●ステージラボ公立ホール・劇場マネージャーコース
2013年9月4日~6日
●文化政策幹部セミナー
2013年9月5日、6日
地域創造では、公立文化施設のマネージャークラスおよび文化政策幹部職員を対象とした研修事業として、ステージラボ「公立ホール・劇場 マネージャーコース」(以下、マネージャーコース)と「文化政策幹部セミナー」(以下、幹部セミナー)を同時開催し、相互交流を図っています。今年度は、蜷川幸雄芸術監督率いる彩の国さいたま芸術劇場等を運営する公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団の竹内文則理事長(マネージャーコース)と、鳥取大学の野田邦弘教授(幹部セミナー)をコーディネーターに迎え、地域創造会議室等を会場に開催されました。
●さいたま芸術劇場を視察.マネージャーコース
1日目は、実際にさいたま芸術劇場に出向き、蜷川演出による『ヴェニスの商人』ゲネプロ鑑賞や施設見学、竹内理事長によるさいたま芸術劇場をケーススタディとする講義が行われました。1994年に開館した同劇場は、大ホール(776席)、中ホール(最大346席)、音楽ホール(604席)、映像ホールに加え、ソフトをつくり出す施設として多くの稽古場を有しています。
開館から10年間の草創期は音楽家の諸井誠館長兼芸術総監督が率い、クラシック音楽を柱にした世界的なプログラムを展開。「私は元銀行員で2004年に理事長に就任するまで劇場の存在さえ知らない門外漢だった。草創期は地域づくりを意識しない運営で芸術性を徹底追求できたが、10年経って状況が変わり、高い芸術性と採算性を両立させなければならなくなった。04年からは第2創業期として事業を整理し、収益性を改善するとともに、劇場を動かすのは人であるという考えでプロデューサーなどの充実を図っていった」と竹内理事長。
また、同劇場ダンス部門のプロデューサーを務める佐藤まいみさんの講義では、「劇場以外で行われるダンスが増えている今日、改めて劇場の役割を見直してみたい」と、1984年から2年に1度開催されているフランスのリヨン・ダンス・ビエンナーレの事例が紹介されました。「当初はダンス専門劇場でハイアートなダンスが紹介されていたが、今では子どもや市民を巻き込んだ盛大な市中パレードが行われるような展開になっていて驚いた。専門スタッフを抱えた劇場があったからこそ、こうした継続的な展開が可能になったのであり、劇場の役割を広げれば地域でもっと多様なことができる」と問題提起されていました。
2日目からは会場を地域創造に移し、豊富な事例紹介を含む講義が行われました。地域づくりをテーマにした講師陣はこれまでになく多彩で、ご当地グルメでまちづくりを成功させた富士宮やきそば学会会長の渡邉英彦さん、静岡県東部のまちづくりで有名なNPO法人駿河地域経営支援研究所理事長の深澤公詞さん、民間企業として多くの公立文化施設の指定管理者となっているサントリーパブリシティサービス株式会社の伊藤せい子さん(江戸川区総合文化センター館長)などが刺激的なトークを展開。深澤さんは、「地域の発展に結びついてこそ(公立文化施設の)存在価値が高まる。これからは商業よりも感性によってまちの活性化が起きる時代になる。そのためにもマネージャーは管理者ではなく、イノベーターであることが必要だ」と檄を飛ばしていました。
また、公立文化施設を取り巻く環境変化として理解しておくべき「劇場法」や「アーツカウンシル」について東京大学大学院准教授の小林真理さんの講義も行われ、「文化に関心がなく劇場に来なかった人たちにどうアプローチするかの普及啓発事業が、これからますます大切になる」と話されていました。
●創造都市と文化によるまちづくりを学ぶ~幹部セミナー
幹部セミナーのテーマのひとつが、野田教授の研究されている「創造都市」です。経済発展につれて就業人口が第一次産業→第二次産業→第三次産業へと移ることを確認した「ペティ=クラークの法則」から始まり、脱工業化社会はスモールビジネスが中心のハイタッチ(人の心を捉える)社会になるという大内秀明著『知識社会と経済学』、そして創造都市論の教科書とも言えるリチャード・フロリダ著『クリエイティブ・クラスの世紀』までさまざまな出典を引用しながら、大学さながらの講義が行われました(※創造都市については本誌「制作基礎知識」で関連記事を連載中)。また、国内事例として、横浜市職員時代に自ら携わった都市政策「クリエイティブシティ・ヨコハマ」についても経験に基づいた紹介が行われました。
また、同じく創造都市研究で知られる大阪市立大学創造都市研究科の佐々木雅幸教授からは、バルセロナなど海外の創造都市事例や、今年の1月に設立された創造都市ネットワーク日本についての紹介も行われました。自治体幹部として、一流の専門家から文化による都市政策の基礎を学ぶ良い機会になったのではないでしょうか。
●アートからのアプローチ
今回の特徴のひとつは、共通ゼミの中でアートによる地域づくりも取り上げられたことです。中心市街地活性化を成功させた事例として、全国的に注目されている施設「八戸ポータルミュージアムはっち」は、アーティスト・イン・レジデンス施設やものづくりスタジオ、子育て支援施設、観光施設、展示スペースなどが一体となったユニークな複合施設です。はっちのコーディネーターを務める柳沢拓哉さんは、「文化に力を注いでこなかったことが八戸市の閉塞感に繋がっているのではないかという問題意識で、“文化でまちを元気にする”をミッションにオープンした。賑わいをつくり出すために、地域の資源を生かし市民が中心市街地に関心をもつ季節感のある企画を立てている。開館2年3カ月で入館者数200万人を超え、歩行者通行量が4割増えた。民間再開発の動きも起こっている」と文化の力をアピール。
また、別府市で展開されているアートプロジェクト「混浴温泉世界」の仕掛け人であるNPO法人BEPPU PROJECTの山出淳也代表、横浜トリエンナーレの中核施設である横浜美術館の逢坂恵理子館長による講義も行われ、アートによる地域づくりの可能性についての理解を深めました。
ステージラボ 公立ホール・劇場 マネージャーコース/文化政策幹部セミナー スケジュール