ステージラボ長崎セッション報告 2014年2月18日~21日
ステージラボ長崎セッションの会場となったのは、開館16年目を迎える長崎ブリックホールです。今回は、若手講師陣を揃えたホール入門コース(大月ヒロ子コーディネーター)、アウトリーチをテーマにした自主事業Ⅰ(音楽)コース(児玉真コーディネーター)、想像力をテーマにした自主事業Ⅱ(演劇)コース(内藤裕敬コーディネーター)が開講されました。
また、受講生全員によるフラッシュモブにも初挑戦。これは、共同作業による受講生同士の交流を深め、地域とホールを繋ぐ新たな試みを体験することを目的とした「共通プログラム」として企画され、振付家・ダンサーの森下真樹さんの指導で、総勢60人が長崎駅前の広場でパフォーマンスを披露。その模様は地元放送局にも取り上げられるなど、話題となりました。
●座学と対話で考えた入門コース
入門コースでは、地域との関わりを改めて考える材料として、公立ホールの立場からいわきアリオスの長野隆人さん(広報グループチーフ)、異なる視点から中村茜さん(株式会社precog代表)と大澤寅雄さん(株式会社ニッセイ基礎研究所)が講義を行いました。
中村さんは、革新的な創造活動と地域を繋ぐプロジェクトを立ち上げてきた若手プロデューサー。国東半島アートプロジェクト「いりくちでくち」では、お寺・農家・海岸といったポイントをバスで移動しながら、日の出から日の入りまでの12時間を地元高校生たちのナビゲートでツアーする企画を実施。「飴屋法水さんが2カ月現地に滞在してつくりました。地元の人たちにも沢山関わっていただきましたが、ここでのアーティストの創造は、繊細な作業を積み重ねて信仰心の厚い国東地域の匂いを強化することでした」と話し、地域と芸術との協働作業の実践として、自らの活動を紹介しました。
また大澤さんは、宮座(神社の祭祀に携わる特権的な組織・集団)によって支えられてきた上鴨川住吉神社(兵庫県加東市)の神事舞や、悪鬼ではなく祖先が姿を変えた祖霊神として角のない鬼が登場する天念寺(大分県豊後高田市)の修正鬼会などの民俗芸能を題材に講義。「民俗芸能があることによって、価値観、美意識、倫理観、社会規範、生活習慣という地域のアイデンティティが伝わり、世代間交流、地域間交流、異文化交流というコミュニケーションが伝わっている」とその存在意義を説き、文化や芸術を生態系の一部としてとらえる重要性を指摘されていました。
入門コースにしてはハードな座学でしたが、講師との対話時間も多く準備され、受講生からは「他ホールと課題や悩みを共有でき、さらに講師陣の実際の体験談が今後の業務へのヒントとなった」との声が上がっていました。
●“アウトリーチ”と“遊び”の多様な展開
音楽コースでは、各地におけるアウトリーチの多様な展開が報告されました。
市内全小学校へのアウトリーチに加えて、街中のあらゆる場所を文化スペースとする「小美玉市まるごと文化ホール計画」に着手した小美玉市、市民同士がワンコインの料金で学び合う生涯学習システム「たじみオープンキャンパス」により資金を捻出して、小学校へのアウトリーチなどを継続している多治見市文化会館。特に課題に対する新しいプログラムを次々に開発している多治見市の取り組みは刺激的でした。
開発を主導してきた菱川浩二さんは、「音楽を技術や知識の習得ではなく、楽しいという特殊体験として届けることの重要性を実感しました。アウトリーチ事業により、外部評価は高くなりますが、ホールの集客に直接結びつくものではない。それでお金を払って劇場に来る聴衆を増やすため、有償アウトリーチという位置づけで、住民に馴染みのある公民館で実施できる低価格(800円)の提携コンサート『たじみmusicトレイン』を始めました」と紹介。また、東海3県のホールを連携して音楽企画を募る新たな取り組みにも着手したとのことで、注目されます。
また、地元演奏家による展開事例として、長崎の柴田健一さん(トロンボーン)によるジャズのアウトリーチと、沖縄の新崎誠実さん(ピアノ)による実験的なアウトリーチ(わずかなスポットと懐中電灯のみという暗い中で聴覚を研ぎ澄まし、受講生の朗読とコラボレーション)のデモンストレーションも行われました。
演劇コースでは、映画、音楽からイメージした絵などを題材に、“遊び”によって想像力が羽ばたく体験を共有しました。例えば2日目に行われたのが映画で“遊ぶ”ワークショップです。ベトナム戦争を題材にした『フルメタル・ジャケット』(スタンリー・キューブリック監督)を鑑賞し、「主人公は少女のどこを撃ったか? それは何故か?」「もう何も怖くない、では今まで何が怖かったのか?」といった課題に対するレポートを作成。グループディスカッションを経て、映画のキャッチコピーづくりに挑戦しました。さまざまな課題を与えられることで、“遊び”の視点からこの映画に向き合った成果は、「あなたは狂気のジャケットをまとえるか」「見れば2時間、語れば4時間、考え始めると長期間」などのユニークなコピーに結実。内藤さんは、「こうやって“遊ぶ”ことで想像力が刺激され、それが創造にも繋がっていく。今日のような体験を皆さんが提供することで想像力が豊かになり、人生が豊かになる」とエールを送っていました。