一般社団法人 地域創造

京都市 PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015

 里山や島など景観を生かした大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭に対し、ヨコハマトリエンナーレ、あいちトリエンナーレ、札幌国際芸術祭、来年始まるさいたまトリエンナーレなど都市を舞台にした現代アートの国際展創設が相次いでいる。そんな中、伝統文化を誇る京都でも「PパラソフィアARASOPHIA:京都国際現代芸術祭」が開幕し、動向が注目されている。
  京都経済同友会からの提言で始動し、京都府・京都市がサポートする体制で運営。アーティスティックディレクターには、元京都国立近代美術館学芸課長の河本信治さんが就任。河本さんは、2001年の横浜トリエンナーレ共同ディレクターを務め、森村泰昌、やなぎみわ、石橋義正といったアーティストを早くから紹介・支援してきた。今回は、彼らを含む国内外40組のアーティストが京都市美術館をはじめ、老朽化が進む堀川団地、水平社が創設された歴史的背景をもつ崇仁地域など、国際観光都市・京都とは別の顔をもつ場所でも展示が行われた。

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上:京都市美術館/中:蔡國強のインスタレーション。竹による高さ15メートルの塔/
下:ピピロッティ・リスト(スイス)の作品

 主会場の京都市美術館では、34組が作品を展開。同館は、昭和天皇の即位を記念して関西財界、市民の資金協力により、1933年に日本で2番目の大規模公立美術館「大礼記念京都美術館」として開館したもの。戦後、駐留軍に接収されたが、接収解除を機に京都市美術館と改称。以後、和洋折衷の帝冠様式の外観とアールデコ様式の内部空間をそのままに、京都画壇のコレクション展のほか、団体展、巡回展の会場として貸し出されてきた。
  今回は、自然光が降り注ぐ1階大陳列室や接収当時の英語の靴磨き看板が残る地下室、出入り口のポーチを含めた全館を活用、長年にわたって隠されてきた展示空間としての魅力を引き出していた。正面入口から大陳列室を通って裏庭まで抜けるエリアを無料ゾーンとし、市美になかったカフェやミュージアムショップを設置して広場を創出。また会期の約半分は開館を2時間延長するなど、古い建物としての構造はそのままに、企画側の意志と創意で美術館を現代的に設計し直す試みも行われていた。その象徴のように、大陳列室には子どもたちがつくった凧で飾られた蔡國強の巨大な竹の塔がそびえ、その下では蔡が「農民ダ・ヴィンチ」と呼ぶ中国の民衆がつくったお絵描きロボットや動物ロボットが自由に動き回っていた。
  このほかにも堀川団地では、ピピロッティ・リストは狭い部屋が森羅万象に繋がるかのような映像を布団や天井に映し出し、ヘフナー/ザックスは崇仁地域のフェンスに囲まれた空き地に捨てられたものを組み合わせてインスタレーションを展開した。
 河本さんは、「京都は文化的資産と人材を育み、蓄積してきたまちだが、一方でさまざまなしがらみや慣習が積み重なり、都市として硬直化している側面もある。パラソフィアは、アートの文脈で都市を再読し、人材を育て、未来に開かれるためのプロジェクトでもある。なので、アーティストも40組に絞り、事前の京都リサーチで彼らが感じたこと、発見したことをすくい上げることを目指した」と話す。
  国際展を提言し、実現に奔走した経済同友会代表幹事の長谷幹雄さん(長谷本社社長)は、滋賀県長浜市の出身。縮緬業で財を成した父・定雄さんは町衆によるまちづくりで知られる株式会社黒壁初代社長であり、幹雄さん自身も黒壁の経営に関わってきた。「ヴェネツィアビエンナーレ建築展で世界的なアーティストや国外から多くの人が集う様子を見ました。京都も過去の遺産に頼って内向きになるのではなく、先鋭的な国際展によって新しい事や人に開かれているというメッセージを発信したい。そうして若者やアーティストの活躍の場が広がれば、それがまちの未来に繋がる」と長谷さん。
  京都には4つの芸術系大学があり、民間ギャラリーやNPOなどアートシーンの層は厚く、今回の会期中にも自主的な活動があちこちで行われている。これらの個々の活動が国際展が開けた都市の風穴にどう繋がっていくのか。「展覧会はひとつの通過点。パラソフィアとは、人々の意識を変えていく長いプロジェクトだ」という河本さんの言葉が印象的だった。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

●PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015
[会期]2015年3月7日~5月10日
[主催]京都国際現代芸術祭実行委員会、
(一財)京都経済同友会、京都府、京都市
[会場]京都市美術館、京都府京都文化博物館、京都芸術センター、堀川団地(上長者町棟)、鴨川デルタ(出町柳)ほか
http://www.parasophia.jp/

*PARASOPHIA
「別の、逆の、対抗的な」という意味をもつ接頭語paraに、叡智や学問体系を意味するsophiaという単語を繋いだ造語。河本さんは「自由闊達な思考のプラットフォーム」として命名。

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