 地域創造

ステージラボ高知セッション報告

ステージラボ高知セッション報告
2017年7月4日~7日

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写真
左上:ホール入門コース「廃材と循環するモノ・コト・ヒト」(廃材すごろくの様子)
右上:自主事業Ⅰ(音楽)コース「ワークショップゼミ:音楽の姿発見① 糸の音と技」(二胡奏者の鳴尾牧子さん)
左下:自主事業Ⅱ(舞台芸術)コース「舞台芸術は消えゆく伝統を救えるのか?」(和紙づくりに挑戦)
右下:共通プログラム「ペーパームーン・パペット・シアター 新作人形劇『和紙を透かして』(インドネシア)─共同制作体験─」

 今回はホール入門、自主事業Ⅰ(音楽)、自主事業Ⅱ(舞台芸術)の3コースが開講されました。会場となったのは、平成11年度に次いでラボ2度目の開催となる高知県立美術館です。約400席のホールを併設し、海外カンパニーを招聘するなど四国におけるコンテンポラリーダンスの拠点としても知られています。共通プログラムでは、アーティスト・イン・レジデンス事業で滞在中だった「ペーパームーン・パペット・シアター」(インドネシア)のマリア・トリ・スリスチャニさんらによる新聞紙を使った人形づくりとパフォーマンスのワークショップも行われました。
 公立ホールをめぐる環境や制度が目まぐるしく変わる中、今回のラボでは、実務的な研修プログラムというより、創造活動の本質や地域という社会関係の中で行うことの実像にふれるゼミが多く組まれ、刺激的なラボとなりました。

 

●自主事業Ⅰ(音楽)コース
 音楽コースのコーディネーターを務めたのは、昨年退任するまで長年にわたり南城市のシュガーホール芸術監督を務めてきた作曲家の中村透さんです。はじめに、受講生は地元のまちの印象深い音楽シーンを発表し、各々の問題意識をもって、2日目、3日目の丸2日にわたり演奏家とがっぷり四つに組んだコラボレーションにチャレンジしました。
 2日目は二胡奏者の鳴尾牧子さんとチェロ奏者の井尻兼人さんを招き、それぞれの楽器について歴史・構造・奏法・響きなどを詳しく学習。それを踏まえて、楽器別のチームに分かれ、美術館に収蔵されているシャガールの絵などからイメージしたシーンを演奏家と協力しながら言葉と音楽で表現する創作体験が行われました。
 3日目は歌三線奏者の大城貴幸さんのチームが河童の民話などをモチーフに、ピアニストの前田克治さんのチームが谷川俊太郎の詩などをモチーフに、音楽シーンづくりに挑戦しました。発表では、音だけで世界を体感してほしいと、聴衆を後ろ向きにしたブラインドパフォーマンスが行われるなど、演奏家と受講生が一体となって創意工夫した2日間となりました。

 

●自主事業Ⅱ(舞台芸術)コース
  舞台芸術コースでは、神戸市長田区で公設民営のダンス専門劇場「Art Theater dB神戸」を運営するNPO法人DANCE BOX理事長・エグゼクティブディレクターの大谷燠さんがコーディネーターを務めました。DANCE BOXでは、コンテンポラリーダンス事業だけでなく、地域を巻き込んだ「みんなのフェスティバル」などアートによるまちの活性化に力を入れています。
 今回はまず、ダンスに馴染みのない受講生に対し、舞踊評論家の乗越たかおさんを講師に招いた4時間にわたる講義が行われました。世界の最先端のダンス映像を次々に流しながら、“コンテンポラリーダンス”の固定概念を取り払う切り口で解説。「ダンスがアートとして人生の真実を伝えるものだとしたら、美しいものだけを見せるのがダンスではない…新しいダンスとして変わった動きをどうつくり出すかに希望をもった時期があったが、これは勘違いだった。時に魅力的なダンスが新しく見えることがあるが、ヒップホップのヘッドスピンもボードビルの中にすでにあったもの。新しさを求めるのではなく、魅力的なダンスとは何かに視座を置いて考えるべきだ」など、示唆に富んだ講義が続きました。
 受講生が3日目に向かったのは、高知市内から車で1時間半、和紙で有名ないの町です。こうぞ刈り、和紙漉き、和紙を衣装や美術で用いている地元パフォーマーへのヒアリング、「小さい学校だからできること」を合い言葉にコミュニティ・スクールとして活性化に取り組んでいる神谷小中学校など、文化芸術が地域社会とともにあることの意味に向き合いました。
 最終日には、ダンスを地域の活性化に生かしている具体例として、八戸市の「南郷アートプロジェクト」も紹介され、色々な可能性を感じた研修となりました

 

●ホール入門コース
 ホール入門コースのコーディネーターを務めたのは、倉敷市玉島で廃材を活用するクリエイティブリユースの拠点「IDEA R LAB」を運営する大月ヒロ子さんです。クリエイティブリユースとは、日常的に生み出される廃材をクリエイティビティ(創造力)により生まれ変わらせる取り組みのこと。廃材を新たな資源として評価するだけでなく、廃材の宝庫である地域のものづくりの現場と繋がり、コミュニティに働きかける手段としても注目されています。
 まず、受講生は、LABが考案した「廃材カード」(色々な廃材の写真を掲載したトランプカードのようなもの)を使ったイマジネーションゲームを行い(*)、廃材の不思議な魅力と可能性について体感しました。そして3日目には、「仕事の道具」を通じて地域や文化にアプローチするワークショップを行っている岡亜希子さん(NPO法人体験学習研究会プログラムコーディネーター)と共にまち歩き。ものづくりの現場(仕立て屋、和紙工房、彫金工房、石材店など)や、高知県立美術館の仕事人(学芸員、警備員、照明スタッフ、アーティストなど)を訪ね、「仕事の道具」を切り口にインタビューを行い、広報誌としてまとめて発表しました。
 磨がれて刃が短くなった洋裁包丁、3代にわたって使い継がれている和紙漉き用のハケ、学芸員の必需品であるLEDペンライト、妻からもらったポーチを使い続けている警備員さんなど、こうした道具への思いを通じて「仕事とは?」「ものづくりとは?」「地域とは?」を原点に立ち返って考える貴重な機会になりました。

*基本ルールは、親が手持ちのカードから1枚を選んで出し、カードを伏せたままその廃材のイメージを言う。子は自分の手持ちの札からそのイメージに一番近いものを伏せて出し、場に出された札をシャッフルして表にし、その中から親の出したカードを当てるというもの。

 

●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
大月ヒロ子(有限会社イデア 代表取締役/国立歴史民俗博物館 客員准教授)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
中村透(作曲家/芸術文化学博士/琉球大学名誉教授/(一財)地域創造顧問
/前南城市文化センターシュガーホール芸術監督)
◎自主事業Ⅱ(舞台芸術)コース
大谷燠(NPO法人DANCE BOX 理事長・エグゼクティブディレクター/神戸アートビレッジセンター館長)

 

ステージラボ高知セッション プログラム表
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