一般社団法人 地域創造

平成22・23年度調査研究事業「文化・芸術を活用した地域活性化(行政効果の検証)に関する調査研究」

 地域創造では、文化・芸術が地域づくりに有効であることを検証し、その可能性を広く周知することを目的に、平成22・23年度の2カ年にわたって「文化・芸術を活用した地域活性化(行政効果の検証)に関する調査研究」を行っています。
  この調査研究では、幅広い行政分野(教育、福祉、地域・コミュニティ再生、観光・商工振興、環境、安心・安全等)における文化・芸術を活用した事例を収集するとともに、提言を取りまとめるための提言検討委員会と、事例を分析する事例検討会という2つの委員会によって議論が行われています。今回は、提言検討委員会の委員でもあり、調査の取りまとめを行っているニッセイ基礎研究所の吉本光宏さんに、進捗状況と現地調査を行っている事例について、紹介していただきます。

平成22・23年度調査研究事業「文化・芸術を活用した地域活性化(行政効果の検証)に関する調査研究」

提言検討委員会委員
太田耕人(京都教育大学教育学部英文学科教授)、熊倉純子(東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科教授)、澤井安勇(帝京大学教育学部客員教授)、高橋正樹(高岡市長)、田辺国昭(東京大学公共政策大学院院長、東京大学大学院法学政治学研究科教授)、平田オリザ(劇作家、演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)、吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所 芸術文化プロジェクト室長)
※敬称略、五十音順

事例検討会委員
大谷燠(NPO法人DANCE BOX代表)、大月ヒロ子(有限会社イデア代表取締役、ミュージアムエデュケーションプランナー)、苅宿俊文(青山学院大学教授、NPO法人学習環境デザイン工房代表)、中島諒人(演出家、鳥の劇場主宰)、長谷川聡(北海道医療大学看護福祉学部准教授)、藤浩志(アーティスト、NPO法人プラス・アーツ副理事長)、若林朋子(社団法人企業メセナ協議会シニア・プログラム・オフィサー)
※敬称略、五十音順


 

Q1 今回の調査が企画された背景についてお話しください。
 地域創造では、平成20・21年度に「文化・芸術による地域政策に関する調査研究」を実施しました。それは、公共ホール・劇場が地域に出て行くアウトリーチによって、特に教育や福祉の領域で効果を上げているプログラムを中心に調査したもので、「新[アウトリーチのすすめ]~文化・芸術が地域に活力をもたらすために~」という副題で報告書をまとめました。
  その調査の過程で、文化・芸術は、教育や福祉だけでなくもっと幅広い領域で効果があることが明らかになってきました。また、NPOや民間など幅広い主体が地方公共団体と連携しながら、文化・芸術を活用した取り組みを行っていることもわかってきました。今回の調査は、こうした前回の調査研究の成果も踏まえ、より広い主体、より広い領域にわたって、文化・芸術がどのように地域に活力をもたらしているのかを検証・分析することを目的として企画されました。

Q2 今回の調査の特徴をお聞かせください。
 特徴のひとつとして挙げられるのが、事例収集に力を入れていることです。22年度には、一次調査として、調査対象になりそうな事業やプロジェクトの事例を150件ほど収集しました。情報収集にあたっては、地域創造が雑誌やレターで収集してきた情報および地域創造大賞受賞施設の取り組みに加え、「アサヒ・アート・フェスティバル」に採択された全国のアートプロジェクトや「財団法人文化・芸術による福武地域振興財団」の助成リストなど、さまざまなリソースを活用しました。
  当初は、現地調査を行う事例を選ぶ下調べ、一次調査として実施しましたが、参考事例集としてまとめてみると、その情報だけでも地方公共団体の人たちにとっては貴重な情報源になることがわかり、最終的なアウトプットに加えることにしました。提言検討委員会のある委員は、参考事例集を見て、「60年代の市民運動を連想させる」とおっしゃったのですが、文化・芸術が社会的な課題と向き合いながら、地域やコミュニティの再生や活力の創出に取り組む、そうした文化・芸術による新たな市民運動のムーブメントが起こりつつあるのかもしれません。実際、今回の調査研究で取り上げるような事業や取り組みは「アートプロジェクト」と呼ばれることも多く、これからの地域社会における文化・芸術のひとつの姿を示しているように思えます。
  その参考事例集の中から、現地調査の事例を選出しましたが、その際には、関連する行政分野、地方公共団体や文化施設の関わり方、地方公共団体の規模、活動の中心となる芸術分野などを委員会で検討し、6事例を選びました(右ページ欄外参照)。また、現地での調査にあたっては、立場の異なる関係者からできるだけ多くヒアリングを行い、現在に至るまでの事業や主体のあり方の発展を調査し、具体的にどのような地域活性の効果があったかのさまざまなエピソードを採集しています。
  なお、参考事例集は今年度後半に再度アップデートし、必要な事例や情報を追加するとともに、最終報告書ではインデックスを付けて、例えば、効果の期待される行政分野、地方公共団体の規模、芸術分野などから、参考となる事例を検索できるよう工夫する予定です。

