一般社団法人 地域創造

香川県高松市 高松市美術館 特別展「ヤノベケンジ シネマタイズ」

 島々を舞台にした大型アートプロジェクト「瀬戸内国際芸術祭2016」の夏会期中、お膝元の高松市にある高松市美術館でも意欲的な展覧会が開催されていた。「ヤノベケンジ シネマタイズ」(7月16日~9月4日)である。ヤノベは、巨大な人型ロボットや放射線に反応するセンサーを組み込んだ作品など、近未来的なストーリー性やキャラクター性のある作品を次々に発表してきた現代アーティスト。四国で初の大規模個展となる今回は、その世界観を“シネマタイズ=映画化”という視点で提示し、実際に展覧会場で映画を公開撮影するという異例な企画だ。

 撮影初日の8月29日、美術館を訪れると、無料エリアのエントランスで6メートルを超える《サン・チャイルド》と《フローラ》が出迎えてくれた。会場は2部構成で、第1部ではヤノベが放射線に関心をもち始めたサヴァイヴァル・シリーズ(1991~96年)、チェルノブイリの原発事故跡地訪問から生まれた作品を含むアトムスーツシリーズ(1997~2003年)など、現実に起こった事件に触発された作品群を図鑑のように整然と展示。そして、銀色のトンネルをぬけた先に圧巻の第二部が出現。天井を突き抜けるほど巨大な《ウルトラ─黒い太陽》が支配し、《風神の塔》が怒りにまかせて数分毎に大量の水を吐き出し、自然をないがしろにしてきた人間を嘲笑っていた。

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上・エントランスの《サン・チャイルド》(左)と《フローラ》
中:《ウルトラ─黒い太陽》
下:《風神の塔》
Photo: IFA

 そこで林海象がメガホンを取り、映画『BOLT』(主演:永瀬正敏)を撮影する様子が公開されたが、作品の重量感、完成度の高さがあいまって、現実が映画に呑み込まれるように迫ってきた。
  高松市美では、森村泰昌(2010)、大竹伸朗(2013)と瀬戸芸に合わせて現代アーティストの個展を開催してきた。担当学芸員の牧野裕二さんは、「ヤノベさんは芸術祭の一環で小豆島に作品を設置していますし、作品も親しみやすい。館の方針もあり、3回目はヤノベさんにぜひお願いしたかった」と話す。そして決まったのが“シネマタイズ=映画化”をキーワードにヤノベケンジを読み解くというコンセプトだった。
  「映画的とも言える作品の全容と、東日本大震災後の僕の態度を見せたいという思いがありました。それと、同じ京都造形芸術大学で教えていた林監督(現在は東北芸術工科大学教授)と2年前から一緒に映画を撮りたいと話していた。この2つを高松市美で同時に実現したかった」とヤノベさん。林監督も「美術館そのものを映画セットとして撮影できるのは滅多にない機会。これはおもしろい」と快諾した。
  一方で、美術館としては2つの大きな問題があった。1つ目は、ヤノベさんは放射線を扱う作品をつくってきた点。映画の内容も、原発事故に立ち向かう男たちの物語である。2つ目は美術館には大敵の水を大量に使うこと。牧野さんは「美術館内で大いに議論しました。結果として作品テーマは原発の良否を問うものではないと判断され、水に関しては万全の対策を取ろうということになりました。瀬戸芸を経験してきたことで、メッセージ性のある現代アートに対する寛容度が行政内でも高まっていると思います」と言う。
  実際の設営には通常の展示では考えられないほど膨大な作業量が必要となり、ヤノベさんが京都から連れてきた学生スタッフに加え、職員も総出で手伝った。映画撮影には林監督が教える山形からの学生も参加し、美術館は若者の熱気であふれた。
  林監督は、「映画人からするとこんなに協力的な美術館はない。電機室や搬入用エレベーターも撮影場所として使っていますし、館外シーンを撮影する建物も紹介していただいた。高松を中心とした瀬戸内全体にアートに対する支援体制がある」と言う。牧野さんも、「市民も現代アートへの親近感が増してきていると思います。今回の展示に対しても、多くの方が公立美術館で放射線や東日本大震災を扱うことを支持してくれました。見た目の楽しさだけでなく、作品の深いメッセージまで届いているのを知ってうれしかったです」と感慨深げだった。
  芸術祭が始まって7年目。地域に根ざす美術館もまた、行政や市民のアートに対する理解の深まりとともに可能性を広げているように感じた。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

●高松市美術館 特別展「ヤノベケンジ シネマタイズ」
[会期]2016年7月16日~9月4日
[主催]高松市美術館
[協力]京都造形芸術大学、東北芸術工科大学、ジャンボフェリー、クリエイティブセンター大阪、MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)、山本現代

*会場には出演俳優の永瀬正敏が東北で撮影した写真や、香川で江戸時代に治水工事で活躍した矢延平六とヤノベの活動をパラレルに紹介するプロジェクトなども展示された。

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