一般社団法人 地域創造

東京都港区 「地域おこし協力隊全国サミット」

都会の若者らが過疎地などに移り住んで地域の活性化に取り組む「地域おこし協力隊」が6年目を迎えた。今年度の隊員数は1,500人を超えると想定されている。2015年3月8日、そんな全国各地に散らばる隊員たちが一堂に会した「地域おこし協力隊全国サミット」(主催:総務省)が六本木ヒルズで開催された。
  来訪者は約3,000人で、会場に来られない人のためのインターネットライブ中継も行われた。サミットの冒頭、高市早苗総務大臣が「隊員は地域を元気にするとともに、任期が終了しても約6割の人がそのまま定住するなど、着実に成果を挙げている。平成28年度までに3,000人に増やしたい」と挨拶。参加した隊員たちの思いを込めたご当地15秒PRや講演会、熱気あふれる隊員・隊員OBのトークセッションに会場は沸いた。
  六本木ヒルズ2階の大屋根プラザでは、26の協力隊受け入れ自治体がブースを構え、協力隊の活動紹介や物産品販売、観光PRなどを行うフェアも同時開催された。サミット会場やフェア会場で隊員たちの声を拾った。

 驚くのは、隊員が幅広い分野で活動していることだ。海女の後継者となっている長崎県壱岐市のケースをはじめ、その土地ならではの農林水産業に従事するケースは多い。また、写真の町として知られる北海道東川町では、クロスカントリースキーの選手経験者や自然体験のプロガイドを隊員として、子どもたちの教育環境の向上をとおした地域おこしに取り組んでいた。
  また、文化による地域づくりに携わるケースもあった。兵庫県朝来市には、世界中をバイクで巡っていた旅人や元デザイナーなどユニークな経歴をもつ6人の隊員が着任している。その中のひとり、元会社員の今村未希さんは、「私が担当しているのは鉱山町として栄えた生野ですが、今は空き家対策が大きな課題となっています。『生野ルート・ダルジャン芸術祭』(*1)に取り組んでいる有志と、アーティスト・イン・レジデンスができないか検討しています」と話す。
  また、まちづくりに取り組む市民のサポート役として6人の隊員が活躍している岡山県真庭市では、市民団体「まにワッショイ」(*2)が結成した学校給食の配膳ボーイズがフェアに出演し、バンド演奏で会場を盛り上げていた。地域おこし協力隊を担当する川上環上級主事(交流定住推進室)は、「彼らのお手伝いをして、空き家を改造した子どもたちの遊び場づくりもしました」と話す。

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上:賑わう出展ブース/下:おそろいのはっぴでPRする常陸太田市の協力隊

 ユニークなのは、茨城県常陸太田市が行っている「常陸太田アーティスト・イン・レジデンス」の試みだ。同市では11年度から協力隊を活用してきたが、14年度から新たにアーティスト枠を設け、4人のアーティストを隊員として採用した。担当の山川洋史主任(少子化・人口減少対策課)は、「アーティストに住んでもらい、その感性で地域の良いところを発掘し、市内外への情報発信に結び付けてもらえればと期待しています」と話す。
  東京藝術大学の日比野克彦研究室に所属しながら隊員として活動している現代美術家のミヤタユキさんは、「地域の人々に生活の中にアートがあるということを知ってほしくて、井戸端アート教室などを行っています。常陸太田には名所の龍神峡で1,000匹のコイノボリを泳がせる有名な『鯉のぼりまつり』がありますが、使用後は廃棄していました。それをリサイクルして、エコバッグや人形、小物、オブジェをつくる『コイノボリプロジェクト』も行っています」とトークショーで活動を紹介していた。また、絵本作家を目指す末石真弓さんは、地域に残る昔話を掘り起こし、紙粘土作品にする試みを行っている。このほか、龍神大吊橋の壁画制作やベンチ制作、ワークショップなどを地域の人々と共に展開。昨年秋には、空き家をギャラリー化し、展示とカフェで地域の人々と交流する「ヒタチオオタ芸術会議」も開催された。
  今回、サミットで隊員の生の声にふれ、これまで地域にいなかったような人材が地域を生活の場として意識し始めているという時代の変化を実感した。文化の担い手が地域と出合う仕組みとしても、多いに活用できるのではないかと期待させるサミットだった。

(田中健夫)

 

●地域おこし協力隊
都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を移動し、生活の拠点を移した者を、地方自治体が「地域おこし協力隊員」として委嘱。隊員は、一定期間、地域に居住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこしの支援や、農林水産業への従事、住民の生活支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組み。
http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/index.html
[実施主体]地方自治体
[総務省の支援]期間は概ね1年以上3年以下/報償費等として年間200万円、活動費として年間200万円を上限に国が地方自治体へ支援(平成27年度からは報償費等に対する支援が最大250万円まで増額可能。ただし活動費と合わせての上限400万円は変更なし)/隊員の任期終了の日から起算した前後1年以内の者の起業経費として、1人当たり100万円を上限に支援

*1 兵庫県朝来市の生野町地区で行われている芸術祭。産業遺産アートプロジェクトと銘打ち、生野鉱山に残された鉱山施設跡や鉱員社宅跡、山神社などを使って現代美術の展示、コンサート、ダンスパフォーマンスなどが行われる。
*2 真庭市の市立文化施設「久世エスパス」に隣接する国指定重要文化財の木造校舎「旧遷喬尋常小学校」で行われている「なつかしの学校給食」の配膳など、同小学校を中心にまちの応援団として活動する市民団体。

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