一般社団法人 地域創造

地域創造フェスティバル2016報告

地域創造フェスティバル2016報告
2016年8月2日~4日

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左:共通シンポジウム「地域における文化・芸術活動を担う人材の育成に関する調査研究─『文化的コモンズ』が、新時代の地域を創造する─」
右:田畑真希さんによるダン活プレゼンテーション

 

 8月2日から4日まで、東京芸術劇場を会場に「地域創造フェスティバル2016」が開催されました。おんかつ支援アーティストとダン活登録アーティストによるプレゼンテーションを中心に、おんかつのフォローアップセミナーやダン活全体研修会などを同時開催。オープニングには今日的なテーマを取り上げたシンポジウムで問題提起を行うなど、地域創造の取り組みを広く紹介するとともに、関係者の共通認識づくりとネットワークの場となることを目的としています。また、都道府県・政令市課長会議も併行して開催され、アーティストやコーディネーター、自治体職員、公立ホール職員などが活発な交流を行いました。

 

●テーマは“文化的コモンズ”の人材育成
 共通シンポジウム「『文化的コモンズ』が、新時代の地域を創造する」では、地域創造が実施している最新の調査研究の成果がテーマになりました。まず、調査を担当した大澤寅雄さん(ニッセイ基礎研究所)が、最新調査の前提となる平成24・25年度調査(報告書は当ウェブサイトからダウンロード可能)について紹介。「東日本大震災をひとつの転換点としてとらえたこの調査では、文化芸術には地域の活力を創出する能力があるが、そのためには地域の共同体の誰もが自由に参加できる入会地のような文化的営みの総体“文化的コモンズ”が必要であり、公立文化施設もその中のひとつとして積極的な役割を担うべきだという提言をまとめた」と大澤さん。
  それを受けて行われたのが、文化的コモンズを担う人材育成などについての平成26・27年度調査です。今回のシンポジウムでは調査委員会のメンバー4名と事例調査の対象になった八戸市まちづくり文化スポーツ観光部の大澤苑美さん、小美玉市政策調査課の中本正樹さんがパネリストになりました。
  委員のひとり、横浜市役所の鬼木和浩さんは、「文化的コモンズという言葉は、自治体職員が漠然と感じていたことを言い当ててくれた。市民がサービスの受け手になってしまうとまちづくりが一方通行になってしまう。住んでいる人が自ら住みたい町、いい町にしていきたいと思うのが自治であり、文化的コモンズが自治の基盤をつくると考えるようになった。横浜市では指定管理者の要綱に当該文化施設を結節点とした文化的コモンズの形成に努めると明記した。どう評価するかの課題はあるが、施設のスタッフが文化的コモンズの担い手として堂々と仕事ができる効果はあるのではないか」と発言。
  また、同じく委員のNPO法人芸術家と子どもたちの堤康彦さんは、「文化的コモンズは相当に広い概念であり、教育や福祉の側にはまだ浸透していないと思う。継続することが理解者を増やすには大切だが、文化とそうした現場を繋ぐ仕事は見えにくく、予算も付きにくい。人材が育つためにはそれなりのボリュームで現場があることが重要だと思う」と指摘されていました。
  対して調査対象の大澤さんは、「八戸市では、創造的復興をするという市長の方針の下、さまざまな事業が展開されている。その中でアートに興味がある人が掘り起こされ、嘱託という立場だが専門職員が増えている。こういう人が実際に地域と繋がれるプロジェクトをもつことが重要だと感じている」と発言され、また中本さんは、「合併によって小美玉市には3つのホールがある。それを負の遺産にせずどう生かすかという観点で、小美玉市まるごと文化ホール計画が生まれた。ホール(小美玉市四季文化館みの.れ)をまちづくりの実験場にしたいというのが市長の考え方で、今ではいろいろな人が集まって夜な夜なまちづくり会議が開かれている。これが文化的コモンズであり、まちづくりの新たな人材が育ってきていると感じている」と貴重な経験談を披露。評価や環境づくりなど課題は多いものの、文化的コモンズと人材育成の必要性について理解を深めたシンポジウムになりました。

●平成26・27年度調査研究「地域における文化・芸術活動を担う人材の育成等に関する調査研究~文化的コモンズが、新時代の地域を創造する」
○調査研究委員会委員大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役)、鬼木和浩(横浜市文化観光局文化振興課主任調査員)、真田弘彦(りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館事業課長)、篠田信子(富良野メセナ協会代表)、堤康彦(NPO法人芸術家と子どもたち代表)、藤野一夫(神戸大学大学院教授)、吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所研究理事)、渡辺弘(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団事業執行理事)
※五十音順、敬称略(所属・肩書は委員就任当時)

 

●事例から学ぶ「ダン活のススメ」
 ダン活全体研修会の一環として、公開による事例紹介セミナーも開催されました。今回は、山形県酒田市・希望ホールと福岡県中間市・なかまハーモニーホールの担当者がそれぞれの取り組みを紹介しました。
  赤丸急上昇とダン活を行った希望ホールは、行政と市民ボランティア(自主事業企画運営委員会)が協働で運営。酒田市教育委員会の小松千佳さんと委員会副委員長の佐藤みどりさんは、コンテンポラリーダンスを受け入れる土壌がないところからスタートし、当初は説明するのにも苦労したと言います。しかし、ワークショップで子どもたちの笑顔を見てから雰囲気が変化。ダン活後に事業の継続に向けて話し合い、「子どもたちの楽しい記憶を増やしたい。楽しいといったら祭りだ。それで小1から74歳まで34人がアーティストと一緒につくったダンスで酒田夏まつりのS-JINKU(アップテンポにした酒田甚句に乗せた創作ダンス)に参加し、大成功した」と小松さん。
  また、なかまハーモニーホールでは、担当の三浦康晃さんの発案により、スポーツで有名な地元高校の相撲部とコラボレーション。「相撲の決まり手はダンスにしか見えない」という田畑真希さんが廻し姿の高校生を登場させたダンスをつくりだすなど、興味深い事例紹介が続きました。

 

●アーティストの多彩なプレゼンテーション
 今年も音楽・ダンス合わせて63組ものアーティストがプレゼンテーションを行いました。ダン活は平成29年度実施館からプログラムが変わり、アウトリーチを行う地域交流プログラム、市民参加作品を創作し上演するプログラム、レパートリー作品を上演するプログラムを選択できるようになりました。プレゼンテーションでは各アーティストの作風がわかるパフォーマンスも披露され、アーティストと出会う貴重な機会になりました。
  また、おんかつでは、ベテランがそれぞれの音楽力を発揮し、新しい挑戦を披露するプレゼンテーションが目を引きました。加藤直明さん(トロンボーン)の呼びかけで結成されたTrio“N”はトロンボーン、ピアノ、ヴァイオリンという面白い組み合わせで、まるでミニ・オーケストラのような音色で可能性をアピール。また、作曲家・ピアニストの新垣隆さんと組んで現代音楽への意欲を伝えた海野幹雄さん(チェロ)など、充実したプレゼンテーションが続きました。

 

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おんかつ支援アーティストによるプレゼンテーション。
左:ゲストに新垣隆さんを迎えたチェリストの海野幹雄さん
右:加藤直明さん(トロンボーン)、中川賢一さん(ピアノ)、東海千浪さん(ヴァイオリン)によるTrio“N”
 

地域創造フェスティバル2016 プログラム
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