一般社団法人 地域創造

地域創造設立20周年記念シンポジウム 「これからの地域の文化拠点のあり方を考える」

 

モデレーターを務めたのは地域創造の調査研究に長年携わってきたニッセイ基礎研究所の吉本光宏さん、パネリストは劇場法をはじめとした国の文化政策に関わってきた演劇人の平田オリザさん、意欲的なアウトリーチ企画でも知られる世界的なピアニストの仲道郁代さん、沖縄県初のクラシック音楽ホールとして20周年を迎える南城市文化会館シュガーホール芸術監督の中村透さん、ホールを併設した美術館の先駆けで、舞台芸術の国際共同制作に乗り出した高知県立美術館館長の藤田直義さんという、この20年のシーンを牽引してきたキーパーソンだ。今回のレポートでは、パネリストの発言を中心に振り返る。

 

 8月5日、地域創造フェスティバルの一環として「これからの地域の文化拠点のあり方を考える」と題した20周年記念シンポジウムが2時間にわたって開催された。パネリストは各20分の持ち時間でこの20年の変化と現在の問題意識について発表。その内容はいずれも大変興味深いものだった。以下、要旨を紹介すると─。
  30代の無名の演劇人として地域創造の立ち上げに関する諮問委員会に参加した平田さんは、「紆余曲折あったが、貸館中心だった当時に比べて状況は圧倒的に良くなったし、地域創造が果たした役割も小さくない。常々言ってきたが、私は社会の中の芸術の役割を、“芸術そのものの役割”“コミュニティの維持・形成に対する役割”“教育・福祉・観光など社会に対する直接的な役割”の3つに分けて考えている。行政が関わる場合は、限られた予算でこの3つをバランス良くやることが必要。芸術は環境行政に似ていて、今すぐに経済的な利益は得られないかもしれないがやらないと100年後には必ず困るものだ」と前置きし、公立文化施設が演劇や音楽や美術をただ見に行く場所ではなく、こうした役割を果たす場所であるというコンセンサスができたのがこの20年の成果であると評価。
  地域創造設立の1年前に開館した高知県立美術館の藤田さんは、当初の目的は東京と地域の格差を埋めることだったがそれが大きく変わってきたと話す。そのきっかけとなったのが2005年に地域創造の公立文化施設活性化計画支援事業の支援を受けて策定した計画だった。「目標のひとつに“世界と繋がる創造的で質の高い芸術の提供”を掲げ、初めて作品づくりを行った。それで海外公演が実現し、見本市やフェスティバルに招聘されるようになった。これまで見たこともなかった表現と出合い、海外とのネットワークも出来て、金沢21世紀美術館などと共同招聘するようになった。その集大成として昨年行ったのが大型体験プログラムの日韓英国際共同制作『one day maybe いつかきっと』だ。創造発信機能を高めることで、世界に開かれた窓になることができる」と展望した。
  仲道さんは、「当初のアウトリーチが目的にしていたのは、コンサートの集客に繋げるための聴衆教育だった。しかし、果たして集客が一番の目的なのだろうか? 鑑賞することと実践(演奏)することの間に、ワーク(音、言葉、絵、身体を使ってワークする)ということがあるのではないか。ワークすることによって、コミュニケーション能力を高め、創造性を育むことができるのではないか。ワークすることによって一般性と専門性の間を埋めることができるのではないか。音楽を享受するのではなく、音楽を使うことができるのではないか」と、図を示しながら、アウトリーチから生み出された示唆に富んだ創造領域「ワーク」について整理した。
  この20年のエポックのひとつが市町村合併だ。シュガーホールを設置した佐敷町(人口約1万2,600人)も、2006年に合併して南城市(約4万2,000人)になっている。中村さんは、「地域文化をリスペクトした新しい音楽創造について話をしたい」と切り出し、オーケストラと琉球古典音楽・舞踊集団「おきたん有志会」が共演した『黒島口説』の映像を披露。「合併した地域は芸能が盛んであり、村屋的芸能館(基礎的村落共同体の集会所・コミュニティ文化行事の実施場所)とクラシック音楽ホールの2つの期待に応えることが求められた。地域の歴史・物語、伝統芸能、これまでシュガーホールが実施してきた市民参加演劇など多様な表現文化の網の目の中に音楽を位置づけることで、拒否反応が弱くなれば、村屋的芸能館で行われていた“小さな共同体の身体協働”をベースにして“大きな共同体の異文化協働”を実現できるのではないかと思っている。それが世界の多様な文化への共感・参加に繋がる。芸術文化を広めるために文化施設があるのではなく、人間力を高めるために芸術文化がある」とした。
  公立文化施設の活性化を糸口に、創造的な地域づくりを目指してきた地域創造の20年の道程がパネリストの思考の道筋と重なる、思いの溢れた2時間だった。

(坪池栄子)

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シンポジウムの模様
 

●地域創造フェスティバル2014
20周年記念シンポジウム「これからの地域の文化拠点のあり方を考える」
[日程]8月5日
[会場]東京芸術劇場シアターウエスト
[モデレーター]吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所研究理事・芸術文化プロジェクト室長)
[パネリスト]仲道郁代(ピアニスト、地域創造理事)、中村透(作曲家、南城市文化センター シュガーホール芸術監督、地域創造顧問)、平田オリザ(劇作家・演出家、こまばアゴラ劇場芸術監督、劇団「青年団」主宰、地域創造理事)、藤田直義(高知県立美術館館長)

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