七ヶ浜町は、震災でJX日鉱日石エネルギーのタンクが炎上した多賀城から車で20分。三陸海岸に面した漁業と美しい景観を誇りにしてきた人口2万人の町だ。しかし、高さ10メートルを超える津波が松ケ浜、菖蒲田浜、花渕浜などを浚い、死者105人、家屋の流失約700戸という甚大な被害を受け、今も約2,000人が仮住まいのままだ。
復旧と復興の取り組みについては、政策課による「広報しちがはま(http://www.shichigahama.com/benricho/joho/)」をぜひ見ていただきたい。震災後1カ月経たないうちに2号の号外を出し、7月号では初日だけで200人を救助した陸上自衛隊22普通科連隊の隊長や隊員のインタビューを組織図まで入れて紹介。以来、警察、自治体といった応援部隊の具体的な作業と顔の見える紹介を続け、3月11日をどのように生き延びたかの町民ドキュメントを発信。広報誌を用いて“津波の記憶”と“生き延びる知恵”と“復興のプロセス”を共有し、後世に伝える試みが震災直後から行われていたのだ。
その7月号に、5月10日、七ヶ浜国際村に開館以来交流を続けてきたピアニストの仲道郁代さん親子が訪れ、慰問コンサートを行った模様が紹介されていた。下まで津波が押し寄せたものの、強固な岩盤の丘の上に建設された国際村はほぼ無傷で、駐車場に自衛隊が駐屯するなど災害支援の受け入れ拠点になるとともに、6月20日まで避難所になり、多い時には町民389人が暮らしていた(7月1日から通常営業)。
11月20日、国際村を訪問し、星勝明事務局長、子どもたちを中心にした付属カンパニーによる震災をテーマにした創作ミュージカル『ゴーヘGo Ahead』を取材した。避難所当時について、星事務局長は「二人組、3チームが24時間シフトで運営した。犬を連れたおばあちゃんも受け入れるため犬を飼っている人たちの部屋を用意したり、乳幼児をもつお母さんたちの部屋や子どもたちの勉強部屋も用意した。5月には避難所から会社や学校に通う人のために被災した国際村のレストランのシェフにおにぎりをつくってもらった。“生きる力と希望を与える避難所”になろうと努めた」と振り返る。ものづくりをしてきた文化施設ならではの柔軟な心が運営を支えた。
そして、「こういう時だからこそ困難を乗り越えてレッスンをして町民に勇気と元気を届けてほしい」という渡邊善夫町長(初代七ヶ浜国際村事務局長)の思いを受け、避難所運営が続くなか、4月7日には付属カンパニーの週1回のレッスンを再開。ホールの安全確認が終わる前は舞台袖やボイラー室を使い、避難訓練付きで練習を行い、5月と7月にはその成果を避難所の人たちに披露。そして迎えたのが今回の本公演『ゴーヘ Go Ahead』だった。
上:『ゴーへ Go Ahead』
下:ロビーでのウェルカムダンスで観客を出迎える
約10年にわたりミュージカルを指導してきた梶賀千鶴子さんによる新作は、震災で亡くなりコスモスの住人になった人たちが、神様に期間限定の仮の姿を借りてみんなの元に戻って来るというファンタジー。進取の気性により大変な時代を生き抜いた七ヶ浜のご先祖さまたちのように、前に進もう(Go Ahead)…。6歳から32歳までの総勢52名で演じられた舞台には、温かいユーモアと力強さが溢れていた。
梶賀さんは、「登場人物のあかねちゃんは、私が仙台で指導しているキッズコースの参加者で、3月12日に初舞台を踏む予定だった。すべてモデルがいるが、苦しい顔ではなくポップな姿にして戻してあげたかった。辛かったが、今だからやらなきゃいけないという思いがあった。みんなには、今のリアルな気持ちで、等身大で、助けてもらった人にありがとうの気持ちでやればいいと伝えた。誰も休まなかったし、遅刻もない。子どもたちは本当に強くなったと思う」と話す。
事業担当の大波健さんも「離ればなれだった子どもたちが会えることに意味があった。レッスンを通して少しずつ笑顔と自信を取り戻していった。劇場は生死に関わる仕事ではないが、気持ちを安らげることのできる唯一の場所だった」と、劇場の灯した笑顔に思いを馳せていた。「これまでは町が人をつくってくれた。これからはみんなが新しい七ヶ浜町をつくる番だ」─公演後の反省会でスタッフが口にした言葉がしみじみと心に響いた。
(坪池栄子)
●七ヶ浜国際村
七ヶ浜町の国際交流と文化の拠点として1993年に開館。舞台背面がガラス張りで客席から海が見えるホール(577席)、手の工房と食の工房、セミナー室、中庭の池に浮かんだ水上レストランと水上舞台などを備える。主な自主事業は、ゴールデンウィークの国際交流イベント「インターナショナル・デイズ」、パフォーマンスカンパニー(ミュージカルグループNaNa5931、パーカッショングループGroove7)の育成、仲道郁代らクラシック演奏家との交流事業。2001年に結成されたNaNa5931は、指導者に劇団四季ファミリーミュージカルの脚本も手がけた作家の梶賀千鶴子(仙台のSCSミュージカル研究所主宰)を迎え、週1回のレッスンにより、『NaNa』などのオリジナルミュージカルを発表してきた。現在の団員数は約40名で、約半数が結成当時からのメンバー。地震直前に国際村の平成23年度の事業補助金2,000万円が可決されていたが、復興予算の必要性を踏まえ、7月の理事会で500万円の返還を決定した。
●『ゴーへ Go Ahead』
[日程]2011年11月19日、20日
[主催]七ヶ浜町、七ヶ浜国際村事業協会
・パーカッションアンサンブル公演(音楽監督:星律子、音楽:星律子、ヒロセ純、y2)
・オリジナルミュージカル(作・演出・振付:梶賀千鶴子、作曲:ヒロセ純、y2、編曲:只野展也、衣装協力:七ヶ浜おはりこーず)