人口約18万人の小平市は、新宿から電車で約30分。かつての農村地帯は、関東大震災後に都営住宅が数多く建設されるなど宅地化が進み、高度成長期に東京のベッドタウンとして人口が急増。ルネこだいらは、小平駅から徒歩3分の好立地にあり、都営住宅の高層化による跡地に団地との複合施設として建設された。
昨年から始めた夏休みフェスタは、小平青少年吹奏楽団が2006年から実施していた「ミュージック・スクウェア(音楽広場)」と、小平こども劇場が02年から実施していた「『芸術家と子どもたちとの出会い』フェスティバル」を合体させたものだ。「全館を使ったイベントにして、夏休みの1日を家族で楽しんでもらえればと思いました。財団も加わり、3者で実行委員会を組織し、準備を含め1年中活動しています」と、開館以来財団職員として事業を担当してきた小平市文化振興財団の玉井文子さんは言う。
ロビーや展示室では、終日、近隣の大学生たちによるワークショップや遊びが行われ、ホールでは吹奏楽団やオペラ団体、市民ジャズグループ、人形劇団による本格的で楽しいステージが行われ、延べ3000人が来場。吹奏楽団の企画では、「楽器の隣で聴いてみよう」と題してリハーサルを公開し、子どもたちをステージに上げて自由に歩き回らせていた。無料で行われた本番では、子どもから高齢者まで満席の聴衆が気持ちをひとつにステージに集中し、成熟したホールのひとつの姿を顕していた。
合唱団が活発に活動していた小平市では、発表の場を求める市民の要望を受け、市にとって初めての公立ホールとして同館を建設し、運営財団を設立した。財団の設立趣意書を見ると、「市民が自主的で多様な文化活動を積極的に展開できるよう側面から支える」とある。オープニングは公募市民による第九で、430人の合唱団を舞台に乗せるため張り出し舞台をつくったほど盛況だったという。「市民合唱は実行委員会が市民を公募しながら継続し、毎年200人が参加しています。当初から市民の力の活用を目指していましたが、指定管理者(非公募指定)への移行に伴い、事業内容を『鑑賞型』『市民参加型』『次世代育成型』に整理しました。夏休みフェスタは、運営段階から市民を巻き込む市民参加型の重点事業です。稼働率が高く、吹奏楽団などの文化団体をフランチャイズにできる状況にはありませんが、積極的に連携し、助け合っています」と玉井さん。
自主事業本数は展示を含め年間平均50本を超える(事業担当5名)。昨年度完売した事業には、落語名人会、日本フィル、ローマ室内オーケストラ、よしもとのお笑いなどの大ホール事業に加え、聴衆育成の低料金クラシックコンサートが並んでいる。開館以来続けているドリンク付き1,500円のサロンコンサートは100回を超え、10年前に始めたアフタヌーンコンサートとともに邦楽、民俗音楽などの変わり種でも完売。昨年から本格的なコンサートを気軽に楽しむ「1hourコンサート」をスタートし、昨年は清水和音、河村尚子、小川典子のピアノコンサートを完売させている。大ホールでのワンコインのランチタイムコンサートも最高で900人を集めるまでになった。
「コンサートを楽しもうとすると都心まで出掛けなければならない。“寝に帰るだけの町”ではなく、休日を地元で楽しめるような環境づくりが必要だ」─20年前のこうした問題意識から生まれたホールが、首都近郊のメリットを生かした鑑賞事業で“住文接近”のライフスタイルを実現している。このことを再評価するタイミングが来ているように思う。
(坪池栄子)
●ルネこだいら
1993年開館。都営住宅美園団地219戸との複合施設。クラシックコンサートを主目的とした大ホール(1,229席)、中ホール(401~555席)、レセプションホール(141㎡)、展示室、練習室3室、会議室など。指定管理者:公益財団法人小平市文化振興財団
●「2013ルネこだいら夏休みフェスタ」
[日程]2013年8月25日
[プログラム]ミュージック・スクウェア吹奏楽コンサート(小平青少年吹奏楽団、都立小平高等学校吹奏楽部)、オペラ『カルメン』(一般財団法人オペラアーツ振興財団)、人形劇『ふたりはともだち』(人形劇団ひとみ座)、ジャズ・コンサート(マンデー・ストリーム・ジャズ・オーケストラ)、ルネde楽器めぐり(小平青少年吹奏楽団)、リサイクル楽器をつくってみよう(嘉悦大学)、プロムナード・コンサート(錦城高等学校吹奏楽部卒業生)、パフォーマンスの広場(嘉悦大学)、子どもの広場(武蔵野美術大学)