国際ハープフェスティバル2013─草加市
楽器として知ってはいるものの、コンサートを聞く機会がほとんどないハープ。しかし、草加市民は、1989年に「国際ハープフェスティバル」を立ち上げて以来、四半世紀にわたってその音色に親しんできた。今年で25回目を迎え、国内最大級のハープの祭典となったフェスティバルの模様を取材した。
会期は9月6日から11月17日で、市内の小中学校4校でのハープ体験・出前コンサート、市役所ロビーや駅前など7カ所での「スポットコンサート」、国内外の一流ハーピストが出演する草加市文化会館でのフェスティバルコンサートとファイナルコンサートなどを開催。また、若手ハーピストの登竜門として知られる「日本ハープコンクール」(日本ハープ協会主催)を第1回のフェスから同時開催し、ファイナルコンサートで表彰式と優勝者の演奏を行ってきた。
17日のファイナルコンサートの日には、ロビーでは市民サークルによる小型のレバーハープ体験コーナーが設けられ、みんな珍しそうに楽器に触れていた。幅広い年齢層の市民でほぼ満席となった会場では、プロフェッショナル部門で優勝したロシアのスシュコワ・オクサナによる独奏、高砂小学校児童による合唱、ヴァイオリニストの前橋汀子による演奏など多彩なプログラムを展開。何と言っても圧巻だったのは舞台上にズラリと並んだ22台のグランドハープによる合奏で、フェスのために委嘱された毎年恒例のテーマ曲『菊の花の祭り』(作曲:増田宏三)が披露され、フィナーレを迎えた。
草加市がハープ事業に取り組むことになった発端は、1988年10月にスタートした「音楽の森ミニコンサート」だった。これは、今井宏市長時代(77年~93年)に“まちのあちこちから音楽が聞こえてくるまち”を目指して立ち上げた「街かど音楽事業」で、現在まで270回以上続けられている(ちなみに今年度は市役所ロビーや草加駅コンコースなどで14回実施)。その1回目に市役所中庭で演奏したのが、当時、草加市にキャンパスがあった上野学園大学短期大学部音楽科(05年上野に移転)の教授で、世界的ハープ奏者のヨセフ・モルナールさんだった。
「上野学園が立地していたのに加え、公民館活動を中心に合唱など市民の音楽活動が活発で、草加宿を歩いた芭蕉という文化資源もありました。それを踏まえ、1972年に始まる総合振興計画において“音楽と文化のまちづくり”を掲げ、幾つかの音楽事業を立ち上げました。そのひとつが音楽の森ミニコンサートで、モルナールさんと市長が出会ったことがきっかけになりハープフェスティバルが始まりました」と、元市職員で現在は草加市文化会館を指定管理者として運営する公益財団法人草加文化協会の佐野栄一事務局長は振り返る。93年には「草加市音楽都市宣言」(*)が行われ、ハープフェスティバルはそのシンボル的な事業として継続されてきた。
「草加市文化会館は元々県立だったのですが、98年に市に移管され、フェスティバルも2001年から財団で手がけるようになりました。客層を広げるため、ハープだけでなく、この機会に他の楽器のゲスト演奏家も招いたり、市民の発表も加えてプログラムを広げ、有料化しました。フェスティバルポスターのデザインもPRのためコンテストにしました」と、財団の秋山えみ事務局次長は話す。
今では市内に3つのサークルが誕生し、13台のレバーハープが揃う中央公民館を拠点に活動し、フェスティバルには合同の「草加市レバーハープ・アンサンブル」として参加。長年にわたって市民にハープを指導し、フェスティバルにも出演してきたハープ演奏家の鷺谷清子さんは、「つま弾けば音が出るハープは気軽に始められるし、肺活量の衰えなどが影響する管楽器などと違って歳をとっても長く続けられる楽器です。メンバーには80歳代の人もいて、始めるとやめる人はあまりいません」と話す。
音楽都市宣言から20年。ハープフェスだけでなく、草加市民音楽祭、草加市民吹奏楽団、草加ジュニアオーケストラなど、子どもから高齢者まで世代を超えて市民が音楽に親しむまちづくりが、草加では息長く続けられていた。
(ライター・田中健夫)
●草加市文化会館
前身は1972年2月に埼玉県が設置したホール棟と結婚式場棟を併設した埼玉県草加文化会館。当初は財団法人埼玉県草加文化協会が運営。98年4月に建物を草加市に移管し、名称を「草加市文化会館」「財団法人草加市文化協会」に改称。市では結婚式場棟をコミュニティ棟(会議室や伝統産業展示室など)に大幅リニューアル。
[施設概要]ホール(1,198席)、音楽室、研修室、会議室、レセプションルームほか
●国際ハープフェスティバル2013 ─草加市
[主催]草加市、公益財団法人草加市文化協会、日本ハープ協会、上野学園大学・同短期大学部
[会期]2013年9月6日~11月17日
・フェスティバルコンサート(11月16日)
出演:キャロル・マクラフリン、草加市レバーハープ・アンサンブル、中丸三千繪ほか
・ファイナルコンサート(11月17日)
出演:マリオ・ファルカオ、高砂小学校児童、前橋汀子ほか
*草加市音楽都市宣言
綾瀬のほとりにメロディー流れ草加のまちなかにリズムあふれる人々の心にハーモニー生まれよろこびとやすらぎが満ちる新しい味わいと共感の息づく我がまちここに音楽都市を宣言する