図書館をまちづくりに生かす─。そんな「まちなか図書館」「まちじゅう図書館」の取り組みが広がりを見せている。「世界を広げ、まちづくりに繋げる“知と交流の創造拠点”」をコンセプトに掲げ、3年後の開館を目指す豊橋市まちなか図書館(仮称)もそのひとつだ。プレイベントにも力を入れ、6月11日に「まちじゅう図書館キックオフイベント in 雨の日商店街」が開催された。その模様と「まちなか図書館」への期待を取材した。
イベントの会場となったのは、豊橋駅から徒歩5分、駅と直結する「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」からも建物が見える通称「水すいじょう上ビル」の一画にあるレトロな大豊商店街だ(*1)。
最盛期は60店舗が営業していたが、現在は老舗の花火屋やたばこ屋などが商売を続ける一方、半数近くが空き店舗になっている。その活性化を目的として2004年からアートイベント「sebone」(*2)を実施。加えて14年から始めたのが「雨の日商店街」(大豊協同組合主催)だ。「閉めたままにしておくと人にも貸しづらくなるので、商店街のイベントがない梅雨時に空き店舗とアーケードを開放し、アンティークショップやコーヒーショップなどに出店してもらう2週にわたる週末だけの雨の日商店街を考えた」と大豊組合代表理事で建築家の黒野有一郎さんは話す。今回も約30軒が出店し、普段は人通りの少ない商店街に多くの市民が訪れていた。
図書館がこの商店街向いの再開発エリアに建設されることから、まちじゅう図書館プロジェクトも空き店舗に「まちなかライブラリー」を出店し、新図書館の情報を提供するとともに、商店主たちの選んだ本を展示。また、各地で本を媒介にした新たな「つなぎ場」づくりを実践しているナカムラクニオさん(*3)とseboneの仕掛け人でもある黒野さん、PLAT芸術文化プロデューサーの矢作勝義さんによるトークライブ「『本のあるまち』のつくり方」を行った。
使われなくなった電話ボックスを図書館にするプロジェクト、米国発祥で世界に広がっている自宅前に設置するマイクロ・ライブラリー、古書店の町として再生したウェールズのヘイ・オン・ワイの取り組みなど、ナカムラさんが紹介する刺激的な事例に市民は熱心に耳を傾けていた。トークライブの後、小説執筆ワークショップも行われ、小学生からシニアまで15人の参加者が3時間で大豊商店街の歴史に触発された素敵なショートストーリーを書き上げていた。
ナカムラさんは、「今やデジタル本などもあって、本という概念が拡張している。同時に、本はただの紙の束ではないことに人々は薄々気づき始めた。人と人を繋ぐ力など、本がもつモノとしての力が再認識され、本や図書館がまちづくりで取り上げられることが多くなった。本を媒介に人と人が出会い、知識を提供しあうことが、これからの図書館には求められている」と指摘。また黒野さんは、「今やアートであれ音楽であれ、どんどんまちに出て、得意なパートで地域と関わろうとしている。豊橋のまちなか図書館も、本を介して人が集まれる場をつくろうとしていて、商店街の活性化に繋がるのではないか」と期待をにじませる。
豊橋市では、「文化のまち」づくり課を設置し、「文化がみえるまち」づくりを推進するとともに、中心市街地活性化計画により多世代交流施設「こども未来館」(2008年)、PLAT(2013年)を開設。また、「ええじゃないか豊橋音祭り」や大道芸による「豊橋アートフェスティバル」などのまちなか回遊イベントにも力を入れてきた。新図書館の整備を担当する都市計画部まちなか図書館整備推進室の伊藤紀治室長は、「図書館はただ本の貸し出しをするところではなく、これからは社会やまちと関わる起点になっていく。中央図書館とは別に中心市街地に開設するまちなか図書館の使命は、本を介して市民が集い、人やまち、社会と出会う市民の交流拠点、活動拠点になることだと思う。さまざまな分野の講座を開くなど、社会の課題の解決に繋がるような環境をつくり、図書館に人のネットワークをつくっていきたいと考えている」と話す。
“まちなか”をキーワードにこれまでの枠組みを越えて施設、イベント、人が繋がる新生豊橋市のシンボルとなる新図書館─3年後の開館が楽しみだ。
(田中健夫)
●豊橋市まちなか図書館計画概要
「豊橋駅前大通二丁目地区 第1種市街地再開発事業」(地区面積1ha)により、再開発ビル(東棟、西棟)と広場(仮称まちなか広場)を整備。東棟の2階の一部と3階に新図書館(施設規模4,000㎡以内)を開設し、館内を「発見する」「学ぶ」「集う」「交流する」「くつろぐ」の5機能で構成する。蔵書は約10万冊を予定。開館後の運営では、特定分野についての専門的な知識をもつ「ソムリエ」を配し、館内外で実施するイベントやセミナー、講座等の企画・実施などにあてる予定。また、実施する事業として、素案では「大人の部活動」「出張まちゼミ」「放課後クラブ活動コンテスト」「クリエイティブ系ワークショップ」「起業支援セミナー」などが挙げられている。
*1 800メートルにわたって暗渠化した農業用水路上に蛇行した低層棟が並ぶ水上ビルは、昭和30年代末~40年代初頭に建設された豊橋市の名物ビル。ビルの両側が道路に挟まれていることから、建物の両側にアーケードがあるのが特徴。大きく3棟に分けられ、大豊商店街は2棟目で1階が店舗、上が住居という職住一体型。
*2 水上ビルや穂の国とよはし芸術劇場PLATなどを会場に開催されている現代アートイベント。2004年、大型百貨店の撤退などで中心市街地が衰退するなか、地元有志や豊橋技術科学大学の学生などで第1回が行われ、今年で14回目となる。
*3 フリーの映像ディレクターを経て、2008年、東京・荻窪にブックカフェ「6次元」を開業。まちづくりの一環として、空きスペースに図書館をつくるプロジェクトや、まちを小説化するワークショップ「ブックトープ」プロジェクトなどを各地で実施。