一般社団法人 地域創造

制作基礎知識シリーズVol.34 音楽アウトリーチの基礎知識③ 音楽アウトリーチの事例[2]

講師 YASSY
(トロンボーン奏者/ BLACK BOTTOM BRASSBANDリーダー)

BBBBの音楽について

 僕は神戸で中学1年の時にブラスバンド部でトロンボーンを吹き始め、大阪音楽大学に進んでジャズのビッグバンドをやっていました。その頃、偶然出会ったのが、ニューオリンズ・スタイルのダーティー・ダズン・ブラス・バンドです。1993年6月に来日した時にたまたま聴きに行って、伝統的な雰囲気を残しながら、ヒップホップやロック、ソウルなどの要素を取り入れたミクスチャーな音楽に衝撃を受けた。それで、友達やそのまた友達と、学園祭で演奏するためにニューオリンズ・スタイルの8人編成(現在7人)のBBBBを結成しました。
  学園祭後も、ニューオリンズではストリートで演奏してるらしいというので、夜の街に出掛けて戎橋の上などでパフォーマンスをやった。そしたら投げ銭でひとり1万円ぐらいになったんです。今は取り締まりが厳しいからできないと思いますが、あの頃は、他のメンバーは昼間授業を受けて週2、3回は路上ライブをやって稼いでいました。すると、結婚式で吹いてほしいとか、アメリカ村のギャラリーでライブをやるから出演しないかとか、色々な人から声を掛けてもらうようになり、演奏すると本当にみんな喜んでくれた。東京スカパラダイスオーケストラぐらいしか管楽器編成のバンドがなくて珍しかったのかもしれませんが、この頃の経験があったから続けてこられた。今でも僕らはストリートに育てられたと思っています。
  最初は『聖者の行進』やダーティー・ダズンのカバー3曲ぐらいを順番に演奏している状態でしたが、徐々にオリジナル曲を書くようになりました。95年の阪神・淡路大震災でどうしようかと思いましたが、スカパラの方などに声を掛けてもらって少しずつ東京でも活動するようになり、96年にはメジャーデビューしました。
  デビューしたといっても暇だったし、ニューオリンズと名乗ってはいたけど、現地を知らないから、じゃあみんなで行ってみようと。97年2月、この時の出会いが僕らの音楽にとっては決定的でした。学生時代からストリートバンドの評判だけであまり考えないまま活動してきて、初めて本物のニューオリンズに出会った。「日本からニューオリンズ・ブラスバンドが初めて来たぞ」「けったいなオリジナル曲を吹いてるぞ」「お前たちがブラック・ボトムか」と街中で声を掛けられた。有名なピアニストの葬送パレードにも参加させてもらいました。葬儀場までは悲しい曲を吹きながらゆっくりパレードし、墓地に送り出す時には縁の場所を巡りながら賑やかな曲を吹き鳴らして4時間ぐらい練り歩く…。
  生活そのものが音楽で、昼まで寝て、1軒目のライブハウスに行ってご機嫌になり、2軒目に繰り出しての繰り返し…それが100年続いている感じ。滞在してたった1週間なのに、みんなウェルカム、ウェルカムって。そういうニューオリンズの空気にたまらなく憧れました。ルイ・アームストロングの後継者と言われているプレイヤーがいて、その人がトランペットを吹いた瞬間にパッと華が咲いたようになる。そういう世界観が表現できるようになりたいと心底から思いました。
  メジャーデビューする時に東京に誘われていたこともあり、99年に東京に拠点を移しました。暇な時は代々木公園で練習し、ウルフルズやhitomiさんに呼ばれてバックで演奏させてもらったり…BBBBのフィールドはあくまでポップミュージックの世界でした。

 

