一般社団法人 地域創造

神戸市 デザイン・クリエイティブセンター神戸「KIITO」

 神戸の湾岸エリアには、明治時代の面影を伝える近代建築がいくつも残されている。メリケン波止場の東、新港突堤西地区、国の有形文化財に指定されている神戸税関の向かいに建つ旧・生糸検査所もそのひとつだ。4階建て、新館・旧館合わせて14,000平方メートルという広大な施設が「デザイン都市・神戸」の拠点施設「デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO」として生まれ変わり、昨年8月8日にオープンした。1月11日、クリエイターのためのレンタルスペース「クリエイティブラボ」の新規入居者によるプレゼンテーション「KIITalk」が行われるのに併せ、話題の施設を取材した。
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KIITO外観
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KIITOホール
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1階のカフェで行われたKIITalk

 目の当たりにすると、改めてその規模の大きさに驚かされる。クリエイティブラボは、KIITOが掲げる「+クリエイティブ」によって神戸の活力を高めることに賛同したクリエイターや関連団体に貸し出されているが、そのメンバーは実に多彩だった。エコカーのデザイン会社代表やウェディングのプランナー、プロアスリートのサポート会社を起業したアントレプレナー、神戸を盛り上げる活動をしているリーダー、敏腕編集者など。若くて既存の枠にとらわれない活動を志す意欲に溢れていた。
  そもそも神戸市は、1973年にファッション都市宣言をするなど、地場のアパレル産業を振興してきた経緯がある。95年の阪神淡路大震災を経て、2004年には神戸の文化の重要性を謳った「神戸文化創世都市宣言」を採択。加えて新たな都市戦略として「デザイン都市・神戸」を掲げ、デザイン都市推進室(*)を新設。07年にはクリエイティブな力による「まちのデザイン」「ものづくりのデザイン」「くらしのデザイン」を目指すという基本方針を打ち出し、08年にはユネスコのデザイン都市にも認定された。KIITO以外にも、インターネットでの情報発信を行うKOBE DESIGN HUB、市民参加によるデザインコンペ「issue+design」などさまざまなプロジェクトが立ち上がっている。
  安廣哲幸デザイン都市推進担当局長は、「震災から復興していくに際して、神戸の行く末をどうするかの道筋を示す必要があった。今までの行政的なやり方に閉塞感が漂う中、市民やクリエイターと協働することで新たな切り口を見い出そうというのが“デザイン都市・神戸”。センターを拠点として、社会課題の解決に繋がればと期待している」と話す。
  公募により指定管理者として運営を任されたのが、アートによる防災意識啓発プログラムで知られるNPO法人プラス・アーツ理事長の永田宏和氏による(株)iop都市文化創造研究所、キュレーターの芹沢高志氏が代表を務めるピースリーマネジメント(有)、(株)神戸商工貿易センターの3社による共同事業体で、芹沢氏がセンター長、永田氏が副センター長に就任。
  芹沢:「低迷している産業をデザインの力で活性化するのが出発点だったが、3.11以降の動きの中で色・形だけではなく、+クリエイティブによっていろいろな社会課題をデザインしていくセンターをコンセプトに掲げた。プロダクト・デザインとソーシャル・デザイン、アートの3本柱で展開し、アートはかき回し役として、年1、2人のアーティスト・イン・レジデンスをやる。これだけ巨大な建物なのだから、いろいろな人たちにどんどん活用してほしい。ここが求心力をもったハブになれればと思っている」
  永田:「プラス・アーツの実績を踏まえ、福祉・環境・子育て・まちづくりなど、幅広い社会課題にダイナミックに取り組んでいきたい。興味をもっている人に集まってもらうゼミからスタートし、具体的なプロジェクトを起こしていく。今年度は、私が担当するソーシャル・デザインのゼミとデザイナーに社会課題に向き合うことを考えてもらうゼミ、地域を発見する『FoundMUJI神戸』の3本柱を計画している」
  ゼミには「夢の病院をつくろう」「ニュータウンのオールドタウン化問題について考える」「デザイナーをデザインする」など刺激的なタイトルが並ぶ。開館してまだ半年、今はレクチャーやイベントを含め、巨大な畑にいろいろな種を一斉に蒔いている感じだ。見たこともない植物が芽を吹くのを楽しみに、時を待ちたい。

(坪池栄子)

 

●デザイン・クリエイティブセンター神戸「KIITO」
旧館の神戸市立生糸検査所は1927年、新館の国立神戸生糸検査所は1932年建設。80年代に農林規格検査所、2001年に農林水産消費安全技術センターになるが、耐震性の問題から同センターが移転。神戸市が国から土地建物を4億円で取得し、国の緊急雇用創出事業(重点分野雇用創造事業)を活用して総事業費22億円で耐震工事などのリノベーションを実施。巨大体育館のようなKIITOホールとギャラリー、(株)良品計画のプロダクトデザイナーが常駐する「MUJI+クリエイティブスタジオ」、生糸検査所の歴史を記したギャラリーなど一部を除いてほとんど手つかずの部屋が残され、3・4階の29室をクリエイティブラボとして活用している。
[所在地]神戸市中央区小野浜町1-4

*2010年に、齊木崇人神戸芸術工科大学学長を総括監に据え、外部の有識者から成るデザイン・アドバイザリーボード、市役所の横断的組織から構成されたデザイン都市推進本部の新体制に移行。

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