ブレーカープロジェクト
「ex・pots 2011-2013」
大阪市による地域密着型アートプロジェクト「ブレーカープロジェクト」では、2011年から西成区で4名のアーティスト(梅田哲也、呉夏枝(おはぢ)、大友良英、山田亘)による3年間の継続プログラムを実施。その集大成となる「ex・pots 2011-2013」を開催し、2月中旬から3月にかけてコンサート、展覧会、まちなかツアーなどを行った。
ブレーカープロジェクトは、03年に通天閣のある新世界界隈(浪速区)を対象に“社会とアートを繋ぐ”活動として立ち上がり、10年かけてその対象を少しずつ拡大。現在は西成区山王地区にある古アパートを創造活動拠点として再生中の「新・福寿荘」を拠点として活動。再開発から取り残された古い住宅街であり、遊郭の面影を残す飛田新地や日雇い労働者が集まるあいりん地区などに隣接しているという複雑な背景をもつこの地域との連携を深めてきた。
当初からディレクターを務める雨森信さんは、「はじめは抽象的な思いが先行していましたが、次第に住んでいるひとり一人の顔が見えてきて、このまちとアートに何が必要なのかを具体的に考えるようになりました」と言う。その言葉どおり、今回の集大成は、地域との丁寧な関係づくりがうかがえる内容になっていた。
美術作家の山田亘が行ったのは、住民へのささやかなエピソードの聞き取り。それを満載した手描きの「西成なるへそ新聞」は25号にもなり、地元住民の記者も誕生した。また、女性の記憶をテーマにする呉夏枝は、不要になった編み物を集めて、女性たちと語らいながら“ほどく”ワークショップを積み重ねていった。当初はデイケアセンターで行っていたが、誰でも参加できる場所を住民の協力で探し、元タンス店を手づくりで改装して「kioku手芸館『たんす』」を開設。呉とサポートスタッフは100着に及ぶ編み物と、ともに語らう地域の女性たちの思いを“ほどき”、その際に出た糸くずなどを使ったインスタレーション作品《光のけはい、ゆらめく影》を制作。「なるへそ新聞」と併せて、西区の江之子島文化芸術創造センターで展示を行った。
山王というまちを強烈に浮き上がらせたのが梅田哲也のフィールドパフォーマンス+展覧会「O才」である。“O才”とは、価値観や知識などを“0”にしてみようという意味。地図を手渡された鑑賞者が、崩れ落ちそうな廃屋や迷路のような路地、飛田会館にまで遊覧するという趣向で、この地域のいやおうない現実(生活)と不穏さを含んだ虚構(作品)が混じり合い、唯一無二の“この場所”を印象づけた。梅田の3年にわたる調査と、ブレーカープロジェクトと地域の信頼がなければ成立しない内容だった。
ブレーカープロジェクトは、今後は西成区の事業として継続していくことが決定しており、コンサートには区長も挨拶に掛けつけた。
3年という一区切りを経て雨森さんは、「地域課題に関しては安易なことは言えませんが、私たちと地域との繋がりはこの3年で格段に強くなりました。また、“地域コーディネーター”と呼べるような方々の顔が見えてきたので、将来はこの方たちが主体となって動かすプロジェクトへと育っていく可能性も。私たちは、西成でまた別のアートの種を蒔き、芽吹かせていこうと思っています」という。
この地域の課題は重く深い。だがその堅い大地にこそ根を張り、芽吹く活動がある。今後を見守りたい。
(アートジャーナリスト・山下里加)
●大阪市現代芸術創造事業
Breaker Project「ex・pots 2011-2013」
[主催]ブレーカープロジェクト実行委員会
◎展覧会1 呉夏枝・山田亘
会期:2014年2月15日~3月2日
会場:大阪府立江之子島文化芸術創造センター
◎展覧会2 梅田哲也「O才」
会期:2月22日~3月9日の金・土・日
会場:大阪市西成区山王一帯(メイン会場4カ所ほか)
◎コンサート「子どもオーケストラ」
会期:2月11日
会場:西成区民センター
出演:大友良英、西成区内の子ども・おとなたち、河辺知美、横沢道治、PIKA☆