「戯曲セミナーや市民劇団座★NAGAKUTEの設立・運営などで初代支部長のはせひろいちさん(ジャブジャブサーキット主宰)、二代目支部長の佃典彦さん(B級遊撃隊主宰)ら東海支部の方々とは開館当初から密に仕事をしてきました。その中で、はせさんから『東海には劇団をもっていないが良い劇作家が多い。発表の場をつくりたい』とご提案いただき、演劇王国の枠で短編演劇の上演を始めたんです。翌年、佃さんからコンテスト方式にするアイデアが出て、『劇王』を立ち上げました。今ではうちの発信型事業の中でも随一の人気企画です」(籾山勝人・長久手市文化の家事務局長補佐)。
言葉どおり、各回ともほぼ満席で決勝戦は完売。制限を逆手に取って100人斬りをロウソクを吹き消すことで表現した時代劇『3匹で斬る!』(初代劇王・杉本明朗)や、顧問である高校演劇部を率いて参戦した『卒アル』(第2、3代劇王・品川浩幸)など、観客の支持で沸いた作品も多かった。「最近は身内びいきせず、純粋に良いと思うものを選ぶまでに観客も成長したのでしょう」(籾山さん)。
05年には同協会の全支部が集結する「劇作家大会」を同館に誘致し、劇王との連動が実現。その際に初めて挑戦者を全国から募り、以来日本劇作家協会新人戯曲賞、AAF戯曲賞(愛知)、OMS戯曲賞(大阪)など各地の戯曲賞受賞者を迎えての開催が定番となった。
第5回から4連覇を果たし“劇帝”となった鹿目は言う。「劇団の看板なしに劇作家個人で参加することで、自分がやりたいことを見つめ直す機会になりました。劇団の存続や創作の方向性に悩んでいた時に劇王と出合い、本当に救われました。結果、種々の受賞にも繋がったと思っています」。
鹿目と第9代劇王にして現東海支部長の平塚は、10年の第16回劇作家協会新人戯曲賞最優秀賞をW受賞。第4代の柴も10年に岸田國士戯曲賞を受賞するなど、歴代劇王は短期間に目覚ましい活躍を見せている。
佃は、「制限がある中での創作は、劇作・演出の両面でつくり手を鍛えます。しかも上演直後に審査員の講評を聞き、観客投票ではダイレクトな反応を得られる。勝敗は付きますが、作品の優劣を決めつけないのも劇王の良さ。審査員評が悪くても観客票が多いなど、複数の評価軸から自作を見られますから」と語り、今回は自ら地区大会にも可能な限り出向いて審査員を務めた。「各地域で『最低5年続けてください。必ず活きの良い才能が出てきます』とお願いしました。『劇王』の名を広く手渡しつつ、東海支部では今後、大学演劇などさらに若い世代に道を拓く取り組みを展開していきます」(佃)。
劇作家が自主的に運営し、地元公共ホールが支えるユニークかつ有益な企画は、新たな段階を迎えつつあるようだ。
(ライター・大堀久美子)
●長久手演劇王国vol.13
日本劇作家協会東海支部プロデュース
「Jr.ライト級チャンピオンタイトルマッチ 劇王Ⅹ~天下統一大会~」
長久手町文化の家(旧長久手町)が2001年に始めた「長久手演劇王国」の企画として始まり、03年から現行のコンテスト形式に。新進劇作家に上演の機会を提供する目的で、上演時間20分、出演者3名以内、舞台転換数分のルールの下、新作戯曲を上演。観客が各1票をもち、その客数と同じ票を頭割りでもつ審査員数人の得票を合計して勝者を決める。通常は2ブロック8名による予選通過者2名と前年の劇王による決勝で優勝者を決めるが、今回は過去の劇王に加え北海道、東北、東京、神奈川、東海、関西、中国、四国、九州各地区から同様の方式で代表者を選抜。計16名がA~Dの4班に分かれ予選を競い、勝者4名で「劇天」の称号をかけて決勝を競った。決勝まで3日間通しで日本劇作家協会会長・坂手洋二氏(燐光群主宰・東京)、わかぎゑふ氏(リリパットアーミーⅡ代表・大阪)、演劇評論家・安住恭子氏のほか、日替わりで9日・小堀勝啓氏(CBCアナウンサー)、10日・木全純治氏(シネマスコーレ支配人)、11日諏訪哲史氏(作家)が審査員に。3日間5ステージとトークイベントで計1,594人を動員した。
[会期]2013年2月9日~11日(予選:9日・10日/決勝:11日)
[主催]長久手市、長久手市教育委員会
[プロデュース]日本劇作家協会東海支部
[協力]日本劇作家協会
[会場]長久手市文化の家