一般社団法人 地域創造

ステージラボ上田セッション報告

ステージラボ上田セッション報告
2016年7月5日~8日

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 写真
左上:ホール入門コース「廃材ダンス」(講師:セレノグラフィカ)
右上:ホール入門コース「リサーチ:ここにしかないモノを探す」(講師:うかぶLLC、大月ヒロ子)
左下:自主事業Ⅰ(音楽)コース「音楽ワークショップ」(講師:中川賢一)
右下:自主事業Ⅱ(演劇)コース「ワークショップを考える~体験篇」はミニ発表会をサントミューゼ交流芝生広場で行った(講師:南波圭、渡辺弘)

 今回はホール入門、自主事業Ⅰ(音楽)、自主事業Ⅱ(演劇)の3コースが開講されました。会場となったのは、2014年10月に開館したばかりのサントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)です。中庭を囲んだ半円形のユニークな建物で、本格的なコンサートや舞台芸術に対応したプロセニアム型の大ホール(1,530席)、小ホール(320席)を中心としたホール施設と上田市立美術館との複合施設となっています。クラシック音楽に力を入れ、「レジデンス・アーティスト」と名付けた協力演奏家と共に小学校へのアウトリーチや地域での出前演奏会、ホール演奏会などにトータルに取り組み、また市民参加演劇にも力を入れ、注目されています。
  共通プログラムでは、IT技術の進展により新たな課題に直面している「著作権」をテーマにした講演会が行われました。講師は内閣府の「次世代知財システム検討委員会」の委員であり、多くの劇場、劇団、レコード会社、出版社などをサポートする福井健策弁護士です。著作権の基礎から、SNSの炎上問題、人工知能の著作権までを丁寧に解説。受講者からも劇場・ホール運営にまつわるさまざまな質問が出され、刺激的な講演になりました。

 

●作品づくりを体験した自主事業コース
 自主事業Ⅰ(音楽)コースのコーディネーターを務めたのは、会場となった上田市交流文化芸術センターのプロデューサーで、地域創造おんかつチーフコーディネーターでもある小澤櫻作さんです。ホームグラウンドでのラボとあって、劇場の制作スタッフ、技術スタッフの全面協力によるプログラムとなりました。
  まず、制作スタッフがアウトリーチ事業のコーディネートやスケジューリング、劇場広報についてなど実際に使われている資料を公開してノウハウを提供。最も力が入ったのは、ピアニストの中川賢一さん、ダンスユニットのセレノグラフィカ、演出家の岩崎正裕さんと共に行った作品づくりでした。
  中川さんが子どもたちに対して行っているアウトリーチ・プログラム(ピアノ演奏を聴いて絵を描く、組曲『展覧会の絵』の『キエフの大門』の演奏付アナリーゼ=楽曲分析)を体験した後、音楽×ダンス×演劇がクロスした創作にチャレンジ。参加者が描いた絵を展示したスタジオで、中川さんの演奏とともに、作曲家ムソルグスキーと友人の画家ハルトマンが登場するコントを交えながら、『キエフの大門』のモチーフをダンスにした作品を、音響・照明付きで本格上演しました。
  自主事業Ⅱ(演劇)コースのコーディネーターは、故・蜷川幸雄さんが高齢者劇団「さいたまゴールド・シアター」を立ち上げたことで知られる彩の国さいたま芸術劇場事業部長の渡辺弘さんです。今回は、公立文化施設に求められる役割が多様化していることを踏まえ、まず、八戸市、小美玉市、北九州芸術劇場など地域とさまざまな形で連携している「文化的コモンズ」の事例から、コーディネーターの重要性について学びました。
  また、演劇については、九州を中心に地域演劇を多数取材し、「流行廃りとは関係なく、地域演劇は人が生きていることを映す純度の高い表現をつくり出している」というライターの大堀久美子さんと、実際に市民との演劇づくりを行っている演出家の柳沼昭徳さんから各地の事例を学びました。俳優の南波圭さん、演出家の内藤裕敬さんとワークショップを行い、それぞれの演劇のつくり方の一端にふれるなど、多彩なプログラムとなりました。

 

●“気づき”をテーマにしたホール入門コース
 ホール入門コースのコーディネーターを務めたのは、倉敷市玉島に日本初のクリエイティブリユースの拠点「IDEA R LAB」を立ち上げた大月ヒロ子さんです。クリエイティブリユースとは、日常的に生み出される廃材をクリエイティビティ(創造力)により素敵なものに生まれ変わらせる取り組みのこと。廃材という資源の新たな活用方法として注目されています。今回のホール入門コースは、さまざまなアートプロジェクトに取り組んできた大月さんのナビゲートで、誰もが仕事をする上で欠くことのできない“気づく力”をテーマにしたワークショップが行われました。
  2日目に挑戦した「廃材ダンス」では、切れた電球や端材など、サントミューゼから集めた廃材から好きなものを選んで撮影。その質感、形、廃材のつぶやきに耳を傾けてセレノグラフィカと共にダンスをつくり、廃材の拡大映像をバックに、小ホールで発表しました。
  また、3日目には、空き家を活用したゲストハウス「たみ」を運営し、鳥取を拠点にアートプロジェクトを展開しているうかぶLLCの蛇谷りえさんと三宅航太郎さんが講師で登場。「ないことから発見する」というコンセプトで、目隠しをしたブラインド状態で街を歩き、視覚以外の音や臭いなどで街を感じて写真を撮るという非日常的な体験をしました。
  「目が見えなかった時間はこれまでに経験したことのない異世界にいるようで、恐怖心と警戒心で一杯だった。ひとりで生きていけないことを思い知らされ、助け合うことの大切さを学んだ」「この音、このニオイは何?と思って歩くのが楽しかった」「音やニオイがきっかけで撮った写真は、何を写したかではなく、何が写っていたかが大切だと思った」と参加者たち。こうした体験を通じて、改めて“気づく力”について考える機会になったのではないでしょうか。

 

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共通プログラムとして行われた弁護士・福井健策さんによる「2時間で学ぶ著作権の必須知識」
 

ステージラボ上田セッション プログラム表
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●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
大月ヒロ子(有限会社イデア 代表取締役/国立歴史民俗博物館 客員准教授)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
小澤櫻作(上田市交流文化芸術センター 音楽プロデューサー/(公財)北九州市芸術文化振興財団 音楽事業アドバイザー)
◎自主事業Ⅱ(演劇)コース
渡辺弘(彩の国さいたま芸術劇場 事業部長)

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