新宿からJR中央線で26分。人口18万人の立川市は「にぎわいとやすらぎの交流都市 立川」を掲げ、2012年には旧庁舎跡施設を「立川市子ども未来センター」としてリニューアルするなど、既存の資源を有効活用した交流拠点の整備を進めている。
その最新プロジェクトが、旧多摩川小学校を活用し、15年にオープンした「たちかわ創造舎」だ。運営を担っているのが、豊島区の廃校を活用した「にしすがも創造舎」の実績をもつNPO法人アートネットワーク・ジャパンで、16年には立川市・立川市地域文化振興財団とともに「立川シアタープロジェクト」をスタート。12月23日、24日にたましんRISURUホールで上演されたその第1回公演『音楽劇 アラビアンナイト』を取材した。
『音楽劇 アラビアンナイト』 写真提供:たちかわ創造舎 |
このプロジェクトは、アーティストに活躍の場を提供し、たちかわ創造舎で創り、立川市内のホールやまちなかで上演して地域の賑わいづくりに貢献するというものだ。その中のひとつが毎年クリスマス時期に上演する「子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台」シリーズで、演劇鑑賞により世代を超えた豊かな文化体験とコミュニケーションを創出することを目指している。
そのキーパーソンであり、今回の台本・演出を担当したのがたちかわ創造舎チーフ・ディレクターの倉迫康史(Theatre Ort主宰)だ。2007年からにしすがも創造舎で開催されてきた、としまアート夏まつり「子どもに見せたい舞台」シリーズの演出を手がけてきた。今回の『アラビアンナイト』では、舞台中央に巨大なベッドを設置し、そこから俳優たちが飛び出しながら、王妃シェヘラザードが王様に物語を聞かせたように、客席の親子に寝物語として「アリババと40人の盗賊」などのストーリーをパーカッションの生演奏に乗せて伝えていた。1階客席は親子連れで溢れ、2日合わせて約1,300人が来場する盛況ぶりだった。こうした潜在的な観客層の存在について、倉迫は、「市が宣伝に力を入れてくれたお陰だが、1年目でこれほど来ていただけるとは思わなかった」と驚く。
岡本珠緒立川市地域文化課長は、「毎年1本ずつ質の高い作品を創作し、家族揃ってクリスマスに観劇することを立川の風物詩にしたい。そして多摩地区、全国、世界へと発信していきたい」と期待する。
立川市では2015年度に第3次文化振興計画を策定し、「さまざまな文化芸術が息づき、誰もが楽しめるまち」を目標に掲げており、立川シアタープロジェクトもその一環として位置づけられている。「市内ではさまざまな文化活動が行われているが、相互に結びつけて発信できないことが課題だった。演劇は他ジャンル・他分野とも親和性が高い。倉迫さんたちが積極的に交流を図ってくださり、たちかわ創造舎のオープン以降、色々な連携事業が始まっている。市としてもこの流れを推し進め、地域の活性化に繋げていきたい」と岡本課長。
対する倉迫も、「今後は商店街や地元企業などとも連携しながら、まちを劇場化していきたい。たちかわ創造舎という創作環境と上演場所としての街中を繋いで、全世代に演劇を届けたい。たちかわ創造舎が多摩地区の広域拠点になれるよう取り組んでいきたい」と抱負を語る。
立川シアタープロジェクトでは創客にも力を入れており、今回もRISURUホール向かいの子ども未来センターで、11月から4回にわたって「『アラビアンナイトの世界を知る』レクチャー&ワークショップ」や「出張!放課後シアター『アラジンと魔法のランプ』」を実施し、いずれもほぼ満員となった。ちなみに放課後シアターは、児童文学の名作を大人と子どもに「よみしばい」(=「読み聞かせ」+「お芝居」)の形で上演する試みで、たちかわ創造舎で16年6月から毎月1.2度のペースで実施してきた。毎回20.50人の観客が集まり、大人が子どもに観劇を寄付できる「あしながチケット」も発売されている。このチケット制度により、子どもたちは毎回無料で観劇できているという。
都心から少し離れたこの地域で、こうした街ぐるみの取り組みにより演劇文化がどのように根づくのか。これからの展開が楽しみだ。
(横堀応彦)
●たちかわ創造舎
2004年に廃校となった旧多摩川小学校は、06年から「たまがわ・みらいパーク」として市民が中心となり一部を市民活動拠点として活用(現在も継続)。未使用部分を河川敷の立地を生かしたサイクル・ステーションなどを含めた有効活用を目指して、市が民間の運営団体を公募。13年ににしすがも創造舎の運営を手がけるNPO法人アートネットワーク・ジャパンが優先交渉権者に選定され、2年間の準備を経て15年9月にオープン。A棟・B棟・体育館から成り、「インキュベーション・センター事業(アーティストのシェアオフィス事業)」「フィルムコミッション事業(旧校舎を撮影場所としてレンタルする収益事業)」「サイクル・ステーション事業(NPO法人日本自転車環境整備機構が企画・運営を担当)」の3事業を柱としている。「これからは地域交流を創出するコミュニティ・デザイン事業が4本目の柱になっていく」と陽茂弥チーフ・マネージャー。現在、6人の職員と10数人のアルバイトスタッフによって運営されている。
[所在地]〒190-0013 東京都立川市富士見町6-46-1
http://tachikawa-sozosha.jp
●立川シアタープロジェクトpresents
子どもとおとながいっしょに楽しむ舞台vol.1『音楽劇 アラビアンナイト』
[会期]2016年12月23日、24日
[会場]たましんRISURUホール 大ホール
[台本・演出]倉迫康史(Theatre Ort/たちかわ創造舎チーフ・ディレクター)
[主催]立川シアタープロジェクト実行委員会(立川市・立川市地域文化振興財団・たちかわ創造舎)
*2017年1月20日~22日には吉祥寺シアター(東京都武蔵野市)でも公演