蜷川幸雄が芸術監督を務める彩の国さいたま芸術劇場が55歳以上の団員によるさいたまゴールド・シアターを旗揚げしたのが2005年。“老い”や“人生経験”による演劇的表現を追求する同シアターの存在も刺激になって、現在では、高齢者ならではの表現や生きがいづくり、介護予防などを目的としたシニア演劇への取り組みが各地で見られるようになっている。そんなシニア劇団が集い、公演や交流を行う第3回「全国シニア演劇大会 in 仙台」が6月5日から3日間、日立システムズホール仙台・シアターホールで開催された。
参加したのは、白塗りメイクに大らかな方言や踊りで今や地元の名物になった八丈島の劇団かぶつや、公立ホールの高齢者事業から生まれた高槻シニア劇団そよ風ペダル(高槻現代劇場)、菜の花プラザシニア劇団(川西町フレンドリープラザ)、有志による民間劇団など、さまざまな成り立ちをもつ7都府県9劇団(下記参照)。老いや介護、戦争体験など人生経験にもとづく題材をモチーフにした創作劇から歌やダンスを織り交ぜたショーまでバラエティに富んだパフォーマンスを披露。幕間には、交流ホールで地元のシニア関連団体による余興も行われ、3日間で延べ2,604人が交流した。
大会を呼びかけ、主催しているのがNPO法人シニア演劇ネットワークだ(*)。理事長の鯨エマは、2006年から東京でシニア劇団「かんじゅく座」の活動をしている女優で演出家、劇作家。
「演劇をやりながら障がい者介助のアルバイトをしていたのですが、その経験から人に必要とされる演劇の現場をつくりたいと思うようになり、シニア演劇を始めました。座員たちは観客から拍手をもらうことに張り合いを感じていましたが、家族と友人ばかりでは刺激がない。それで他劇団と合同公演できればとシニア劇団に手紙を書いたら、16劇団から返事がきた。だったら演劇祭しかないなと思いました」
11年に第1回を東京で開催し、同年、NPO法人を設立。NPOのサポート劇団と相談しながら開催地を決定してきた。今回は、仙台シニア劇団「まんざら」が受け入れ先となり、仙台市市民文化事業団と仙台市が共催して実現した。第2回から大会に参加しているまんざら代表の庄子勝義さん(70歳)は、「自分たちの劇団だけで活動していると“井の中の蛙”になってしまう。演劇を通して健康を維持し、地域で生きていこうとしている同世代の仲間と交流できる全国大会はとても励みになります」と話す。
大会運営は事業団の演劇専用施設「10-BOX」のスタッフが裏方として全面協力。また、交流ホールの企画・運営は被災地への支援を行ってきた地元アーティストのネットワーク「ARCT」が担当し、会場をキャバレー風に装飾して盛り上げた。
出演団体の中で異彩を放っていたのが、公演芸術集団dracomを主宰する筒井潤が演出し、高齢者ならではの演劇的挑戦を行ったそよ風ペダルだ。高槻現代劇場と京都のNPO劇研が組んだ創造系事業がきっかけとなって2012年に立ち上がり、同劇場をホームグラウンドに活動を続けている。今回上演した『モロモロウロウロ』は、13年に公演した作品の再演で、一人で山登りに出かけて行方不明になった友人・深沢を心配する高齢者の登山仲間が探しに行くというストーリー。舞台奥に設置されたスクリーンには、舞台上で遺言のような日記を読み上げる深沢がライブ映像で映し出される仕掛けになっている。
筒井は、「僕の母親の登山仲間が山で行方不明になった経験と、多くの人が行方不明になった震災を大阪の人がどのように受け止めていたかをオーバーラップして描いたものです。ですから、被災地で再演するためにみんなで必死に台詞を見直しました。それとエンディングノートをビデオでやってみたかった。大げさに演技するのではなく、高齢者の現代口語演劇をつくりたいと思って取り組みました」と語る。
こうした若い演劇人によるチャレンジから素人ならではパワーに溢れたものまで。この混在ぶりこそがシニア演劇の力なのだろうと感じた。
(田中健夫)
*全国のシニア劇団の連絡先となり、活動を広く世間に知らせていくために、2011年秋に設立されたNPO。全国シニア演劇大会(2011年東京、13年南アルプス市、15年仙台市)の企画運営や、シニア劇団に関する情報の収集・提供、全国大会の資金にするためのグッズ販売、シニア向け演劇ワークショップの開催などを手がける。今回の演劇祭に参加した劇団の多くも、同NPOのサポート会員。
●全国シニア演劇大会 in 仙台
[会期]2015年6月5日~7日
[会場]日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)
[主催]NPO法人シニア演劇ネットワーク、公益財団法人仙台市市民文化事業団、仙台市
[参加劇団]劇団笑劇(青森県おいらせ町)、河辺わさび座(秋田県秋田市)、仙台シニア劇団まんざら(仙台市)、かとれあProject(仙台市)、菜の花プラザシニア団(山形県川西町)、かんじゅく座(東京都新宿区)、劇団かぶつ(東京都八丈町)、高槻シニア劇団そよ風ペダル(大阪府高槻市)、石見国くにびき18座(島根県浜田市)
※このほか、交流ホールの幕間公演に地元のシニア関連、文化関連の10団体が出演