Q3 今回の事例検討会のメンバーには、自ら地域の第一線で文化・芸術による地域づくりに関わっている方が多く選任されています。
 そのとおりです。アカデミックに研究するだけでなく、プロジェクトを実践している方や、そうした情報を数多くもっている方が集まっていて、昨年度は事例検討会において委員自らが関わっている具体例について詳細な報告をしていただきました。そうすることで、現地調査で何を調べなければならないかのポイントが明解になりました。
  ちなみに、有識者として提言を取りまとめる提言検討委員会と実践家による事例検討会の2つを設けたのは、20・21年度の調査研究で行った方法を踏襲したものです。そうすることで、将来を見通した地域行政にとっての文化・芸術プロジェクトの意義から現場の実務的な課題まで幅広く検討できるメリットがあります。

Q4 すでに5カ所の現地取材を終えていますが、参考までにどのような事例だったか教えていただけますか。
 つい最近、「写真の町」として約20年にわたる取り組みを続けてきた北海道の東川町と、アートNPOが中心となったBEPPU PROJECTの現地調査を行いました。東川は行政が主体、別府はまちづくり系やアート系のNPOが主体と、主体だけみれば対照的な取り組みと言えます。
  東川町は約20年前、3代前の町長が写真の町宣言を行い、条例を定めました。当初は世界的な写真家を表彰する「東川賞」が事業の中心だったために、町の人の理解がなかなか得られなかったのですが、10年目に全国の高校の写真部が集まって競う「写真甲子園」を始めたことから町民の理解が大きく進み、地域活性に繋がりました。現在では、地元の農業・商工業者が行っていたお祭りと写真フェスタが、行政と市民団体の協働で同時開催されるようになり、「写真の町」東川ブランドの農産品や木工製品が販売されるなど、大きく飛躍しました。
  一方、別府は、「八湯トラスト」「ハットウオンパク」など温泉観光を推進する民間の活動が元々活発に行われていました。そこに、今では日本を代表するアートNPOになったBEPPU PROJECTが2005年に立ち上がり、3年に1度開催される芸術祭「混浴温泉世界」などに取り組むようになります。別府市では中心市街地の活性化が大きな課題となっていましたが、まちづくりNPO、アートNPO、商工会議所、別府市が連携して協議会を立ち上げ、空き店舗を活用したプラットフォーム事業を展開して大きな成果を上げています。今では、大分県が別府の成果に注目し、アートNPOとの協働事業を他の地域でも仕掛けようとしています。

Q5 これまでの調査を踏まえて、現時点での感想があればお聞かせください。
 今後、アーティスト・イン・レジデンス事業を行っている徳島県神山町の現地取材が終わった段階で、現地調査を行った事例について約10分の映像と詳しい調査資料をまとめ、そこから読み取れることを2つの委員会で議論し、提言、調査報告書としてまとめます。ぜひ、全国の市町村に参考にしていただければと思います。
  これまでの調査の中で特に感じているのは、文化・芸術によってさまざまな地域活性の効果が出てきているのは確かですが、最初からそれを狙っているわけではないということです。結果的に地域経済が潤うことはありますが、それが目的ではなく、文化・芸術として質の高いものを追求した結果、そうした波及効果が生まれている。また、当初は予期しなかったような成果に結びつくこともあり、それが文化・芸術ならではの大きな特長ではないかと思います。事業の成果を表す指標として「アウトプット」「アウトカム」という言葉が用いられますが、その先に「インパクト」というものがあり、これが地域活性を考える上で重要なのではないか、と思っているところです。最終的な報告書では、このあたりのことも整理できればと考えています。

現地事例調査
・デザイン・クリエイティブセンターKOBE /Dance Box(神戸市)
・いわき芸術文化交流館「アリオス」(福島県いわき市)
・イザ!カエルキャラバン!
・「写真の町」(北海道東川町)
・BEPPU PROJECT(大分県別府市)
・神山アーティスト・イン・レジデンス(徳島県神山町)

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