おんかつとの出会い

 地域創造の公共ホール音楽活性化事業に参加することになったきっかけは、1998年に大阪市内の特設テントで行われた演劇公演『夏休み』(演出:いのうえひでのり、作:内藤裕敬)に楽器を吹く強盗団役で出演したことです。知り合いになった関係者から、これから登録アーティストの幅をルーツミュージックにも広げていく可能性があるので、オーディションに応募してみないかと声をかけていただきました。
  当時は、アウトリーチについて理解があったわけでも、公共ホールとの仕事に興味があったわけでもなく、「知らない所に行けるから楽しそう」ぐらいの軽い気持ちでした。子どもに教えるのはブラスバンドでやったことがあったし。それで応募して、平成16・17年度の登録アーティストになり、北海道の「利尻町交流促進施設どんと」に初めて行きました。
  プログラムは、当初から①BBBBがやっているニューオリンズ・スタイルというルーツミュージックについて伝える、②パレードで生の楽器と触れあう楽しさを伝える、③吹奏楽のクリニック、④地域でのセッション、の大きく4つです。
  当初は、ニューオリンズのビデオを見せながら、「貿易港で奴隷市があったニューオリンズにはヨーロッパからさまざまな音楽が集まってきていて、イギリスのブラスバンド・マーチ、黒人音楽のブルースやラグタイムがミックスされ、南北戦争後に解放された黒人やクレオール(黒人と白人のハーフ)たちが街を練り歩くニューオリンズ・スタイルのジャズを生み出した。ここから現代に繋がる色々な音楽が枝分かれしていった」というジャズの歴史についての講義もしました。ジャズの特徴である「裏拍」というリズムの取り方について、校歌を例にみんなで手拍子を取りながら説明したり。クリニックもかなり技術的な指導をしていました。でも徐々に、ニューオリンズ・スタイルをやるとかではなく、吹奏楽や音楽の楽しみ方、演奏するというのは楽しいということを伝えればいいと思えるようになってきた。
  特にパレードは、演奏していなくても生の楽器と触れあう時の空気感が伝わり、みんなで演奏しているような、参加しているような感じになれる。個人がもっているテリトリーに気さくに入れて、お客さんとの垣根がなくなり仲間意識が生まれるので、ご機嫌な音楽をスムーズに聴いてもらえる。パレードはそこをみんなの場所にする力があるので、アウトリーチでは必ずやっています。
  クリニックで伝えたいのは、「リラックスして、心で感じて、楽しんでやろう」ということ。硬くなると音が平べったくなって、一番吸いたい空気がなくなってしまう。「今日はいつもの部活ではなくて、特別バンド。だから間違ってもいいので、もっともっとリラックスして、アホになって、ゆっくりリズムを入れて、身体で感じて吹いて」と伝えています。
  そうやってリラックスすると、“ありがたい音”“おもしろい音”が出て、演奏する人の気持ちが集まってくるようになり、音はどんどん良くなっていきます。サッチモがモントレーのジャズフェスで吹いたあの音がいつか聴きたい─どうすればそういう音になるのか、力を抜く、遊ぶ、楽しむ─練習をしてもそんな音はでないけど、そう思ってニコニコしていればきっといい音が聞こえてくるようになります。
  地域でのセッションは、会館側からの要望で始めたことですが、これがめちゃくちゃ楽しい。例えば、阿波踊りやねぶたのお囃子・踊りとのセッションもやりました。同じルーツミュージックとして僕たちは民俗音楽をリスペクトしていますし、セッションした相手にも新しい刺激になるみたいで、とても可能性があると思います。BBBBのオリジナル曲にも『ワッショイ★ブギ』など和テイスト(和音、リズム)が入ったものがあり、かなり影響を受けています。
  深川市、豊後大野市、青森市などでは、おんかつ後も独自予算によって事業を継続しています。内容は、一般と中学・高校の吹奏楽部の生徒が合同でワークショップするもの、ブラスフェスを立ち上げてのワークショップ、市民バンドやジュニアバンドの育成など、地域の要望を踏まえて色々やっています。今年の2月には、僕個人の地域での活動として、故郷の神戸で高校時代の吹奏楽部のOBに呼びかけてヤッシー楽団を結成しました。練習時間に縛られると社会人はなかなか参加できないから、来られる時だけ来て、2時間一緒にやろうという緩いルールにしたら90人ぐらい応募してきた。来て良かったなと思ってもらえるように、とりあえず興奮して終わろう(笑)と思っています。
  ニューオリンズ・スタイルでは、メロディ以外はテンポも何も縛りがなく、集団即興で演奏します。だから同じ曲でも、教室の空気によって、入った瞬間に違う演奏になります。つまらなそうにしている子どもの所に行って、楽しく吹く。大衆音楽なので人の気を惹いてナンボのところがありますから。気をかけて、気をもらう─そういう音楽を使って人付き合いをするのが、僕らの音楽だと思っています.。

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公共ホール音楽活性化支援事業(おんかつ支援)でのBBBBアウトリーチ
左:千々石第一小学校で子どもたちに楽器をレクチャー(長崎県雲仙市/2008年度)
右:長野中学校吹奏楽部を指導するYASSY(大阪府河内長野市/2010年度)

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●BLACK BOTTOM BRASS BAND

1993年に関西で結成された、ニューオリンズスタイルをベースにしたブラスバンド。KOO(トランペット)、YASSY(トロンボーン)、IGGY(テナーサックス)、MONKY(アルトサックス・バリトンサックス)、OJI(スネアドラム)、ANTON(ドラム)、TAMOTSU(スーザホン)の7人編成。全国各地をライブツアーで飛び回るほか、音楽の楽しさをストレートに感じてもらうワークショップを各地で実施。地域創造公共ホール音楽活性化支援事業登録アーティスト。昨年度までに登録アーティストとして全国35ホールの事業に出演。

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