一般社団法人 地域創造

東京都台東区 東京文化会館「ミュージック・ワークショップ」

2011年に開館50周年を迎えたのを機に新たな事業に着手した東京文化会館が、13年からポルトガルのカーザ・ダ・ムジカ(*1)(以下、カーザ)との国際連携による「Workshop Work shop!」(*2)を展開し、注目を集めている。5月22日、その一環として行われている東京文化会館ワークショップ・リーダーによるミュージック・ワークショップを取材した。
  当日のプログラムは未就学児と保護者を対象にした3クラスで、「あけてみよう!海のふしぎな宝箱」(6~18カ月、19~35カ月)と「タネまき、タネまき、大きくなあれ!」(3~4歳)。参加者のための控え室には、授乳やオムツ替えのスペースが準備され、ベビーカーで移動できる。
  「宝箱」では、パステルカラーのメルヘンな衣裳を着た桜井しおりさん(ピアニスト)が奏でるトライアングルに導かれて参加者が入場。野口綾子さんのピアノに乗せて、桜井さんは幼児一人ひとりの名前を尋ね、「みはるちゃん、よろしくね」と歌いかけ、クラゲに見立てたタンバリンにタッチ。恐る恐る触る子、勢いよく叩く子…。そうして海の生きものたちをビジュアルコンセプトに、身体や音具を使ったリズム遊び、エフェクト効果のある大きな貝殻電話を使ったボイス遊びなど、音楽と海の世界を五感で楽しむワークショップを展開。また、「タネまき」では、参加者もネズミの耳を着けるなど全員が動物になってプレイ。高田有香子さん(ピアニスト)、吉澤延隆さん(箏曲家)は、着ぐるみで本格的な演奏を披露していた。

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左:「あけてみよう!海のふしぎな宝箱」
(撮影:ヒダキトモコ)
 
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右:「タネまき、タネまき、大きくなあれ!」
(撮影:鈴木穣蔵)

この事業を提案した事業企画課の福井千鶴さんは、「ヨーロッパでフリーのオペラコーディネーターをしていた時にカーザと出合った。小さなリハーサル室で予算をかけることなく地元のアーティストだけでやっているのに、衝撃的な感動があった。子どもたちの好きな色やビジュアルを大切にしていてショー(舞台芸術)のように見る要素が強く、日本人も参加しやすいと思った」と話す。
  毎年カーザから指導者を招聘し、彼らのワークショップを実施するとともに、ワークショップ・リーダーの育成をスタート。今回出演した野口さん、桜井さんはその第1期生で、3期生の吉澤さんは唯一の邦楽家だ。
  野口:制作者として子ども向けのプログラムを担当した経験がある。研修では、彼らのワークショップを見た後、構造について学んだ。音楽で世界観をつくったところに参加者を迎え入れる、子どもたちの名前を訊くアクティビティを入れる、合奏や身体的な動きを入れる、クールダウンする場面を入れる等。こういうやり方もあるのかと素直に感動し、それらを踏まえて、今回のワークショップを考えた。
  桜井:大学でピアニストの仲道郁代さんに師事し、アウトリーチのアシスタントを務めたのがきっかけで教育普及に目覚めた。カーザの「コオロギの大冒険」は、2人の男性が衣裳を着けてコオロギになりきり、舞台装置などオペラに近い視覚効果があり、感心した。クラシックのピアニストなのに打楽器も管楽器も弾けて、多彩な音楽が演奏できるマルチプレイヤー。彼らは、どんな対象であれ、知らない人たちと音楽でコミュニケーションできるリーディング(leading)のプロフェショナルだと思った。
  吉澤:「これが邦楽です」と提供するのではなく、こういうワークショップでピアノのように今の時代に生きている楽器のひとつとして自然に受け止めてもらうことが必要だと思った。
  事業企画課の梶奈生子課長は、「発信力があり、創造性があり、幅広い都民に開かれた事業が求められるようになり、その一環としてカーザとの事業をスタートした。手探りだったが、日本人のワークショップ・リーダーが創作したものも含め、現在はプログラム数も15になり、実施回数も初年度の9回から今年度は約120回と急速に増えている。都内の公立ホールなどにも招聘されるようになり、特別支援学校とのコラボレーションもスタートした。課題は多いが、これからも長い目で取り組んでいきたいと思っている」と話す。
  未就学児童を4段階に分けるなど、子どもたちの目線でプログラムを開発するカーザの取り組みに学ぶところは多い。その研究開発・実践機関として、東京文化会館が果たすべき役割は大きい。

(地域創造編集部・坪池/江坂)

 

●東京文化会館ミュージック・ワークショップ
※参加定員は各20人程度
[会場]東京文化会館 リハーサル室
[主催]東京都/東京文化会館・アーツカウンシル東京((公財)東京都歴史文化財団)
[プログラム(2016年5月22日)]「あけてみよう!海のふしぎな宝箱」(桜井しおり、野口綾子)、「タネまき、タネまき、大きくなあれ!」(高田有香子、吉澤延隆)

*1 カーザ・ダ・ムジカは“音楽の家”の意味。ポルトガル第2の都市・ポルト市が2001年に欧州文化首都に指定されたのを機に計画された音楽専門施設。オランダの世界的建築家レム・コールハースによる独創的な建物。2005年開館。メインホール(1,238席)、可動席の小ホール(300席)など。オーケストラアンや現代音楽のアンサンブルなどがレジデント。

*2 東京文化会館がアーツカウンシル事業の一環として行う「Music Program TOKYO: Music Education Program」の中核事業。カーザ等との国際連携により、ワークショップと人材育成を実施。同館が育成したワークショップ・リーダーによるプログラム「東京文化会館ミュージック・ワークショップ」(通年)、カーザを招聘する「ミュージック・ワークショップ・フェスタ」(7月、10月)、ワークショップ・リーダー育成プログラム(基礎、ワークショップ創作)を実施。受講生1~3人をポルトガルに派遣し、優秀者を東京文化会館ワークショップ・リーダーとして採用(現在9名)。

 

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