ステージラボ広島セッション報告 2015年2月17日~20日
●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
津村卓(北九州芸術劇場館長兼プロデューサー/地域創造プロデューサー)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
山本若子(有限会社N.A.T取締役/地域創造おんかつコーディネーター)
◎自主事業Ⅱ(演劇)コース
平田オリザ(劇作家・演出家/こまばアゴラ劇場芸術監督/劇団「青年団」主宰/地域創造理事)
会場は、1996年に次いでステージラボ2度目の開催となるアステールプラザ(指定管理者:公益財団法人広島市文化財団)です。同館は、大ホール(1204席)や多目的スタジオなどのある広島市文化創造センター、中ホール(550席)や会議室のある広島市中区民文化センター、研修室や宿泊施設のある広島市国際青年会館、広島市立中区図書館で構成される複合施設です。1992年から取り組んでいる「ひろしまオペラルネッサンス」事業の拠点としてオペラ公演や研修を行うほか、外部から演出家を招く演劇創作事業にも取り組んでいます。今回のラボでは、共通プログラムとして、ノゾエ征爾さんが広島に滞在して地元の俳優と創作した新作『飛ぶひと』の通しリハーサル見学も行われました。
今回は、ホール入門、自主事業Ⅰ(音楽)、自主事業Ⅱ(演劇)の3コースが開講されました。特に入門、演劇では、アーティストから直接多くのことを学ぶカリキュラムとなりました。
●アーティストから学んだ入門コース
入門コースのコーディネーターを務めたのは、いくつもの公立ホールを開設してきた経験をもつ地域創造の津村卓プロデューサーです。経験の浅いホール職員には、アーティストと直接交流してほしいと、2日目、3日目に「アーティストの考える劇場・音楽堂」と題し、ピアニストの田村緑さん、コンテンポラリーダンスの北村成美さん、演出家で富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督の多田淳之介さんによるワークショップが行われました。
ステージラボでの講師経験が豊富な田村さんは、毎回、ステージラボで新しいアウトリーチ・プログラムを公開しています。今回は、ベートーヴェンの『エリーゼのために』を聴きながら、エリーゼは誰で、どんなメッセージを伝えたかったのかを推理するワークショップが行われました。「ツンデレな恋人に振り回されている」「実際には存在しない理想の女性に恋をしている」「病に倒れた彼女への気持ち」など、受講生たちはイメージを膨らませていました。
「曲を鑑賞することにはいろいろな可能性があります。エリーゼは誰?と思うだけで別の回路が開いて想像力が刺激される。子どもたちは、エリーゼは男だったとか、戦争に出かけていった友達を慰めているとか、大人では思いもつかない推理をします」と田村さん。この他、小学校では定番になっている楽器の秘密(ピアノを解体しながら音の出る仕組みを体感)のワークショップも行われ、ピアノの下に潜った受講生はまるで子どもに戻ったかのようでした。
北村さんのワークショップでは、一つの作品を参加者全員でつくり上げ、その中で2つのグループに分かれ即興で表現し、最後に組み合わせる場面が見られました。一人の動きに対して、グループの他の人が対話するように動きを付けるうちに、まるで寄り添うような群舞が立ち現れ、北村さんをはじめ開館の担当者も思わず涙ぐむピュアな時間になりました。
また、多田さんはコミュニケーションゲームの後、北九州芸術劇場などで演出した市民劇についての事例を紹介。「北九州では、盆踊りをテーマにおじいちゃん、おばあちゃんと寸劇をつくりました。市民劇がプロの劣化版になったのでは仕方がないし、普通の人が演劇をやっているそのこと自体が感動的だと思っています」と話していました。
●アウトリーチ・プログラムを実践的に企画
おんかつコーディネーターの山本若子さんがコーディネーターを務めた音楽コースは、平成25・26年度のおんかつフォーラムアーティストのアーバン・サクソフォン・カルテットの全面協力により、これまでにない実践的なカリキュラムが実現しました。
2日目、まず広瀬小学校6年生を対象にした「曲でイメージする」というアウトリーチを見学。事前の客席や演奏スペースの場づくりも、演奏家と受講生が相談しながら準備しました。見学後の振り返りでは、「一方的な鑑賞にならないように子どもたちを巻き込んでいた」「曲からイメージさせるだけでなく、イメージしたことをみんなで共有することで自由に聞いていいことを伝えていた」など、アーティストがやろうとしていたことについて問題意識を共有。3日目には、4グループに別れ、演奏家も交えてレパートリー36曲から自由に曲を選び、カルテットが実際に行う30分のアウトリーチ・プログラムづくりに挑戦しました。
最終日、『守護天使の夜』を想像力豊かに聴いてもらうよう、各グループが工夫を凝らして仕上げた小・中学生や特別養護老人施設などを対象とした全4プログラムを2時間かけてやり切ったカルテットには、参加者から惜しみない拍手が送られていました。
●創作に挑戦した演劇コース
2007年のステージラボ鳥取セッション以来、8年ぶりに演劇コースのコーディネーターを務めたのは、オピニオンリーダーとして幅広い活躍をされている平田オリザさんです。青年団の舞台美術家である杉山至さんのワークショップを除き、すべての講義を平田さんが担当。丸4日にわたる著書『演劇入門』の直接指導が実現しました。戯曲を書いたこともない受講生たちが、登場人物を決める、プロットを決める、エピソードを決めるなど手順を追いながら創作に挑戦。台詞のつくり方、しゃべり方、エピソードを出す順番など、すべてにおいて平田さんの細かい講評が行われ、演劇をつくるのではなく、その過程を通じて「コミュニケーションをデザインする」ことを徹底的に学んだ貴重な機会となりました。
広島セッション プログラム表