地域創造では「公共ホール等活性化支援事業」として、音楽・ダンス・演劇・邦楽・美術の各ジャンルで地域と連携した事業を展開しています。例年、秋口から各地での事業が本格的に始まりますが、今年度は「公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)」が全国17地域、「公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)」が全国8地域で行われます。平成28年度のおんかつは大分県九重町、ダン活は広島市の取り組みをレポートします。こうした各地の事業は、当ウェブサイト(http://www.jafra.or.jp/j/guide/schedule/index.php)でスケジュールを紹介していますので、近くで行われる事業をぜひ視察していただければと思います。
●チェロ×声楽×ピアノのアンサンブルが実現~九重文化センター
「おんかつ」は公共ホールとクラシック音楽のアーティストが、お互いにアイデアを出し合い、その地域ならではのアクティビティ(地域交流プログラム)とコンサートを共同で企画・実施する事業です。
町の多くがくじゅう連山に連なる阿蘇くじゅう国立公園に指定されている大分県九重町(ここのえまち)の九重文化センター。おんかつには平成23年度のQuatuor B(クワチュール ベー)に続き、2度目の応募となります。今回は、9月30日から10月2日まで、加藤文枝さん(チェロ)、ヴィタリ・ユシュマノフさん(バリトン)、山田剛史さん(ピアノ)という珍しい組み合わせで、南山田小学校へのアウトリーチと、地元コーラスグループ「コールやまなみ」および若手まちづくりグループ「タナー」との地域交流プログラムが実施されました。
1回目の事業も担当した後藤大さん(九重町役場社会教育課)は、「1回目の時はおんかつ支援事業も行う予定でしたが、演奏家の急病というアクシデントで実現できませんでした。小学校へのアウトリーチを継続したくて、平成26年度から大分県芸術文化短期大学に委託して教育者や学生、地元演奏家による楽器体験、美術などのアウトリーチを行っています。今回は、改めて、音楽を職業としている方の演奏や生き方にふれる機会を提供したいと思い、応募しました。田舎にいると価値観が小さくまとまりがちです。でも、知らないものは存在しない、関係ないのではなく、演奏家という自分たちとは異なる生き方をしている人と触れ合うことで世界が広がる、そういう機会を提供し続けることが必要だと思っています」と話します。
南山田小学校は全児童合わせて88人の山間の小学校で、今回は1年生から3年生までの45人と4年生以上の43人に分けて、アクティビティが行われました。担当の恒藤教頭先生が九重文化ホールで行われるコンサートのポスターを掲げ、子どもたちに演奏家を紹介。「チャイコフスキー:ただ憧れを知る者だけが」でチェロとヴァリトンという珍しい組み合わせのアンサンブルを披露した後、加藤さん、ヴィタリさんがそれぞれ「イメージする」をテーマにアクティビティを行いました。
ロシア生まれで、ドイツで音楽を勉強し、現在は日本で活動するヴィタリさんは、ロシア民謡やオペラ歌曲を原語で披露し、歌から受け取ったイメージについて日本語で交流。「歌曲は短い時間でストーリーを伝えなければならないので、言葉では言えない気持ちを伝えてくれるピアノ伴奏も大切です」とヴィタリさん。また加藤さんは、低学年とは音楽のイメージを絵にするワーク、高学年とは音楽のイメージにピッタリの名画を選ぶワークを行いました。子どもたちからは、「今日は(演奏家と)コミュニケーションがあって参加できたので、距離を感じなかった。知らない音楽だったからイメージがどんどん広がった」という感想が聞かれるなど、素敵な出会いになりました。
●平成28年度「公共ホール音楽活性化事業」参加団体(主会場/アーティスト)
・平川市(平川市文化センター/岩崎洵奈)
・日立市(日立シビックセンター/塚越慎子)
・吉川市(吉川市民交流センターおあしす/塚越慎子)
・美里町(美里町遺跡の森館/岩崎洵奈)
・宮代町(宮代町立コミュニティセンター進修館/福川伸陽)
・鎌ヶ谷市(きらり鎌ヶ谷市民会館/岩崎洵奈)
・文京区(文京シビックホール/坂口昌優)
