一般社団法人 地域創造

ステージラボ栃木セッション報告

2012年2月21日~24日

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写真
左上:ホール入門コース 「劇場・ホールを知っているか?」コーディネーターの草加叔也さんが劇場の小迫について説明
右上:自主事業Ⅰ(音楽)コース サクソフォーン四重奏のクワチュールベーが松ヶ峰幼稚園でアウトリーチ
左下:自主事業Ⅱ(ダンス)コース セレノグラフィカのワークショップを体験したあと、特別会議室で成果を発表
右下:共通プログラムとして行われたシンポジウム「震災をとおしてみえた、地域と公共ホール、芸術文化のかかわり」

 今回のステージラボは、栃木県宇都宮市で開催されました。会場となったのは、開館20周年を迎える栃木県総合文化センター(指定管理者:財団法人とちぎ未来づくり財団)です。1,604席のメインホールやサブホールに加え、4つのギャラリーや各種会議室、練習場等を備え、充実した鑑賞型事業と、県民に芸術にふれる機会を提供する「とちぎ舞台芸術アカデミー」を2本柱とした拠点施設です。開催地がプログラムを企画し、地元の伝統芸能などを実施してきたラボ恒例の共通プログラムでは、震災1周年を控え、被災地からゲストを招いたシンポジウムが開催されるなど、気持ちの引き締まったラボとなりました。なお、共催者として、栃木県、財団法人とちぎ未来づくり財団に全面的なご協力をいただきました。

 

●先進ホールのノウハウを吸収

 「未開拓のフィールドを耕せ!」をテーマにしたホール入門コースの事例紹介のひとつとして取り上げられたのが、宮城県仙南芸術文化センター・えずこホールです。住民参加型文化創造施設をコンセプトにした同ホールでは、住民創造グループ8団体200人が活動し、アウトリーチ年間約90本、さまざまなジャンルのワークショップ年間約40本、関連事業と組み合わせて行う鑑賞会など、住民創造グループの活動を含めて年間500本を超える主催事業が行われ、ホールが使われていない日がないほどです。

 所長の水戸雅彦さんは、「フックをたくさんつくって、職員がファシリテーターになり、住民が主体的に関わるアートが繋ぐ新しいコミュニティづくりを目指しています。それとホールが世界の窓になり異文化体験をしてもらうことも重要だと考えています。知られていないアーティストでも、絶対良い体験ができると確信するときは、その魅力を紹介するさまざまなプロジェクトを行っています」と一歩踏み出すことを後押ししていました。

 自主事業Ⅰ(音楽)コースでは、「広報」と「小さな子どものための音楽事業」に取り組みました。2日目の「広報を考える日」では、広報専門職員がいるいわきアリオスの取り組みを広報チーフの長野隆人さんが紹介しました。新聞記者対策から、地元との関わりをポイントにして情報提供するのがコツという取材協力依頼書の書き方、代理店を使わず自主制作している広報誌「アリオスペーパー」の編集方針や市民参加による記事の作成方法に至るまで、ノウハウの詰まった講義でした。

 「当初はスタッフだけでつくっていたのですが、市民やアリオスのファンの力を借りた広報手法はないかと考え、編集部員を募集しました。震災後の第1号では、これからのいわきをつくっていくために、声を聞きたい人をみんなで選んで70~80人のメッセージを掲載しました。市民とアートを結ぶコミュニケーションペーパーというコンセプトが初めて実体を伴ったものになったと実感しました」と長野さん。

 自主事業Ⅱ(ダンス)コースでは、頭で考える前にからだを動かし、感じるところから始めました。2日目はセレノグラフィカ(ダンスカンパニー)の協力によりダンスづくりを体験しました。宇都宮の町歩きで空間の切り取り方のイメージを膨らませた後、各人が「自分の名前のダンスを踊る」という課題にチャレンジ。それを元に、2人組、4人組でフォーメーションづくりを行い、最後に立派な特別会議室を舞台に全員でダンスを披露しました。また、ダンスの可能性について考える事例として、ホームレスとダンスを創作しているアオキ裕キさんの講義も行われました。

 

●震災をテーマにしたシンポジウム

 今回のシンポジウムは、被災地における芸術文化や公立ホールの役割について考えてみようと企画されたものです。第1部では、前述の水戸さんに加え、南三陸町で活動しているENVIS代表の吉川由美さん、盛岡市中央公民館館長の坂田裕一さんから被災地での取り組みが紹介され、第2部では3人のコーディネーターも加わってのパネルディスカッションを開催。いつもとは異なる緊張した雰囲気のなか、文化芸術に何ができるかを考える機会となりました。

 内陸にあるえずこホールは、震度6弱で施設としての被害はそれほど大きくなく、4月12日には当初予定していた二兎社公演『シングルマザーズ』の無料公演を決断。受付を始めて1日半で満席となり、当日はホールの周りに300本以上のキャンドルを灯して上演。「こういう時だからこそ心の底から笑い感動することが大切。前に進める人から前に進むことが大切」という作家の永井愛さんの挨拶などが紹介され、改めて公立ホールの役割について考えさせられました。

 吉川さんは、2010年夏、南三陸町を回遊する町歩き観光を考える取り組みとしてアートプロジェクトを企画したことから、南三陸町との交流が始まったそうです。「きりこ」という和紙を切り抜いた正月飾りの伝統を活かして、町の女性達と一緒に創作きりこを作成し、通り約1kmにわたって展示。その時に撮影された美しい風景が、3月11日の津波で浚われる様子が映像で流されると、現実の過酷さに言葉も失いました。吉川さんは、海と静かに向き合う日をサポートしたり、女性たちとの復興プロジェクトの立ち上げや、子どもたちとのワークショップなど、今も南三陸町での取り組みを継続しているとのこと。

 坂田さんは、岩手県内の公立文化施設の被災状況の紹介や縁あって始めた被災地に絵本を届けるプロジェクトについて紹介。「自分が携わってきたホールや社会教育がこの震災で何かの役に立っているのかと考えるとすごくショックでした。文化施設は、人と人、人と文化、文化と文化を繋ぐ広場に生まれ変わらなければならないと実感しました」と話していました。

 

●栃木セッション プログラム表

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●コースコーディネーター
◎ホール入門コース
草加叔也(有限会社空間創造研究所代表取締役)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
児玉真(地域創造プロデューサー/いわきアリオスチーフプロデューサー)
◎自主事業Ⅱ(ダンス)コース
佐東範一(NPO法人JCDN代表)

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