ステージラボ札幌セッション報告
2015年7月7日~10日
開催地は、1998年の札幌芸術の森に次いで2回目となる札幌市で、今回は昨年リニューアルオープンした札幌市教育文化会館を会場に行われました。同館はコネ・クートというキャラクターや、ご当地アイドルと一緒にインターネット番組を行うなど親しみやすい情報発信に力を入れています。共通プログラムではそうしたメディア戦略についての講義も行われました。
●ホール運営と事業企画を学ぶ2コースを開講~入門コース
今回は、受講希望の多い入門コースについて、ホール運営と事業企画の2コースが開講されました。ホール入門コースのコーディネーターを務めたのは、ニッセイ基礎研究所の大澤寅雄さんです。ますます多様化する公立ホールの役割と社会の繋がりについて、施設運営、東日本大震災の影響、自治体の文化行政の立場などから学びました。
文化行政について講義を行ったのは、長年にわたって横浜市職員として文化振興に携わってきた主任調査員の鬼木和浩さんです。「役所」をテーマに意志決定の仕組みや行動原理についてわかりやすく解説。「国の文化行政の役割が文化の効用の最大化、文化権の確保、過去と未来への責任だとすると、私は、地方自治体における文化行政の重要な役割は、文化の力によって自分たちの町として参画できるアイデンティティをつくり、あるべき市民社会を形成することだと思っています」と語りかけていました。
事業入門コースのコーディネーターは、現代ダンス活性化事業のチーフコーディネーターでもある佐東範一さんです。公立ホールの事業企画において重要なパートナーとなっているNPOと企業メセナについて学ぶとともに、セレノグラフィカと共にダンス『わたしよりも近くのあなた』を創作。チラシも配布し、ホールの舞台で本格的な照明、音響による発表会を行いました。
札幌でコミュニティの核となる劇場を運営しているNPOコンカリーニョ代表の斎藤ちずさんは、古い遊休倉庫を改装した自分たちの演劇拠点が琴似駅前再開発により取り壊されたこと、4年間かけて寄附を集め、目標額に全く届かなかったのに無謀にも工事発注し、銀行の融資で再建に漕ぎ着けたこと、人を育み、異文化・異世代の縁結びになるような劇場を目指して幅広い活動をしていることなど、熱意と人間力溢れるトークを展開。また、企業メセナ協議会事務局長の荻原康子さんからは、資金や現物を協賛するだけでなく、メセナを通じた「社会創造」を目指し、多様化している企業の取り組みについて多数の事例を紹介していただきました。「地元の企業を掘り起こし、相手のことをよく理解し、パートナーを組んでwin winの関係になるような文化プログラムをぜひつくってください」と荻原さん。
ホール入門コースと事業入門コースの合同ゼミでは、東日本大震災で地域の繋がりに大きな役割を果たし、注目されている民俗芸能のワークショップを体験しました。指導していただいたのは、舞川鹿子躍の継承者である小岩秀太郎さんです。小岩さんのわかりやすい解説で、「ザッザカ ザカザカ ザンズク ザンズク…」という口唱歌(くちしょうが)を唱えながら、大地を力強く踏む鹿子躍に挑戦。ワークショップの後には、セレノグラフィカや音楽家の野村誠さん(音楽コース講師)なども加わり、「なぜ民俗芸能ではストレッチをやらないのか」などユニークな切り口での車座トークも行われました。
●ワークショップ手法について考える~音楽コース
音楽コースのコーディネーターは地域創造プロデューサーでもある児玉真さんです。今回は「ワークショップの手法」をテーマに、ユニークなアプローチでさまざまな人々と即興による共同作曲を行っている野村さん、音楽を聴いてイメージを遊ぶワークショップを行っている演出家の内藤裕敬さんの方法を体験。また、野村さんをコミュニティプログラムディレクターに迎え、若者就労支援として一緒に音楽をつくることで社会人になる基礎体力を育む「The Work」プロジェクトを行っている日本センチュリー交響楽団の取り組みについても学びました。
野村さんが紹介する例はいずれも音楽の固定概念をひっくり返すようなユニークなものばかり。子どもたちが遊びでチャルメラの曲を「みそラーメン食べ放題」と歌っていたのを元にパイプオルガン曲をつくったり、絵画でも彫刻でも好きな美術作品を楽譜として演奏したり、子どもたちの好きな食べ物を並べただけの「パスタ、うどん、カレーライス」を曲にしたり。「子どもたちと音楽をつくっているヒュー・ナンキベルが、作曲は“invention”と“arrangement”だと言っています。曲にする、楽譜にするのは技術がいるかもしれませんが、アイデアを出すinventionは誰にでもできる。僕にはパイプオルガン曲でみそラーメンのアイデアは出てこないけど、それがあれば譜面は書けるわけです」と野村さん。
講義の後、野村さんが行っている「しょうぎ作曲」(音楽的背景も音楽的能力もそれぞれ違った人たちによる共同作曲の手法のこと。しりとりのように参加している人が短いパッセージを即興で繋いでいく)の一部を実際に体験しました。また、内藤さんのワークショップでは、初めて三味線の生演奏でのイメージ遊びを行い、馴染みの薄い邦楽器に触れるワークショップとしても興味深い体験になりました。
札幌セッション プログラム表
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
大澤寅雄(株式会社ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室 准主任研究員)
◎事業入門コース
佐東範一(NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク代表)
◎音楽コース
児玉真(いわき芸術文化交流館アリオスチーフ プログラム オフィサー/地域創造プロデューサー)