地域創造では、平成17年度から公募により選考した現代ダンスのアーティスト(2年登録制)を地域に派遣する「公共ホール現代ダンス活性化事業」を行っており、今年度は8地域で事業を実施しています。今号では、八戸市南郷文化ホール(青森県八戸市)と川根本町文化会館(静岡県川根本町)で行われた事業の模様をご紹介します。
●ワークショップで作品づくり~新井英夫
2005年に八戸市と合併した旧南郷村は、毎年恒例のサマージャズフェスティバルで知られています。山間にある南郷文化ホールは、八戸市公会堂なども手がけている(株)アート&コミュニティが指定管理者として運営しています。今回初めてコンテンポラリーダンスを本格的に手がけることもあり、アーティストとコーディネーターの現地下見と併せ、ホールスタッフ、学校の先生など関係者を対象にしたワークショップを行いました。
体奏家を名乗る新井さんは、豊富なワークショップ経験と野口体操をベースにしたわかりやすいプログラムで定評があります(*)。南郷では、5歳から60歳代までの市民14人を対象に3日間のワークショップを行い、最終日に新井さんの公演と併せて作品を発表しました。作品は、自然に動きが生まれて身体に集中できる簡単なルールを使った遊び(体奏)を、約40分間の見応え充分の作品として構成したもの。大人と子どもがペアになって身体で会話し、トイレットペーパーのように優しく扱わなければ破れる素材を投げ合うなど、新井さんの即興パーカッションに鼓舞されて無邪気に身体で遊んでいる参加者を見ている内に、観客席もみんな笑顔になっていました。
担当者の春日千春さんは、「慣れない事業で本当に戸惑った。ダンスをやりましょうと誘っても身構えてしまうし、アーティストとどう接していいかもわからなかった。何をやるにもコミュニケーションが大切で、普段からいろいろな人と接しておくことが必要だというのがよくわかった。今回の事業では、周りのスタッフにとても助けてもらい、1つのチームになれたと思う」と振り返っていました。
●舞踏の精神を伝える~田村一行
川根本町文化会館は、SLで有名な大井川鐵道の終点、千頭駅近くに立地しています。田村さんはスキンヘッド、全身白塗りで知られる舞踏集団・大駱駝艦の舞踏手です。舞踏は日本のオリジナルダンスとして世界的に高い評価を受けていますが、一般の人がふれる機会は多くありません。田村さんは、異形のスタイルに込められた、あらゆる生を祝福して「生まれたことが才能だ」と考える舞踏の自由な精神を、子どもたちにわかりやすく伝えることのできる希有な存在です。今回も、アシスタントの塩谷智司さん共々、笑顔の子どもたちに取り囲まれるなど、大人気でした。
本川根中学校では、1・2年生(31人)、3年生(23人)を対象に各1時間50分のアウトリーチが行われましたが、内30分間は舞踏についての興味深いレクチャーでした。「“日常”の意識の世界ではいろいろなルールがあって、やってはいけないことが沢山ある。それに対して、“非日常”の無意識の世界は自由で、こっちの世界のほうが面白い。その面白い世界をやるのが舞踏だ。…踊りが踊りと呼ばれるようになる前、初めて火を見てしまった人の驚きなど、色々な所で踊りが生まれていた。それを体験しよう」と田村さん。そのためのポイントとして、力を抜いて自由になること、予想していない出来事が起こると一瞬頭が真っ白になるように空っぽになることなど、塩谷さんがモデルになって実践しながら子どもたちが解放されるようリードしていきました。
石川泰宏先生は、「心と身体を一体として捉え、心身の調和的発達を図ることを目的としてダンスが義務教育化されたが、上手下手や格好の良し悪しになりがちで、やりにくいと思っていた。しかし舞踏は正解がなく、心が解放され、誰が一番上手とか関係ない。無意識となって動くことは、体育の表現授業が求めている一番のものだと思った」と関心しきりでした。
最終日の公演では、地元の赤石太鼓14人との競演が実現。田村さんが下見で出会った川根本町の風景などからイメージしてつくった作品『はざま』を「秩父屋台囃子」などの太鼓の響きに乗って上演、感動的な公演となりました。
●開催概要
◎八戸市
[主催]株式会社アート&コミュニティ
[日程]2012年9月25日~10月1日
[派遣アーティスト]新井英夫
[アウトリーチ対象]中沢中学校3年生、老人福祉センター南郷、島守中学校1~3年生
◎川根本町
[主催]川根本町
[日程]2013年1月22日~28日
[派遣アーティスト]田村一行
[アウトリーチ対象]中川根第一小学校・中川根南部小学校・中央小学校5年生合同、障害福祉サービスセンターみどりの丘、本川根中学校1~3年生
*地域創造レター2010年12月号P10
「制作基礎知識シリーズ“現代ダンス・アウトリーチの基礎知識”」参照
●公共ホール現代ダンス活性化事業に関する問い合わせ
芸術環境部 栗林・山田
Tel. 03-5573-4055・4077
dankatsu@jafra.or.jp