一般社団法人 地域創造

沖縄県南城市 南城市文化センター シュガーホール開館20周年記念国際音楽祭開会式典・コンサート

 地域創造と同じく、1994年に産声を上げた沖縄県南城市文化センター・シュガーホールが開館20周年を迎えた。地域を拠点にした自主事業型ホールの旗手であり、2005年には第1回「総務大臣賞・JAFRAアワード(現・地域創造大賞)」を受賞した。本島南部、サトウキビ畑が拡がる地に県内唯一となるクラシック音楽専用ホールを計画したのは、合併前の旧佐敷町。町民の不安を抱えたままスタートしたホールを芸術監督として招かれた中村透(当時琉球大学教授)とクラシック中心に不満をもつ若者とが“コミュニティの文化づくりの場”となるようシフトチェンジしていくプロセスや、町民参加型事業の展開はホール関係者によく知られている(*1)。6月8日、開館20周年記念として催された「国際音楽祭開館式典・コンサート」に出掛け、新たな旅立ちを取材した。

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式典コンサートの様子
 
 
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コンサートでは、2012年に結成した「シュガーホールオーケストラ」(「おきでんシュガーホール新人演奏会」(*2)の出場者や県内外の演奏家で編成。年1回ニューイヤーコンサートを開催)が、沖縄では演奏家を揃えるのが難しいと言われる弦楽器の美しい音色を響かせていた。
  プログラムで特徴的だったのは、中村編曲による『かぎやで風』と『黒島口説』だ。前者は祝典に付きものの祝儀舞踊で、琉球古典音楽をオーケストラが演奏し、男女3組が優雅な舞を披露した。後者は黒島の生活をユーモラスに表現したもので、オーケストラ、南城市在住の琉球舞踊と琉球古典音楽の実演家集団「おきたん有志会」が競演。ハヤシ言葉や客席の手拍子も混じったチャンプルーな世界をつくり上げた。
  また、新人演奏会の入賞者をソリストに迎えた演奏も披露された。現在ドイツのワイマール歌劇場で活躍する声楽家・重島清香さん(南城市出身)は、マーラーの歌曲を熱唱。「このホールは、中学や高校時代にいろいろな体験をさせてもらった特別な場所。ここがあったから今の私があるし、地元にこういう帰るべき場所があって幸せです」と話す。
  05年からは子どもたちを対象にしたジュニアコーラスの育成を行っているが、同ホールを拠点にする2つの合唱団と一緒に、約60人の大合唱団で祝典を盛り上げていた。
  佐敷町は06年に周辺3村(知念村、大里村、玉城村)と合併し、人口4万人の南城市となった。合併を見据えて町民による運営審議会が提案書を作成し、条例を整備し、芸術監督を芸術アドバイザー設定規程として明文化(現シュガーホール芸術監督設置規程)。他の3村に文化施設がなかったことから「新しい南城文化を創造していく」拠点として位置づけ、新市全域にアウトリーチなどを拡大して8年余り。所管は生涯学習課から新市の観光・文化振興課文化振興係へ、そして現在の企画部まちづくり推進課に代わったが、旧町時代と変わらずシュガーホールに事務所を構え、今回も若い職員がホールの現場を飛び回っていた。
  07年に大学に専念するためシュガーホールを離れて陰で支えてきた中村は、昨年度から芸術監督に復帰した。「町民ミュージカルの制作プロセスを通して市民、地域で文化活動をする人たち、専門家との結びつきが生まれ、みんなで創造することをまちの文化にしてきた。さらに伝統芸能が盛んな地域との合併で、人の繋がりも広がった。これからは沖縄の芸能の新しいあり方を求めて、洋楽などとの垣根を越えた総合的なパフォーマンスをつくっていきたい」(中村)
  開館20周年の今年から第2期「シュガーホール活性化計画」がスタートする。その柱のひとつが今回のような伝統芸能への取り組みだ。そしてもうひとつの柱が、開館当初から力を入れてきたアウトリーチを発展させた芸術教育プログラムへの挑戦である。「シュガーホールオーケストラを立ち上げたのもそのためです。すでに昨年からオーケストラメンバーで2つのアンサンブルを組み、14歳の子どもを対象に学校でワークショップ型の授業を行い、ホールで生のオーケストラを体験する取り組みを始めました。そのための独自教材なども開発しています」(中村)
  こうした明確な方向性を打ち出せるのも、これまでの蓄積と自信があってこそだろう。沖縄の地で自主事業型ホールの旗手としての挑戦が今日も続いている。

(ライター・田中健夫)

 

●南城市文化センター シュガーホール沖縄初の音楽専用ホールとして1994年に開館。客席数510席。また、敷地の中央には野外劇場にもなる「つきしろ広場」があり、図書室や児童室、実習室、会議室、集会室等が取り囲む。

 

●開館20周年記念国際音楽祭開会式典・コンサート
[日程]2014年6月8日
[主なプログラム]『かぎやで風~琉球古典音楽、琉球舞踊とオーケストラのための~』(編曲:中村透)、「ニュルンベルクのマイスタージンガーより第1幕への前奏曲」(シュガーホールオーケストラ)、「新人演奏会入賞者をソリストに迎えて」(福富祥子(チェロ)、重島清香(メゾ・ソプラノ))、市民合唱とオーケストラ『芭蕉布』、『黒島口説~琉球古典音楽、琉球舞踊とオーケストラのための~』(作・編曲:中村透、 振付:新里春加)

 

*1 雑誌地域創造7号・19号、中村透著
『愛される音楽ホールのつくりかた─沖縄シュガーホールとコミュニティ』(水曜社)参照

 

*2 沖縄電力や沖縄タイムス社の支援により毎年開催。16歳以上30歳以下の国内外若手音楽家を対象とするオーディション(声楽、ピアノ、弦楽器、管・打楽器の4部門)入賞者による演奏会。昨年度までの入賞者は182人。シュガーホールオーケストラには入賞者をはじめ、県内外の演奏家が参加。

 

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