一般社団法人 地域創造

福岡県朝倉市 共星の里 15周年記念展 「Nexus-International Fiber Works' Expressions /繊維による表現」

 大分自動車道の朝倉インターから車で20分ほど。夏には蛍が銀河のように乱舞するという山間の集落に、廃校を活用した山里の美術館「共星の里」がある。全国的に廃校が増えはじめた2000年に開館。廃校利用の先駆者でもある同施設の15周年記念展「Nexus」を目指して山里を訪ねた。

 館内に足を踏み入れて驚いた。廊下では、ネオ・ダダ(1960年に結成された前衛集団)の重要作家である吉野辰海の巨大な犬の彫刻がお出迎え。風倉匠、木下新、京都の彫刻家・富樫実など、錚々たる作家の作品が教室や廊下に自然体で展示されているのだ。「Nexus」展でも、14カ国47作家の作品が小品ながら愛情をもって教室に展示されていた。明治時代に建てられた講堂の廊下の棚には地元の人がつくった木造のミニチュア機織り機が作品のように並び、渾然一体に作品が展示された講堂内では薪ストーブの周りで子どもたちがワークショップに夢中になっていた。地元の食材を使ったレストランやアーティストのレジデンス機能もある。
  現代アートと生活と自然が一体化したふるさとのような美術館が山里に生まれた経緯を、運営者の尾藤(おとう)悦子さん、レジデント・アーティストでアートディレクターの柳和暢さんにうかがった。

Photo09.jpg
1.共星の里館内。さまざまな作品が来館者を出迎える(吉野辰海作の犬の彫刻)
Photo10.jpg
2.「Nexus」展展示風景(栗田徹の作品)
Photo11.jpg
3.校庭にも作品が展示されている
Photo12.jpg
4.講堂で行われていた柳和暢さんの子ども向けワークショップ

 旧甘木市(2006年に朝倉町・杷木町と合併し朝倉市に)高木地区にあった黒くろがわ川小学校は、過疎化のため1995年に廃校となった。地域や市で校舎を活用する道を模索したが決定打が出ず、98年に企画を一般公募。28件の企画から選ばれたのが、尾藤長司・悦子夫妻らによる「共星の里国際芸術研究所」の提案だった。
  黒川小学校は悦子さんの母校で、「当時、音楽やファッションの仕事をしており、創造にとって環境がいかに大切かを考えていた。この自然に抱かれた場所でならできることがたくさんあると思いました」と振り返る。そこにサンフランシスコから帰郷した柳さんが合流する。
  柳さんは、学生時代から前衛芸術集団「九州派」や「ゼロ次元」と交流のあったアーティストで、尾藤夫妻の古くからの友人でもある。71年に渡米し、巨大なライブペインティングや喜多郎のアルバムジャケットのアートワークを手がけるなど欧米で活躍していたが、親の介護を機に50歳で帰郷したところを誘われた。「僕はアメリカで同じようなノンプロフィットの活動が失敗する例も見てきた。最初に『絶対にやり通すのだな』と覚悟を確かめた。だから、彼らも僕もここをやめることは考えられない」と笑顔で話す。
  98年、甘木市は約5,000万円かけて元の姿を遺して、傷んだところや水回りなどを改修。00年4月の開館以降、入館料などを足しにしながら自己資金による運営を15年間続けてきた。
  当初は世界中の子どもの絵を収集、展示する「世界こども美術館」を軸としながら、子どもから大人まで楽しめるアート体験やコンサート、農業体験など多彩な活動を展開。「多様性を認め合えるのがアートの力」という思いから障害者アートへと活動も広がり、03年、04年、06年には地元の原鶴温泉街に作品を展示する「エイブルアートin原鶴」も開催。
  また、柳さんの人脈を生かした現代アートの企画展を行う「黒川INN美術館」としての活動も年々充実。今では国内外のアーティストによるグループ展や個展を年5回ペースで開催している。今回の「Nexus」展も、柳さんの国際展仲間である作家の石井香久子さんをゲストキュレーターに招いて企画されたものだ。近年では作家やその遺族、評論家などから作品の寄託を受けることも多く、すでに3,000点の作品が所蔵されているという。昨年開催した初のコレクション展「ALL STARS」では、サンフランシスコ時代から交流していたジェームズ・タレルや工藤哲巳、今井俊満ら63名100点以上の作品が展示された。
  ただの美術館ではなく、地域の人々と手を取り合い、地域コミュニティの拠点としてお祭りの直会や同窓会・敬老会の会場にもなる共星の里。「この地に深く根づく生活文化と現代アートは共存し、夜空の星のように共に輝いていけるはず」という悦子さんの思いが息づいた山里に、また帰ってきたいと強く思った。

(アートジャーナリスト・山下里加)

 

●「Nexus─International Fiber Works'Expressions/繊維による表現」
[会期]2014年3月22日~5月18日
[主催・会場]共星の里 黒川INN美術館
[参加アーティスト]47名(日本、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、ノルウェー、ウクライナ、ラトビア、リトアニア、ベルギー、メキシコ、コスタリカ、韓国、インドネシア)

カテゴリー

ホーム出版物・調査報告等地域創造レター地域創造レターバックナンバー2014年度地域創造レター6月号-No.230福岡県朝倉市 共星の里 15周年記念展 「Nexus-International Fiber Works' Expressions /繊維による表現」