ステージラボ公立ホール・劇場マネージャーコース
2014年10月15日~17日
文化政策幹部セミナー
2014年10月16日、17日
地域創造では、公立文化施設のマネージャークラスおよび文化政策幹部職員を対象とした研修事業として、ステージラボ「公立ホール・劇場 マネージャーコース」(以下、マネージャーコース)と「文化政策幹部セミナー」(以下、幹部セミナー)を同時開催し、相互交流を図っています。今年度は、劇場コンサルタントで(有)空間創造研究所代表の草加叔也さん(マネージャーコース)と帝塚山大学名誉教授の中川幾郎さん(幹部セミナー)をコーディネーターに迎え、地域創造会議室を会場に開催されました。
●効果の最大化を図る.マネージャーコース
音楽ホールが質の良いコンサートの鑑賞事業を目的としていた時代から状況が大きく変わり、今では地域に公立文化施設があることの意義が根本から問い直されています。そうした状況を踏まえ、今回のマネージャーコースでは、「公立文化施設の効果の最大化を図る」をテーマにした事例が紹介されました。
2日目の最初に登壇したのは、兵庫県豊岡市で豊岡市民プラザと城崎国際アートセンターの館長を兼務する岩﨑孔二さん(NPO法人コミュニティアートセンタープラッツ代表)です。市民プラザは、第三セクターが運営する駅前再開発商業ビル最上階の「空き店舗対策」として2004年に誕生。賑わい創出、市民文化活動支援、子育て支援を目的に多彩な事業を展開してきました。
当時、市企画課の職員だった岩﨑さんは、その計画づくりから担当。「個人で演劇活動をしていたこともあり、“日本一優しいホール”にしたいと思った。平日の午前中に誰もいないロビーではなく、交流サロンにして子どもとお年寄りの居場所をつくった。台風の大規模被害をきっかけに始めた月1回の無料コンサートは100回を超える。教育委員会では対応できない高校生を応援する事業も行っている。ほとんど使われていなかった宿泊研修施設を、アーティストに無料で提供して滞在創作してもらう城崎国際アートセンターも始めた。すべては“この地に生きるため”ということ」と岩﨑さん。
コーディネーターの草加さんは、「ある人がBuilding for Busyであることが重要と言っていたが、生涯学習センターと競合するのではと踏みとどまっていても仕方がない。事業費がなくても施設があれば市民に利活用してもらうことはできる」と施設の存在価値を上げる必要性についてコメントされていました。
また、鑑賞事業に加え、劇場専属舞踊団Noism、1コインコンサート、ジュニア音楽教室、演劇スタジオ、アウトリーチなど多彩な事業を展開する「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」、東京近郊の住宅地という立地にあって、若い芸術監督と多彩なアソシエイト・アーティストと市民が協働してユニークな創造活動を展開している「富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ」についても詳しく学びました。
●公共政策を戦略的に考える~幹部セミナー
幹部セミナーは、公共政策の専門家であるコーディネーターの中川さんの講義から始まりました。「自治体文化政策は、市民文化政策と都市(地域)文化政策の2つの領域にまたがっている」と口火を切り、「条例」「文化振興基本計画」「条例に基づく審議会」「自治体基本構想と文化振興基本計画との対応」「個別施設の基本方針」の有無について、受講生に対するヒアリングが行われました。
非常に活発な活動が行われているにもかかわらず、現場による施設の基本方針しかない自治体、すべてが揃っているにもかかわらず行財政改革の中で機能不全に陥っている自治体、劇場法後の新たな方針を策定中の自治体、首長の交替による政策づくりを求められている自治体、条例や基本計画などは有しているものの指定管理者制度により機能しなくなっている自治体など。ヒアリングを通して、地域の多様な状況が浮かび上がってきました。
中川さんは、「市民文化政策は“人権政策の文化政策”と言い換えてもいい。これからは国際的にも人権について厳しい認識をもたなければならない時代になる。では人権政策として文化政策を考えるとはどういうことか。ありとあらゆる芸術ジャンルをカバーし、0歳から100歳までを意識し、芸術へのアクセス権を考え、文化的人権を保障するということだ。つまり、あらゆる人の“より豊かに自分を表現する権利=表現”、“外部とコミュニケーションする権利=交流”、“外部から得た情報をもとに自分を成長させる権利=学習”が保障されなければならない」とユネスコの考え方などを引用しながら問題提起されました。
こうした考え方の実践として、仙南芸術文化センター(えずこホール)所長の水戸雅彦さんと、可児市文化創造センターaアーラla館長の衛紀生さんがそれぞれの取り組みを紹介されました。えずこホールは96年に広域圏ホールとして誕生し、住民参加型文化創造施設を掲げ、住民参加型事業とアウトリーチを2本柱として事業展開してきました。「自殺率が高く、富裕層と貧困層の二極化が進むなど、生活の豊かさを実感できない社会になっている。“共生社会(さまざまな人たちが住み、いろいろな価値観が認められ、お互いの存在を認め合い、お互いが助け合って生きる社会)”の実現のために、公立文化施設は何ができるのか、何をすべきなのか、を考えていくことが大切だと思う」と水戸さん。
また衛さんは、「健全なコミュニティをつくるのが役所と公立文化施設の共通の目途であり、alaは地域社会にコミットしていくすべての人を視野に入れたサービスを提供する社会機関だと考えている。市民の生きる意欲を醸成し、地域社会から孤立させない穏やかな人間関係を形成し、希望格差のない社会を実現するための“積極的な福祉政策”としての文化行政を目指している」とし、芸術の殿堂ではなく、人間の家をつくりたいと熱く語られていました。
●劇場法について学ぶ~共通ゼミ
今回、共通ゼミのテーマとして取り上げられたのが、平成13年度に制定された「文化芸術振興基本法」に基づき平成24年度に施行された「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律(通称:劇場法)」です。基調講演として、文化庁文化活動振興室室長の北風幸一さんから制定経緯、ポイントおよび「劇場、音楽堂等の活性化のための取組に関する指針」についての解説が行われました。また、法律上の「劇場、音楽堂」は運営方針の明確化が不可欠であること、指定管理期間の長期化といった指定管理者制度の運用への留意、一般公衆に優れた文化芸術を鑑賞させることだけでなく、指針にある社会包摂への留意が必要、といった具体的な指摘も行われました。
コーディネーターを交えたシンポジウムの後、幹部セミナー、マネージャーコースの受講生混成部隊によるグループで討議。発表では、寸劇仕立てなどで、「私はまちのみなさんの新しい広場になりたい、優しさと心揺さぶる感動が生まれる街一番のシンボルになりたい」といったホールの将来像が提案されました。
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