一般社団法人 地域創造

香川県東かがわ市 とらまる人形劇カーニバル2014

 香川県の東端、東かがわ市の「とらまる人形劇カーニバル」が30周年を迎えた。「とらまるパペットランド」(*1)を主会場に毎年秋に開催される人形劇の祭典で、11月1日から3日間、中国から招聘した譚志遠の棒遣い人形舞踊をはじめ、国内プロ人形劇団や県内アマチュア人形劇団による33公演が行われた。広場には屋台も出て、多くの親子連れで賑わっていた。

 同カーニバルは、旧引田町・白鳥町・大内町の合併によって東かがわ市が誕生する17年前の1985年、大内町(人口約1万6千人)の人たちが「第1回レクリエーションと人形劇のカーニバル」を開催したことに始まる。「県内のレクリエーション関係者の交流会に人形劇関係者を招き、講演とパフォーマンスをしてもらいました。急遽追加公演をするほどたくさんの人が集まり、主催した私たちも初めて見たナマの人形劇に魅了された。翌年、有志で手づくりの人形劇カーニバルを始めました」と、当時の町役場職員で、30年間実行委員(第4回まで実行委員長)を務めてきた間嶋喜美雄さんは振り返る。
  89年の第5回からは町も支援。92年には「とらまる公園」(*2)の整備に伴い、西日本初の公立人形劇場「とらまる座」を開設し、間嶋さんが館長となり人形劇の常打ち小屋として年間270回以上もの公演を行った。こうした取り組みが実現した背景には、当時の中條弘矩町長(初代東かがわ市長)の「人形劇への取り組みでオンリーワンのまちに」という強い思いがあった。2002年には、公園内にワークショップや人形づくりが楽しめる体験型施設「とらまる人形劇ミュージアム」も設置し、一帯を「とらまるパペットランド」と命名した。
  当初、その管理運営を担ったのが全国の人形劇人たちが設立した一般財団法人とらまる人形劇研究所だった。研究所ではこれら施設を活用して日本初の人形劇専門学校を開校。05年には卒業生によるとらまる人形劇団(*3)を立ち上げ、座付き劇団として活動を始める。
  しかし、合併による体制の見直しや指定管理料の削減などもあって研究所が運営から撤退。日本で唯一といっていい人形劇人たちの拠点劇場の存続が危ぶまれるなか、14年、そのバトンを受け継いだのが、研究所有志が立ち上げた一般社団法人パペットナビゲートだった。
  その代表を務めるのが、専門学校1期生の貴志周さん(36歳)だ。今回のカーニバルでも事務局としてプログラムづくりから裏方までを仕切り、若い職員と共に飛び回っていた。「大好きな人形劇を仕事にしたいと思っていたけど、どうすればいいかわからなかった。そのとき偶然目にしたのが人形劇専門学校の募集案内でした。製作や演技の実習、劇作理論など創作に関わるさまざまなことをここで学びました」と話す。

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とらまる座内観
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カーニバルで上演されたとらまる人形劇団『サムライぎつね』

 現在、とらまる座ではプロ人形劇団を年20数劇団招き、各1週間(平日は買い取り公演、土日は手打ち公演)ずつ滞在してもらい、年間100回以上の公演を実現(年間1万1千人集客)。ミュージアムでも、毎週末、職員によるミニ公演やワークショップを実施し、パペットランド全体で市の人口に匹敵する年間3万5千人を集客している。このほか、幼稚園など市内14カ所にプロ劇団を派遣するアウトリーチ、とらまる座に刺激されて誕生した地元アマチュア人形劇サークルによる年2回のフェスティバル、小学校人形劇クラブの指導も行っている。

  所管する市教育委員会事務局生涯学習課の赤澤正己課長は、「大内町にとって人形劇は特別なものでしたし、県外への認知度は高かったのですが、合併後の市全域に根づいているかというとまだまだだと思います。小学校の人形劇クラブの指導も今は指導者の数が足りないため、旧大内町内の2校で手一杯です。このまちで人形劇を学んだパペットナビゲートの人たちが、指導者として成長し、一市民として地域で暮らし、もっともっと人形劇を盛り上げてくれることを期待しています」と話す。
  ふるさと創生資金を活用して大内町がとらまる座を整備できた時代に較べて、地域の状況は厳しくなっている。しかし、人形劇学校の卒業生たちが地域で頑張る姿にふれ、30年前に蒔かれた人形劇やパペットランドという種が、これからの地域の希望になるのではないか、と強く感じた取材だった。

(田中健夫)

 

●「とらまる人形劇カーニバル2014」
同カーニバルは過去29回で出演劇団は延べ894劇団、公演回数は1,086回、累計19万4,276人を集客。
[会期]2014年11月1日~3日
[会場]とらまるパペットランド、とらまる公園各施設、丹生コミュニティセンター
[主催]とらまる人形劇カーニバル実行委員会

*1 とらまるパペットランド
日本で唯一の人形劇をテーマにしたテーマパーク。人形劇場「とらまる座」(250席)、人形劇に特化した体験型施設「とらまる人形劇ミュージアム」、「ミニチュア児遊館」の3施設で構成。

*2 とらまる公園
18ヘクタールの敷地内に多目的グラウンドや体育館、キャンプ場、図書館、広場などを配したレクリエーション、スポーツ、文化活動のための総合公園。「とらまる」とは、公園から望める海抜420mの虎丸山にちなむ。人形劇関連施設以外は東かがわ市スポーツ財団が管理運営。

*3 とらまる人形劇団
2005年に一般財団法人とらまる人形劇研究所が運営する人形劇専門学校パペットアークの卒業生により財団附属劇団として設立され、とらまる座の座付き劇団として活動。四国の民話を題材にしたオリジナル作品を発表。2013年に専門学校閉校。研究所とともに岡山に拠点を移す。

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