一般社団法人 地域創造

福島県 福島県立美術館「コレクション・クッキング」

 開館30周年を迎える福島県立美術館が、収蔵作品を活用するプロジェクト「コレクション・クッキング」を年間通して開催している。同館では、30年かけて近代以降の作品および福島ゆかりの作家の作品を約3,300点収集してきた。これまでにも節目ごとにさまざまなテーマで紹介されてきたが、このプロジェクトでは、アーティスト、地域住民、高校生など、学芸員以外の人々がコレクションに関わることに主眼が置かれている。

  プロジェクトを企画した学芸員の荒木康子さんは、「震災後、美術館の存在意義はコレクションをもっていることだと改めて思いました。公立美術館のコレクションは福島の人たちのもの。学芸員はそれを展覧会という料理にして提供する専門家ですが、もっといろいろな人に料理人として関わってもらいたいと考えました」と言う。

 メイン企画となる展覧会「近くを視ること/遠くに想いを馳せること─対話と創造」を8月31日に取材した。これは、福島県出身の4組のアーティストがコレクションから作品を選び、自身の作品とともに展示するもので、取材日には参加作家の三瓶光夫による市民向けワークショップも行われていた。「コレクションを選んで展覧会をつくるのは初めてで悩みましたが、最終的には、僕が影響を受けた版画作品を選びました」と語り、加納光於、李禹煥らの作品と自身の新・旧作を展示。「版画とは何か?」を問いかけていた。
  シュルレアリスムの巨匠、マックス・エルンストの『博物誌』とそこからインスピレーションを受けた新作を展示した古川弓子、若い頃に見た福島の洋画家・鎌田正蔵の絵画と自身の彫刻を併せて、震災後に生きる人間の存在を打ち出した彫刻家の高野正晃と、それぞれが工夫するなか、異彩を放っていたのが若手3人組threeの展示だった。
  横20メートルのケース内に多彩な絵画49点をすき間なく展示した上で、作品が見えないようガラス面に曇りシートを貼付。そこに鑑賞者が入口で渡された円形ステッカーを貼るとその小さな円の中だけが透けて見えるという仕掛けだ。「学芸員では絶対に出ない発想です。もっとよく作品を見たかったという意見もいただきましたが、“作品を見ること”を改めて考える機会になったと思います」と荒木さん。

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福島県立美術館外観
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threeが手がけた展示の様子
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館内を回りながら打ち合わせをする高校生キュレーター
 この日は、10月から始まる関連企画「高校生キュレーターによる小さなコレクション展」のミーティングも開かれていた。4チーム・計25人の高校生が参加。6月からコレクションについて学芸員から説明を受けたり、実際に収蔵庫で作品を見たりしながら、展覧会づくりに挑戦している。

  その中の「現代美術チーム」に参加する福島県立福島工業高校美術部の男子生徒たちは、第五福竜丸をモチーフにしたヤノベケンジの『ラッキードラゴン構想模型』を展示したいと話す。「僕たちは、親子で楽しめる現代美術展をつくりたいと思っています。ヤノベさんの作品はカッコイイし、子どもたちに人気が出そう」。一方、桜の聖母学院高校美術部の女子生徒たちは「男の子ウケだけじゃなくて、女の子にも楽しんでもらいたい」と縫いぐるみを使った作品を推している。高校生のひとりは「展覧会をつくるのに、こんなに時間がかかるなんて! 見る人のことを考えて展示されていることがわかり、美術館への興味が深まりました」と話してくれた。
  ほかにも福島大学の学生が出口調査を行ったり、福島市内の文化施設に出掛けてコレクション作品にちなんだ料理づくりや作品鑑賞を楽しむワークショップが行われるなど、多彩なプログラムが展開されている。
  「震災前から美術館の状況は厳しくなる一方でしたが、これまでは県立美術館として広域圏を意識せざるを得ませんでした。しかし、まずは顔の見える地域の方々に美術館は必要だと思ってもらえる努力をすべきだと、今回は近隣にチラシを重点的に配布し、関連企画も充実させました。コレクションを知って、好きになってもらうことが美術館を生かし続ける第一歩になると思うのです」と荒木さん。
  失うことの大きさを知った福島で、地域の歴史の一端となる美術館コレクションを未来に受け継ぐための努力が続けられている。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

●コレクション・クッキング
◎「近くを視ること/遠くに想いを馳せること―対話と創造」
[会期]2014年7月19日~9月15日
[参加作家]高野正晃、三瓶光夫、古川弓子、three
◎「高校生キュレーターによる小さなコレクション展」
[会期]2014年10月1日~12月27日

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