平成21年度のモデル事業から数えて3年目となる今年度の邦楽地域活性化事業は、埼玉県と公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団の主催により、入間市、富士見市、川口市で実施されました。今回は、当事業では初めて自治体の文化振興課が芸術文化振興財団のサポートを受けながら直接事業を実施するという体制が敷かれました。事業の統括も、埼玉県県民生活部文化振興課長の林秀平さんと、埼玉県芸術文化振興財団事業部長の渡辺弘さんのダブルディレクター制が採られ、コーディネーターやアドバイザーの助言を得つつ、アーティストの選考からプログラムの構成まで意見を出しあって企画しました。
まず、各市の地域交流プログラム(アウトリーチとホールプログラム)に向けて、埼玉会館での全体研修会(8月10日)、各市の現地下見を経て、10月18日~21日に彩の国さいたま芸術劇場で手法開発研修会が開かれました。
アウトリーチプログラムでは、入間市を担当した吉川由里子さん、佐々井麻矢さん、平野寿里さんのチームは箏の歴史やその音楽の魅力を伝える構成で、富士見市の藤井佐和さん、武田旺山さん、中小路奈都子さんのチームは九州系地歌のもつ古典の趣を全面に出した内容で、川口市の鈴木真為さん、千葉暢さん、樋口千清代さんのチームは江戸で発展してきた山田流箏曲の特色である「うた」とそこに描かれる情景をテーマに、それぞれの流派の特色を生かして邦楽の魅力を伝えました。
川口総合文化センター・リリアはこれまで多くの自主事業を実施してきましたが、今回初めて邦楽のアウトリーチに取り組みました。鈴木さんチームは全校に配備されている大型ディスプレイを活用して、生田流とはかたちの異なる爪や「弾き歌い」など山田流箏曲の特色を解説。「鋳物のまち」としての歴史から「たたら」におけるリズムの取り方を例に、曲の拍子を合わせる掛声や「タテ」の役割体験を入れ、曲の情景を十分説明した上で演奏しました。生徒からのアンケートには、間近に接したプロの迫力、音楽による情景や心情描写などへの感動が綴られており、ホール担当者も「アウトリーチという手法に手応えを感じた」と話していました。
ホールプログラムでは、リリアのほか、入間市文化創造アトリエAMIGO!、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみでワークショップを実施。公募により集まった参加者は、箏や尺八、三味線などに触れ、初めて知る日本の伝統楽器の意外な構造や弾き方、音色を楽しみました。
2月4日には、全演奏家が埼玉会館に再結集しガラ・コンサートが開催されました。吉川さんの箏と武田さんの尺八というチームを横断した共演によるオープニングの『春の海』に続き、各チームがそれぞれ得意とする現代曲や古典曲を演奏。幕間には各市のホールスタッフも駆けつけ、アウトリーチで接した子どもたちの声やワークショップの楽しさについて語りました。
最後は参加演奏家全員の合奏により、秋岸寛久さん作曲『童謡ファンタジー』を披露。これは『青い眼の人形』『とおりゃんせ』など埼玉県に縁のある童謡を元に、今回埼玉県が委嘱した曲です。ディレクターの林さんは「この曲を県内の邦楽愛好家の皆さんに演奏していただいたり、芸術文化振興財団と協力して邦楽アウトリーチを継続するなど、今後も伝統文化の魅力を伝える事業に取り組みたい」と抱負を述べていました。
左上:川口市立芝園中学校でのアウトリーチ
右上:入間市文化創造アトリエAMIGO!でのワークショップ
下:ガラ・コンサート
●平成23年度邦楽地域活性化事業
[主催]埼玉県、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
[共催]財団法人地域創造
[地域交流プログラム実施団体]入間市、富士見市、川口市
[実施日程]2011年8月10日~2012年2月4日
[ディレクター]林秀平(埼玉県県民生活部文化振興課課長)、渡辺弘(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団事業部長)
[コーディネーター]児玉真(地域創造プロデューサー、いわき芸術文化交流館アリオスチーフプロデューサー)、谷垣内和子(社団法人日本芸能実演家団体協議会 芸能文化振興部)、山﨑篤典(島根県立いわみ芸術劇場名誉館長)、米澤浩※アドバイザー兼務(邦楽演奏家、NPO法人日本音楽集団)
[演奏家]入間市担当:吉川由里子、佐々井麻矢、平野寿里/富士見市担当:藤井佐和、武田旺山、中小路奈都子/川口市担当:鈴木真為、千葉暢、樋口千清代
[問い合わせ]総務部 本田・布施
Tel. 03-5573-4056