房総半島に仏教文化が伝来したのは、飛鳥時代の7世紀後半。展示室入口には、その時代を代表する関東屈指の白鳳仏、龍角寺(千葉県印旛郡栄町)の「薬師如来坐像」が鎮座する。そこから地元仏師による造像も多い平安仏展示、運慶・快慶で有名な慶派の造像が特徴的な鎌倉期以降の展示、上総鋳物師による鋳造仏や房総が育んだ日蓮宗の傑僧ゆかりの彫刻や絵画などを集めた展示へと続く。
取材した5月4日はゴールデンウィーク期間とあって、親子連れやシニア、若者のカップルなどが詰めかけていた。各宗派の声明公演、インド舞踊公演、「お寺コンテンツ」と題したシンポジウム、散華をつくるワークショップなどユニークな関連事業も多数企画され、この日の専門的なシンポジウムも満席の盛況だった。
担当学芸員の西山純子さんは、「99年の展覧会は、100体ほどの仏像を展示し、関係者からは高く評価されましたが、会期が短く、広報も行き届かず、心残りな結果になりました。14年たって千葉市美術館の知名度も上がり、仏女や寺ガールといったブームにもなっている。前回は展示できなかった素晴らしい仏像がたくさんあることもわかっていたので、満を持して再チャレンジしました」と話す。
千葉県の場合、京都や奈良のように寺側が拝観料をとって仏像を見せるというシステムがない。開帳以外で公開することのない秘仏が多いし、外部貸し出しの経験もないお寺がほとんどだ。「出展を承諾していただいてからの対応も本当に大変でした」と言う。
1回目同様、交渉役を一手に引き受けた濱名住職はフランス滞在経験もあり、山武市・富津市文化財審議委員も務める有識者だ。
「千葉県は仏教美術の宝庫でありながら、それを広く一般に公開できる場がありませんでした。寺とのパイプ役として1回目に市美から声をかけてもらった時には、出展交渉がどんなに大変でもぜひやりたいと思いました。6年前からは山武市周辺の寺院に声をかけて仏像の同時公開をしています。今回はその仲間、真言宗と日蓮宗の住職2人に実行委員として参加してもらったので、これだけのことができました。僕らは美術館に貸し出すことはあっても、企画者として関わることはありません。才能のある若いお坊さんが美術館と一緒に仕事をすることで、展覧会の面白さやスキルが学べたことはとてもよかったと思っています」(濱名)
今回の展示では、極力ケースを使わず、また“群像”で見せることを試みた。特に群像展示では、“本来あるべき姿に祀りたい”という濱名住職の思いを受けて、美術館がプランを作成し、本尊のまわりに四天王像や十二神将などを取り囲むように配置するパノラマ展示を工夫した。
西山さんは、「来場者アンケートでは皆さん異口同音に『これほど多くの素晴らしい仏像が県内にあるとは知らなかった』と書かれています。また、寺院の地元の人々が観光バスをチャーターして来館され、楽しそうに鑑賞されたり。ローカルなテーマは県外からの集客が難しく、こぢんまりとしてしまうのでは、という思いもありました。でも、今回、地域の人たちがどれほど地元ネタの企画展を望んでいたかが痛いほどわかりました」と襟を正していた。
全国には約7万の寺があるという。各地の美術館が財政的に厳しいなか、地域の宝をどう評価し、紹介していくのか。同展は、その一つのモデルケースと言えるかもしれない。
(ライター・田中健夫)
●「仏像半島─房総の美しき仏たち─」
[会期]2013年4月16日~6月16日
[主催]千葉市美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
●千葉市美術館
1995年開館。千葉市中央区役所に併設された美術館で、展示室面積1323.5㎡。公益財団法人千葉市教育振興財団が指定管理者となり、「千葉市・房総ゆかりの作家・作品」「近世以降の日本美術」「戦後の現代美術」を3大テーマに収集を行っている。企画展は多彩な切り口で年間5~6本を実施。また、2006年から週末(金・土曜日)の閉館時間を午後8時まで延長。参加型イベントやワークショップ、市民美術講座などの積極的な展開と相まって、市民に親しまれる美術館となっている。
〒260-8733 千葉市中央区中央3-10-8
http://www.ccma-net.jp/