・滑川市(滑川西地区コミュニティホール/塚越慎子)
・韮崎市(東京エレクトロン韮崎文化ホール/喜名雅)
・須坂市(須坂市文化会館/ヴィタリ・ユシュマノフ)
・関市(関市文化会館/喜名雅)
・城陽市(文化パルク城陽/加藤文枝)
・王寺町(王寺町文化福祉センター /塚越慎子)
・上富田町(上富田文化会館/坂口昌優、加藤文枝)
・安来市(広瀬中央交流センター/ヴィタリ・ユシュマノフ)
・小松島市(小松島市ミリカホール/福川伸陽)
・九重町(九重文化センター/加藤文枝、ヴィタリ・ユシュマノフ)
●公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ
芸術環境部 阿比留・水上
Tel. 03-5573-4069
onkatsu*jafra.or.jp(*を@に変えてご利用ください)
●ワークショップ参加者が公演に出演~JMSアステールプラザ
「ダン活」はホールとアーティストが共同で企画し、地域交流プログラム(アウトリーチと公募型ワークショップ)と公演を実施する事業ですが、来年度からは地域のニーズによって「地域交流」「市民参加作品創作」「公演」が選択できる枠組みに変わります。
今年度は現制度による最後の事業となり、トップバッターは、昨年度から広島に本社を置く医療機器メーカーがネーミングライツを取得し改名した広島市のJMSアステールプラザ。9月12日から18日まで、北尾亘さんによる小学校へのアウトリーチ、ダンス・演劇等舞台経験者を対象にした公募型ワークショップ、そしてその参加者も出演した公演『KUTSUKUZU』が行われました。
アウトリーチ先の中島小学校はホールに隣接し、子どもたちは毎年社会科見学でホールを訪れています。今回は、3年生3クラス(各25人)を対象に、クラス別にワークを行いました。北尾さんは、バレエやヒップホップ、タップなどさまざまなダンスを紹介したあと、「こういうみんなが知っているダンスとはちょっと違うけど、体のいろいろな部分を動かして遊んでみよう」と誘い、子どもたちは風にゆられるように身体を動かしたり、1本足から2本、3本、4本、5本と足が増えていくお題に対して最初は戸惑いながらもすぐに発想を転換させ、身体のいろいろな部分を使って動き回ったりしました。そしてハイタッチ遊びからリズムを考えて身体を動かすことを体験し、最後は音楽を入れてダンス。「ふだんノリの悪い子どもが楽しんでいた」「こうした創作はこれからもっと求められるようになるが、苦手な教員も多く、専門家に来てもらえるのはありがたい」「身体を使った新しい楽しみ方が発見できた」と先生たちにも好評で、今後も継続してほしいとの声が聞かれました。
公募型ワークショップには高校生から50歳代までの16人が参加し、その中から11人が公演に出演しました。北尾さんは、「僕自身、いろんなダンスの側面・要素のようなものを模索しながらダンスをしています。そうやって知らないカラダに出会えたり、知らない感覚に出会えることがとても楽しい。その一部でも伝えられれば」と話していました。
アステールプラザでは、平成19年度から毎年、近藤良平さんによる市民参加創作ダンスの発表を行っており、今回のワークショップには、そちらに関わっている若手ダンサーも参加していたため、新しいアーティストとの出会いは刺激になったのではないでしょうか。
●平成28年度「公共ホール現代ダンス活性化事業」参加団体(主会場/アーティスト/日程)
・広島市(JMSアステールプラザ/北尾亘/9月12日~18日)
・福岡市(福岡市立中央市民センター/東野祥子/10月11日~17日)
・飯山市(飯山市文化交流館なちゅら/田村一行/11月14日~20日)
・岩見沢市(まなみーる岩見沢市民会館・文化センター/北尾亘/11月15日~21日)
・島根県(島根県民会館/田畑真希/2017年1月17日~23日)
・八尾市(八尾市文化会館プリズムホール/田村一行/1月24日~30日)
・神戸市(神戸文化ホール/伊藤キム/2月6日~12日)
・川西市(川西市みつなかホール/北尾亘/2月27日~3月5日)
●「公共ホール現代ダンス活性化事業(ダン活)」に関する問い合わせ
芸術環境部 栗林・湯澤
Tel. 03-5573-4055・4077
dankatsu*jafra.or.jp(*を@に変えてご利用ください)