ステージラボ公立ホール・劇場マネージャーコース
2015年10月6日~8日
文化政策幹部セミナー
2015年10月6日、7日
地域創造では、公立文化施設のマネージャークラスおよび文化政策幹部職員を対象とした研修事業として、ステージラボ「公立ホール・劇場 マネージャーコース」(以下、マネージャーコース)と「文化政策幹部セミナー」(以下、幹部セミナー)を同時開催し、相互交流を図っています。今年度は、座・高円寺(杉並区立杉並芸術会館)館長の桑谷哲男さん(マネージャーコース)と静岡文化芸術大学教授の片山泰輔さん(幹部セミナー)をコーディネーターに迎え、地域創造会議室を会場に開催されました。
●雇用問題を考えるミニシンポジウム~共通プログラム
指定管理期間が有期であることから有期雇用が増加し、全体として非正規化が進むなど、公立文化施設の雇用環境は大きく変わっています。劇場法13条において人材育成が明文化された一方で、こうした非正規化が進み、また改正労働契約法に伴い、5年での雇い止めが懸念されるなど、その対応は待ったなしです。
こうした状況を踏まえ、今回は、マネージャーコースと幹部セミナーの共通プログラムとして、「公立文化施設における雇用の拡充」をテーマにしたミニシンポジウムを開催しました。パネリストには、舞台芸術制作者の労働環境の整備を目的としたNPO法人Explatの発起人である岸正人さん(あうるすぽっと支配人)、表方の業務委託を含めて全国80カ所で公立文化施設の運営に携わっているサントリーパブリシティサービス株式会社取締役の大村未菜さん、アーツカウンシル東京機構長の三好勝則さんが並び、社会保険労務士の園部俊児さんにも同席していただきました。
岸さんは、「人員が限られているため研修を受けてもらいたくても難しいし、指定管理の切り替え時期には浮き足だって仕事を全うできない。このままではまずいのではないかと思い、若い職員と一緒に声を上げた。これからいろいろ提言していければと思っています」と危機感を滲ませていました。
大村さんは、「私どもでは年間2,200人が公立文化施設の現場で働いていて、その内、200人が転勤もある正規雇用の総合職、2,000人が1年単位の契約社員。しかし、将来的には労働人口が減少する上、2020年に向けて人材確保が難しくなることが想定されています。また、8割が女性なので子育てなどのライフステージとキャリアの両立を考えていく必要もある。雇用形態が今のままでは事業が立ちゆかなくなることが目に見えていたので、今年4月から勤務地限定/業種変更有・無/正規雇用という枠をつくりました」と、民間ならではのスピード感をもった対応を紹介されていました。
また三好さんは、「アーツカウンシルは公益財団法人東京都歴史文化財団内に置かれていますが、この財団は職員が330人(内常勤が270人。正規雇用が100人)もいる大所帯。同じ美術館で働く常勤の学芸員でも正規雇用と契約雇用が混在している。アーツカウンシルは施設がないのでほとんどが常勤契約。専門家集団と言いながら契約形態がこれだけ異なるのは問題だと認識しています」と現状を報告。短い時間ながら厳しい意見交換も行われました。
●座・高円寺を徹底してケーススタディ
今回のマネージャーコースでは、桑谷館長のナビゲートで座・高円寺を徹底的にケーススタディしました。区民会館の建て替えによって誕生した座・高円寺は、区民でもある演出家の佐藤信さんを芸術監督に迎え、演劇関係者がNPO法人劇場創造ネットワークを設立して指定管理者になったことで注目を集めました。
まず、桑谷館長から“地域の活性化と劇場の活性化を同時に解決すること”を目標に掲げた地域劇場としての取り組み、常勤・非常勤含めて計76名による運営体制などについて講義が行われました。
桑谷館長は、「事業方針として、地域と連携した事業、まちの演劇広場を目指した事業、子どものための事業の3つを掲げています。まちの中で事を起こす(まちを劇場にする)ということで、高円寺4大祭りをつくろうと、それまで行われていた「高円寺阿波おどり」に加え、街中28カ所を会場にした「高円寺びっくり大道芸」、若い商店主たちによる「高円寺フェス」、店舗で落語などを行う「高円寺演芸まつり」を立ち上げました。劇場では年2回の古本市や月1回のマルシェも開催しています。
また、毎週土日の午前中は子どもたちがいつ来てもいいように色々な遊びを企画しています。演劇学校をはじめ劇場の活性化は当然のこととしてやっていますが、それで劇場が評価されても市民に支持されなければ生き延びることはできない。7割の市民は座・高円寺にまちの活性化の拠点になってほしいと望んでいる。町内会、商店街の会員となって会費を払い、朝の清掃もやるなど近所づきあいから始めて、地域の活性化と劇場の活性化を一体として取り組んでいます」と紹介されました。
夜には実際に座・高円寺まで移動し、伊東豊雄設計による1階フロアーが広場のように使えるユニークな劇場を見学するとともに、ねじめ正一の小説で有名な「高円寺純情商店街」など昭和の雰囲気が残る商店街を桑谷館長と散策。また、舞踏公演のゲネプロ見学も行われました。
●2020年に向けて考える
幹部セミナーは、コーディネーターの片山さんによる基礎講座から始まりました。文化芸術振興基本法、文化権、創造都市など自治体が文化政策に取り組むことの政策的根拠についての理解を深めた後、指定管理者制度と補助金政策についてそれぞれ第一線で実践している専門家の講義が行われました。最も関心が高かったのは、2020年の東京オリンピックに向けて来年度から本格的に始まる文化プログラムについての紹介です。
文化庁文化振興室長補佐の饗場厚さんが、「20万件のイベント、5万人のアーティストの参加、5,000万人の参加、2,000万人の訪日外国人旅行者に貢献」という数値目標を掲げた文化プログラム(仮称:文化力プロジェクト)基本構想について解説。「文化に対して一時的にではあれ重点投資されるこの機会をぜひ地域の文化政策として活かしていただき、2020年以降のレガシーとして継承されるような仕組みをつくっていただければと思います」とメッセージを送られていました。
ステージラボ 公立ホール・劇場 マネージャーコース/文化政策幹部セミナー スケジュール