アーティストとともに福島県内の中高生が舞台作品づくりに挑戦する「チャレンジふくしまパフォーミングアーツプロジェクト」の公演が、福島県文化センター(3月26日)といわき芸術文化交流館アリオス(4月3日)で行われた。出演したのは公募による県内各地の中高生35人(演奏、映像も含む)。中心となったアーティストは、福島県立いわき総合高校の生徒たちと演劇づくりを行った経験をもつマームとジプシーの藤田貴大、福島で小中高時代を過ごした音楽家の大友良英で、音楽・演劇・映像など約50回のワークショップ(WS)を重ね(*1)、中高生たちの何気ない1日を綴った作品『タイムライン』をつくり上げた。
福島県では、震災後文化振興基本計画を見直し、「文化の光が新たな元気を生み出し、人と地域が輝く“新生ふくしま”の創造」を目標に掲げて、その一環として2014年から「森のはこ舟アートプロジェクト」(*2)、15年から今回のプロジェクトをスタートした。文化振興課の大波真吾主幹は、「復興に向けて積極果敢に挑戦する『チャレンジふくしま』事業のひとつとして、子どもたちの夢の実現を後押しする取り組みを展開しています。震災を経験した子どもたちが、プロのアドバイスを受けて何かをつくり上げることで未来を創造する力を育むことができるのではないかと、福島と縁のある平田オリザさん(*3)や藤田さん、大友さんなどに相談し、今回のプロジェクトが立ち上がりました」と話す。
撮影:石川直樹 |
3月26日の発表会を取材すると、大ホール舞台上に会場となる仮設空間が設えられていた。左右の巨大スクリーンと客席でステージを囲み、出演者の素顔や景色が映し出される中、WSでつくられた音楽の生演奏とともに中高生たちが「8:20」「9:35」と時系列で1日をたどっていく。
遠い記憶を呼び起こすような光を浴びてゆっくり立ち上がった彼女たちは、「いつもどおりの朝、だけどよく覚えているあの朝のことを」と声を揃え、「おはよ~」と元気に登校し、接続詞ラップで1限目の国語、イス取りゲームをしながら2限目の英語、給食ダンスに掃除ダンス、そして懐中電灯を点けた夜の海岸の散歩など、日常の時間を慈しむようにリピート。他人の物語を演じるのではなく、子どもたちから即興的なWSで引き出された平穏な時間の記憶が、音楽のライブ感とともにダイレクトに迫り、観客の子ども時代の記憶や震災の記憶とも相まって、鎮魂(たましずめ)の時間をつくり出していた。
初舞台だという高校3年生の佐々木菫さんに感想を尋ねると、「ゲームをやりながらパーツをつくって、最後の数日でひとつの作品にしたという感じです。藤田さんはひとりひとりの話をよく聞いてくれて、その言葉で作品をつくってくださった。予想していたのとは全く違う演劇で、音楽もセリフみたいで、こういうやり方もあるんだと興味が沸きました。いろいろな境遇の友達と出会い、それぞれの日常があることもわかった。普通に過ごしているとその大切さを実感できないけど、『タイムライン』をやって大切さに気がつきました」と答えてくれた。
藤田は、「最近、演劇・音楽・美術などとカテゴライズするのではなく、すべて“ライブ表現”として一体にできるのではと追求していて、それが中高生のみんなと実現できたと思います。これだけ長い時間をかけて作品をつくったことはなくて、子どもたちも成長するし、凝り固まったプロとやるよりも驚かされる瞬間が本当にたくさんあった。この子たちの時間(=作品)をつくることが僕の他の創作活動にとってもベースになった1年でした」と振り返る。
大友は、みんなで音楽をつくる集団即興オーケストラ(*4)を各地で実践するとともに、震災後、プロジェクトFUKUSHIMA!(*5)を立ち上げ、精力的に活動してきた。「震災直後は直接的な被害に対してどうするか、ということでしか考えられなかった。でも5年経ってやっとあの子たちをどこにでもいる中高生として見て、一緒に作品をつくる相手として立ち会えるようになった。それは10代の僕自身に向き合うことでもありました」と感慨深げだった。
藤田は子どもたちに「深呼吸する場であってほしい」と言っていたが、この深呼吸できる場づくりというのが演劇のもつ新しい力であり、それが何より必要だったのだと改めて感じた。
(坪池栄子)
●チャレンジふくしまパフォーミングアーツプロジェクト『タイムライン』
[主催]福島県
[会場]2016年3月26日:福島県文化センター/4月3日:いわき芸術文化交流館アリオス
[作・演出]藤田貴大
[音楽]大友良英
[振付]酒井幸菜
[写真・映像]石川直樹
[監修]平田オリザ
[記録映像]高見沢功
*1 5月~6月(体験ワークショップ)、7月~3月(演劇チーム、音楽チームによるWSおよび合同WSを週末2日ペースで実施。
*2 森林文化をテーマに、山間部の地域にアーティストが入り、リサーチを踏まえて地域の人々と地域再生に向き合う事業を展開。実行委員会委員長は赤坂憲雄、ディレクターは伊藤達矢。
*3 福島県立いわき総合高校の開校に際し、演劇教育のアドバイスを行うとともに、生徒たちを対象にしたワークショップを長年実施。前例のない教育に取り組む福島県立ふたば未来学園高等学校(2015年4月開校)を支援する「ふたばの教育復興応援団」のメンバーを務めるなど、福島県との縁が深い。
*4 演奏の経験を問わず、音の出るものを持ち寄り、「リズムを保つ」という簡単なルールで指揮者の指示に従って思い思いに音を出す手法により、みんなで音楽をつくる取り組み。
*5 東日本大震災を契機に、福島出身・在住の和合亮一、遠藤ミチロウ、大友良英を代表として発足したプロジェクト。「フェスティバルFUKUSHIMA!」やイベントを継続的に展開し、FUKUSHIMAに向き合い、FUKUSHIMAをポジティブな言葉に変えていくプロジェクト。