一般社団法人 地域創造

秋田県北秋田市 大館・北秋田芸術祭オープニングプロジェクト 「根子フェス 2014+ DOMMUNE」

 そのトンネルは、まさに彼岸と此岸を繋ぐような存在感がある。秋田県北秋田市阿仁合(あにあい)にある根子(ねっこ)集落。平家の落人が住み着いた地と言われ、マタギの発祥の地でもある。その集落に向かう約600メートルの、車1台がやっと通れる真っ直ぐに伸びたトンネルが、「大館・北秋田芸術祭2014『里に犬、山に熊。』」のオープニングプロジェクトの舞台になった。キュレーターを務めたアーティストの宇川直宏(ライブストリーミングサイトDOMMUNE主宰)は言う。
  「下見に来た時に、トンネルの音響と根子集落がもつ土着性や大自然のもつ壮大さに圧倒されました。ここなら大自然と人工ミニマリズムの融合が表現できる。インターネット中継することで、秘境集落と都市を結ぶことができる。集まってくれたアーティストたちは、みんな一生に一度の舞台だと言って喜んでくれました」
  宇川はトンネル内に光ケーブルを引いてパフォーマンスを撮影し、世界に配信した。この日は13時から18時頃までトンネルは通行止めになったけれど、そのことで根子は世界に繋がったことになる。
  トンネルに響く自分の声をリアルタイムでサンプリングしながら即興で美しいハーモニーを生み出したハチスノイト、エジプトの伝統舞踊タンヌーラのような旋回舞踊を披露した柊アリス、暗闇でノイジーなサウンドライブを披露した真鍋大度、自分で組み立てたエアコンプレッサーと縦笛で「ゾンビ音楽」を紡いだ安野太郎、野生の叫びのような弾き語りで締めくくった七尾旅人。入り口から出口まで2時間半のパフォーマンスを、地元の人も含めて約200人が“体験”した。

235_オープニングプロジェクト01.jpg
根子集落
235_オープニングプロジェクト02.jpg
根子トンネル

 大館・北秋田芸術祭プロデューサーの中村政人は、「大館一帯では、地元のデパートがなくなったり、映画館が潰れたりして、人が集まる場所がなくなってしまいました。こういう人々が孤立している状況に対し、心を開くきっかけになるような小さなコミュニティをつくらないといけない。アートの力でそれができないかと、2007年から大館市内の空店舗や廃業したデパートなどを舞台に『ゼロダテ』というプロジェクトを始めました。今年は国民文化祭が秋田で開催されるということで、隣接する北秋田を走る内陸線(角館~鷹巣)沿いの山間部にも取り組みを広げました。この地に眠る美術の“地域因子”を育てたいと思っています」と語る。
  3年前、阿仁合の下見に訪れて、中村は驚いた。ふるさと大館から見たら、阿仁合は「合津(かっつ)」と呼ばれる秘境だが、鉱山で栄えた歴史を今に伝える築100年を超える建物や、想像を超える音響のトンネルがあった。そこを抜けると実に美しい景観をもつ根子集落に繋がる。
  根子には、舞の形式が能楽の先駆をなすと言われる国の重要無形民俗文化財「根子番楽」も伝承されている。中村は「歴史も考えれば、ここはインターナショナルなステージ、パフォーミングアートの聖地になりうる地域因子だ」と語る。
  では、地元ではこの芸術祭はどう捉えられているのだろう。根子集落の自治会長・佐藤哲也はこう語る。
  「この集落では、3年前から『番楽祭』を実施してきました。最初の年は遠野のNPOの主催でしたが、2年前からは自分たちでつくってきました。参加者にはトンネルを歩いて来てもらって、広場でお囃子を見ていただく。地元では昼食を100人分つくって歓待しました。集落によそから人が入ることを必ずしも良しとしない人もいますが、そうすることで集落を美しく保とうという気持ちにもなる。トンネルを抜けて初めてこの集落を見た人は、癒しになると言ってくださる。それは集落の誇りに繋がります。ですから、私は芸術祭にも大賛成でした」
  約1000年続く集落には、それを維持する知恵と伝承する文化がある。そこに現代美術のアーティストたちが反応し、新しい「出会いの場」ができる。そうすることで立場を超えて人々の心が開くとすれば、それこそがアートの力なのだろう。

(ノンフィクション作家・神山典士)

●「根子フェス2014+DOMMUNE」
[日程]2014年10月4日
[会場]根子トンネル

●大館・北秋田芸術祭2014「里に犬、山に熊。」
[会期]2014年10月4日~11月3日
[会場]秋田県大館市・北秋田市内各所
[主催]大館市、北秋田市(内陸線アート事業)、平成26年度文化庁地域発・文化芸術創造発信イニシアチブ
[協力]3331 Arts Chiyoda
[企画制作]特定非営利活動法人アートNPOゼロダテ
[参加作家]遠藤一郎、栗原良彰、鴻池朋子、鈴木理策、パトリシア・ピッチニーニ、日比野克彦、平田オリザ、藤浩志ほか

*ゼロダテ
中村政人を中心に大館出身のクリエーターが自発的に立ち上げたアートプロジェクト。ゼロダテ(0/DATE)とは、DATE(日付)をゼロにリセットし、新しい大館を創造するという意味。2007年の大館市商店街空き店舗でのゼロダテ/大館展「この街と歩く。」以来、毎年開催。

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2014年度地域創造レター11月号-No.235秋田県北秋田市 大館・北秋田芸術祭オープニングプロジェクト 「根子フェス 2014+ DOMMUNE」