地域創造フェスティバル2011報告 2011年8月2日~4日
8月2日から4日までの3日間、横浜赤レンガ倉庫1号館を会場に地域創造フェスティバルが開催されました。今年で4回目となるこの催しは、地域創造の登録アーティストによるプレゼンテーションやシンポジウム、セミナーにより財団の事業を広く紹介するとともに、公共ホールのネットワークづくりの場となることを目的としています。今回は、歴史的建造物の赤レンガ倉庫をリノベーションした横浜市の文化施設を会場に、全国から334人の参加者が集い、活発な交流を行いました。ご尽力いただきました関係者の皆さまには、心からお礼申し上げます。
「評価指針」の有効な活用を目指して
オープニングプログラムとして行われたのが、平成16年度から継続的に行われてきた調査研究の成果をまとめた最新報告書「『公立ホール・公立劇場の評価指針』活用のすすめ」がテーマのシンポジウムです。専門家として7年間にわたって調査に携わった調査研究委員(*)に加え、調査に協力した高槻現代劇場を運営する高槻市文化振興事業団事務局長の黒薮輝之さん、八尾市文化会館館長の大久保充代さんが顔を揃えた豪華なセッションとなりました。
*草加叔也(空間創造研究所代表取締役)、熊倉純子(東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科教授)、中川幾郎(帝塚山大学大学院法政策研究科教授)、吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所主席研究員・芸術文化プロジェクト室長)の各氏
冒頭、コーディネーターの吉本さんが7年にわたる調査の経過を報告。数値だけではない公立ホール・公立劇場の政策評価のあり方についての議論から出発して「評価指針」を策定したこと、3年間で計14館にアドバイザーを派遣して実地調査を行ったこと、昨年度はその中の4館でフォローアップ調査を行い、各館がカスタマイズした「評価指針」の活用例を検証したことなど、評価というナイーブな課題にいかにアプローチしたかが説明されました。
今回のシンポジウムで特に興味深かったのは、フォローアップ調査にご協力いただいた2館の事例報告です。両館とも指定管理者制度への移行がきっかけで評価制度を導入しました。黒薮さんは、「当初は文化振興課など市のいろいろな部署からさまざまな要求が来ました。しかし、高槻現代劇場を設置主体としてどうしたいのかわからなかった。今では、設置主体としての明解なミッション(意志)が必要だと当然のように言えますが、当初はそういう言葉も出てこなくて、事業団も行政も共に違和感をもっている状態でした。そこで指定管理者の2年目に、事業団の役割や劇場の今後のあり方を市と事業団が共に考える検討会をもちました。市のすべての文化関連事業を洗い出し、地域創造の評価指針を活用しながら高槻市版の文化事業の体系をつくる作業を行いました。アドバイザーとして中川先生にも協力していただき、平成21年度には独自の経営評価指標を作成しました。こうした作業を通じて、市の文化政策における事業団の立ち位置が明確になり、行政とのコミュニケーションも円滑になり、職員の意識づけに繋がりました」と振り返っていました。
また、大久保さんは、「オープン当初から市民参加が進んでいて、23年分のデータがありましたが、どう活用していいかもわからないまま山積みにされていました。その時に地域創造の評価指針の冊子を受け取り、初めて市民参加の取り組みをどう評価に生かせばいいのかがわかりました」と言い、評価指針が考え方の整理に役立ったと話していました。
調査研究委員の草加さんは、「評価をする側、される側という関係ではなく、評価指針という共通のプラットフォームをつくることで、何のためにやっているのかというミッションを共有化してもらえれば」と活用への期待を込めてエールを送っていました。
プレゼンテーションとセミナーで事業紹介
地域創造フェスティバルの最大の魅力は、登録アーティストたちによる多彩なプレゼンテーションです。今年はおんかつ関係のアーティスト45組(各15分)、ダン活関係のアーティスト8組(各30分)が延べ約18時間にわたるプレゼンテーションを披露しました。おんかつアーティストには東日本大震災の被災地と縁の深い演奏家も多く、支援演奏に訪れて改めて「音楽の力」について考えたといい、そうした思いのこもった演奏も多くありました。また、ダン活プレゼンでは、自らのパフォーマンスのほかに、参加者を対象にしたワークショップも行われました。「(リラクゼーションは)目をつむって自己完結したままやると身体は楽だが、目を開けないと世界や他者と繋がるコミュニケーションができない」(岩下徹)、「ダンスというのは基本的にじゃんけんでいうところの“アイコ”だと思っている」(山田うん)、「足を触って普段は気づかない骨があることに気づくだけで身体が変わってくる」(山田珠実)などなど、それぞれ全く異なるアプローチで行われたワークショップには、コンテンポラリーダンスの知恵が詰まっていました。
こうしたプレゼンテーションと並行して、財団が推進しているアウトリーチの実務について紹介する多彩なセミナーも行われました。教育現場の専門家である青山学院大学の苅宿俊文さん他を招いた入門セミナー、基礎講座や地域の取り組みを紹介したおんかつセミナー、コーディネーターの役割をテーマにした演劇セミナー、市民がアーティストと協働で創作するコミュニティダンスなどの取り組みを紹介したダンスセミナー、そして2組の邦楽演奏家によるプレゼンテーションも行われた邦楽セミナーなど、いずれも最新の具体例をふんだんに盛り込んだ実践的な内容で、参加者は熱心に耳を傾けていました。
期間中はアーティストやホール職員等が自由に交流できる「交流カフェ」も設置され、公共ホール紹介ブースが出展するなど、連日有意義な交流が行われました。