一般社団法人 地域創造

平成23年度「市町村立美術館活性化事業」報告

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左上:世田谷美術館鑑賞リーダーによるギャラリートーク(市川市芳澤ガーデンギャラリー)
右上:世田谷美術館の「100円ワークショップ」で使用しているワークショップキット「動くルソー人形」
左下:文化フォーラム春日井の「えんぴつで模写!」
右下:市川市市民サポーターと世田谷美術館鑑賞リーダーの交流会

 平成23年度市町村立美術館活性化事業「世田谷美術館コレクションによる アンリ・ルソーと素朴な画家たち いきること えがくこと」展の巡回が、3月18日に終了しました。

 市町村立美術館活性化事業の共同巡回展としては12回目となる今回は、世田谷美術館が平成23年度に実施した改修工事のための全館休館に伴い、普段は長期間貸し出されることの少ない同館のアンリ・ルソーを含む貴重な素朴派作品52点の巡回が実現し、総入場者数は16,866人を記録しました。

 参加館は市立小樽美術館、市川市芳澤ガーデンギャラリー、笠岡市立竹喬美術館、文化フォーラム春日井の4館です。世田谷美術館の橋本善八美術課長と遠藤望企画担当課長の両アドバイザーによる助言の下、各館の学芸担当者が平成22年度より4回の学芸会議やメール等での議論を重ね、役割分担をしながら、企画の具体化と準備を進めました。

 

●多彩な関連プログラム

 今回の巡回展では、世田谷美術館がこれまでに行ってきた素朴派コレクションを題材にしたワークショップなどを参考に、各参加館が工夫を凝らした関連プログラムを実施しました。

 市立小樽美術館は、世田谷美術館のワークショップキットである「動くルソー人形」を参考に「こども造形教室/ルソーさんの絵が…人形にへんし~ん!」を企画。芳澤ガーデンギャラリーでは、市川市文化振興財団の「フレッシュ・アーティストバンク」(*1)の登録アーティストによるギャラリーコンサートが開かれ、アンリ・ルソーが作曲した《クレマンス》も演奏されるなど、ホールとギャラリーを併せて管理している同財団のノウハウが活かされた企画となりました。

 ギャラリーと図書館、視聴覚ホール等の複合施設である文化フォーラム春日井では、出品作家のセラフィーヌ・ルイを描いた映画『セラフィーヌの庭』の上映会を行うとともに、オリジナルの解説アニメ『ルソーを讃える夕べ』を自主制作しました。これは、同館を運営しているかすがい市民文化財団の職員でアニメーション作家としても活動しているスタッフが、学芸チームの監修のもと制作したもので、小樽美術館が作成したリーフレットのピカソ(イラスト)が素朴派の案内人として登場。来館者の人気を博しました。

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市立小樽美術館が本展のために作成した児童向け鑑賞ガイド「ジュニアガイドブックレット」

●ボランティア同士の交流

 今回の事業で特に注目されたのが、「世田谷美術館からやってきました!鑑賞リーダーと一緒に遊んじゃおう!!」です。これは、1997年に発足し、世田谷区内の全小学4年生(64校)を対象にした鑑賞教室などをサポートしてきた「鑑賞リーダー」(*2)が参加館に自主的に出向き、いうなれば「おしかけボランティア」として鑑賞サポートやワークショップを行うというもので、貸出協力館のボランティアが作品とともに移動するのは本事業では初めての試みです。

 鑑賞リーダーを担当している東谷千恵子学芸員は、「改修工事の休館中、鑑賞リーダーのボランティア活動が途切れることがとても心配でした。皆さんと雑談するなかで、作品が他の美術館で展示されるのなら見に行きたいし、受け入れていただけるようなら活動したいし、美術館ボランティアの方と交流できれば、という話になりました。実際に作品とともに鑑賞リーダーというソフトを外に出してみて、改めてその存在が世田谷美術館の“心”なのだと感じました。ボランティアを美術館のスタッフとしてとらえてしまいがちですが、鑑賞リーダーはあくまで美術を楽しんでいる市民の方々であり、だからこそ学芸員とは違った受け手としてのアイデアがいろいろ出てくるわけです。こうした市民の方々との協同をこれからも大切にしていきたい」と話していました。

 おしかけボランティアに参加した石黒彰さんに感想を伺うと、「小樽美術館に行ったときに感じたのは、一緒に観て回ってくれるパートナーを必要としているんだなということでした。世田谷では美術の話ができる仲間がたくさんいますが、地域では美術を鑑賞したい人同士が繋がることのできる機会が不足しているのかもしれません」とのことでした。こうした市民鑑賞者ならではの視点が、世田谷美術館での活動にも活かされているようです。

 

●共同運営による相互扶助

 今回は東日本大震災の余震が続く中、2011年5月から2012年3月までの長期巡回となったため、事務局館を務めた笠岡市立竹喬美術館にとってはいろいろと苦労があったそうです。「リスクマネジメントを含めて、難易度の高い対応を迫られる場面もありました。小樽からの輸送中には台風で急な輸送経路の変更が必要になり、市川の会期中も地震の心配が絶えなかったのですが、その分、各館の担当者が連絡を密にし、結束力は強くなりました」と担当学芸員の徳山亜希子さん。

 また、遠藤アドバイザーから「担当者それぞれが自館以外の展示や撤収作業にもできるだけ立ち会うとよい」というアドバイスを受け、相互訪問の機会を増やしたことが、自館の長所や問題点に気付くことにも繋がったといいます。世田谷美術館の全面協力により、「1年間という長期にわたり共同で展覧会を運営する中で、担当者同士が深く交流できたことも意義深かった」との感想も聞かれ、多くの成果をもたらした事業となりました。

 本年度は第13回共同巡回展として、「高知県立美術館所蔵 写真家 石元泰博─時代を超える静かなまなざし─」が開催されます。詳しくは「財団からのお知らせ」をご覧ください。

 

*1 市川市文化振興財団「フレッシュ・アーティストバンク」
地域の才能ある若きクラシック音楽家の発掘と育成を目的とし、同財団主催のコンクール入賞者のうち希望者を登録。登録アーティストは、市川市文化会館、行徳文化ホールI & I、市川市議会議場、木内ギャラリー、芳澤ガーデンギャラリーなど、市川市内各所さまざまな施設・会場での演奏会に出演する。

 

*2 世田谷美術館「鑑賞リーダー」
1997年に発足し、同館の年間講座「美術大学」の修了生、「美術館友の会」会員、博物館実習生などで構成。同館を訪れた小学生を対象に、美術館の楽しみ方を紹介し、案内する活動を行っている。毎年200人前後が活動している。

 

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「アンリ・ルソーと素朴な画家たち」展ポスター

●平成23年度市町村立美術館活性化事業 第12回共同巡回展「世田谷美術館コレクションによる アンリ・ルソーと素朴な画家たち いきること えがくこと」

[会期]
・市立小樽美術館(北海道小樽市/2011年5月21日~7月10日)
・市川市芳澤ガーデンギャラリー(千葉県市川市/7月23日~9月19日)
・笠岡市立竹喬美術館(岡山県笠岡市/11月5日~2012年1月9日)
・文化フォーラム春日井(愛知県春日井市/1月21日~3月18日)
[主催]第12回共同巡回展実行委員会ほか
[特別協力]公益財団法人せたがや文化財団 世田谷美術館
[助成]財団法人地域創造

 

●市町村立美術館活性化事業に関する問い合わせ
総務部 布施
Tel. 03-5573-4143

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