一般社団法人 地域創造

23年度「都市行政文化懇話会」報告

 文化・芸術による地域づくりに高い関心をお持ちの市長の皆様をお迎えし、有識者の講義やおんかつ登録アーティストによるミニ演奏会を交えて行っている「都市行政文化懇話会」。今年度は、10月26日に全国から16名の市長にご参加いただき、地域創造会議室で開催されました。
  講師としてご協力いただいたのは、2011年までNHK会長を務め、現在は企業メセナ協議会理事長、東京芸術劇場館長、新国立劇場理事長という重責を兼務されている福地茂雄氏(アサヒグループホールディングス相談役)、地域創造の理事であり、昨年度まで内閣官房参与として国政の相談役を務めてきた劇作家・演出家の平田オリザ氏、創造都市など国内外の文化・芸術による地域づくりに詳しい吉本光宏氏(ニッセイ基礎研究所主席研究員・芸術文化プロジェクト室長)です。
  アサヒビール出身の福地氏は、メセナ協議会の活動を中心に、アサヒビール芸術文化財団の取り組みや地域文化活動助成制度によりメセナアワードに輝いた伊予銀行など地域活性化に寄与しているメセナ事例について紹介されました。「1992年に企業メセナ協議会が設立された当初は、主にオーナー企業がスポンサーとなり広報宣伝活動の一環として芸術文化支援をしてきた。しかし、現在は企業が果たすべき社会的責任(Corporate Social Responsibility; CSR)として取り組むという意識に変わってきている。2008年に行ったアンケートの結果、メセナ活動を行っている460社中約7割がCSRとして位置づけており、約2割が今後CSRとして取り組みたいと回答している。今は、間口・奥行き・スピードの三次元で大きな変化が起こっている時代であり、メセナの在り方も当然変わってきている」と最新動向を紹介。特に地域の芸術文化資源を活用する「地域メセナの重視」と、企画の初期段階から市民や地元を呼び込む「社会との共感」という方向については、みなさん大きく頷いていらっしゃいました。
  平田氏は、芸術の役割から話をスタート。「芸術の大きな役割は3つ。1つ目はみなさんの心を慰め、励ましたりすることだが、費用対効果が測りにくい。2つ目はどんなところにもお祭りがあるようにコミュニティを維持する役割。そして3つ目が観光、教育、福祉、医療(ダンスセラピー)など個別分野に対する役割。例えば介護用ロボットが芸術の力を活かすことでリアルになれば違和感がなくなるなど、芸術は個別分野を進展させるさまざまな可能性を秘めている。この3つを自治体の規模、ミッションに合わせてバランスよく実施していくことが必要」と前置きした後、「芸術家がいま創造活動をやめてしまうと100年後は何によって心を慰められるのか。芸術家はそうした100年後の公共財をつくり出している存在であり、若いアーティストを幅広く応援して100年後の公共財をつくり出していくのが国家の役割であり、その実務の一端を担うのが自治体の役割である」とダイナミックな話を展開。加えて、これからの地域は、「誰もが誰もを知っている社会(小さな共同体)」から「誰かが誰かを知っている社会」に編み変えていく必要性があると説き、経済では出会わない人たちを出会わせる非日常の場として劇場や美術館を位置づけます。「主体的に参加できるこうしたアクティビティをテコに市民にまちづくりに参加してもらう仕組みとして文化政策がある」など、示唆に富む講義が続きました。
  また、吉本氏からは、文化政策を取り巻く環境変化と芸術文化の経済・産業への波及効果について概論的な解説も行われるなど、貴重な情報が盛り沢山の懇話会となりました。

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左:福地茂雄氏の講演
右:恒例のミニコンサートには、ヴァイオリニストの小野明子さん(左)と浮村恵梨子さんが出演

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