一般社団法人 地域創造

地域創造の最新調査研究より

平成22年度 調査研究報告書発行

 地域創造では、地域の文化・芸術環境づくりについて全国的な視点から実態調査・分析・研究を行っています。また、その成果は、報告書として取りまとめるだけでなく、財団の研修事業や媒体などを通じて広く公立文化施設や地方公共団体等に還元しています。昨年度は大きく3つのテーマで調査研究を行い、この度、その最新報告書を発行いたしました。いずれも今後の文化・芸術による地域づくりを行う上で関係者必読のものとなっています。本編は財団のウェブサイト(下記参照)からダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

●「調査研究報告書最新号」のページ
https://www.jafra.or.jp/library/report/

実務に役立つ調査研究を目指して

 最新の報告書は、①平成19年3月に発表した「公立ホール・公立劇場の評価指針」(=以下「評価指針」)の活用に関してケーススタディした「『公立ホール・公立劇場の評価指針』活用のすすめ~運営・事業レベルアップの第一歩~」、②2カ年かけて公立美術館の公益性とは何かというガイドラインをまとめた「公立文化施設の公益性に関する指針についての調査研究」、③地方公共団体と公立ホール(専用ホール*)へのアンケート等によって最新の指定管理者状況や合併の影響を把握した「地域の公立文化施設実態調査」「市町村合併と公立文化施設に関する調査」です。

*専用ホール
コンサートホール、劇場、多目的ホール、能楽堂、オペラハウス、映像ホールなど、舞台芸術の公演等を主用途とする施設。

  ①は、実際に「評価指針」を運用した事例を研究し、さらに有効に活用していただくための手引きをまとめたものです。地域創造では「評価指針」を発表するだけでなく、3年にわたって4名の評価アドバイザーを派遣し、地域の実情にあわせて運用をサポートしてきました。その実践から明らかになったことに加え、昨年度、新たに4施設で追跡調査を行い、評価アドバイザー(本調査研究委員)が議論を重ねて、より効果的な運用とするためのフォローアップを行いました。
  ②は、公立美術館が社会から期待される役割と、それを果たすための日々の活動を「公益性」という観点から整理し、公立美術館運営のガイドラインとして策定したものです。設置者(地方公共団体)が住民に対して公立美術館の存在理由を示すための根拠となるほか、各自治体が必要に応じてアレンジを加え、美術館の使命・基本理念や中長期目標の策定、政策評価や指定管理者制度のための定性的な指標づくりや、美術館の自己評価など、実際の公立美術館の運営に活用できるものにしました。また、美術館の日々の活動における具体的な問題解決や、住民との対話に向けた関係者の共通理解のガイドラインとしても活用できます。設置者と美術館双方の視点で策定されたガイドラインはこれまでなく、画期的な成果といえます。報告書には指針本文に加え、指針の全項目についてその背景や意味、参考資料などを示した「逐条解説」と、この指針を活用する際の具体的なアレンジの方法や想定例等を示した「活用例」を付けました。
  ③は、平成18年度に実施した悉皆調査以降、公立文化施設を巡る状況が急激に変化していることから緊急に調査を行ったものです。直営から指定管理者への移行が進み、指定期間が長期化傾向にあるといった現状や、地方公共団体の文化振興担当者が文化振興プランやミッションの必要性を強く認識している意識の変化が明らかになりました。特に合併市町村においては、新たな文化政策の策定や複数の公立文化施設といった課題に直面しているところも多いため、そうした現状を把握するとともに、特徴的な取り組みを行っている合併市町村の現地調査を行いました。文化・芸術で地域の一体感を醸成している事業や公立ホールの一体運営など、その成果は他の地域でも参考になるポイントとしてまとめました。
  なお、①②につきましては、もう少し詳しい内容を今後のレターでご紹介する予定です。

 なお本年度につきましては、昨年度開始した2カ年調査「文化・芸術を活用した地域活性化(行政効果の検証)に関する調査研究」を引き続き実施します。これは、有識者による提言検討委員会において自治体が地域活性化施策として文化・芸術を活用するにあたっての提言をとりまとめるとともに、事例検討会において参考事例の収集と整理および現地調査による分析を行う予定です。

①平成22年度「『公立ホール・公立劇場の評価指針』活用のすすめ ~運営・事業レベルアップの第一歩~」

 本報告書には、平成18年度に発表した「公立ホール・公立劇場の評価指針」(=以下「評価指針」)の活用方法と本調査研究委員からの提言、および22年度調査として新たに実施した4施設への追跡調査の結果を掲載しています。
  提言では、「評価指針」を活用することで文化施設のミッションや目的が明確になり、地方公共団体の文化政策の策定にも結びついているなど、設置者・運営者の双方にとって期待できる幅広い効果や、活用にあたっての留意点などを提示。文化施設の政策的位置付けの検討や運営・組織の見直しにも資するよう、評価のあり方や活用方法も簡潔にまとめています。そして、「評価指針」への取り組みから日々の業務を振り返り、課題を抽出し、次のアクションにつなげること─それが運営・事業のレベルアップの第一歩につながるとしています。また、現地での評価アドバイザーを務めてきた本調査研究委員による座談会記録を収録し、「評価指針」を各館の実態に即してカスタマイズしながら目的に応じて取り組んで成功しているケースなどを紹介しています。
  追跡調査では、「評価指針」を継続して用いている施設として、高槻現代劇場、八尾市文化会館、北九州芸術劇場、日田市民文化会館の設置者・運営者にその活用状況や効果、課題をヒアリングし、横断的な分析を行いました。その結果、「評価指針」が本来目的としていたPDCAサイクルの中での問題点の把握や改善、および住民への説明責任のために活用されているだけでなく、運営組織内や運営者と設置者とのコミュニケーションのベースとして効果的に活用されていることなどが明らかとなりました。また、調査実施団体ごとにまとめた活用事例も掲載しており、他館にも参考となるデータや資料となっています。

②平成21・22年度美術調査「『公立美術館の公益性に関する指針』についての調査研究」

 本報告書には、ガイドラインである「指針」の本文、指針の各項目の「逐条解説」、指針の活用方法が具体的に示されている「活用例」を掲載しています。
  「指針」の本文は、「I. 美術館の基本的な使命」「II. 公立美術館が地域社会に期待される4つの役割」「III. 公立美術館の公益性を維持・増進させるための項目」の3段階で構成しています。「I.」は、公立に限らず美術館全般の存在意義を、「II.」は特に公立美術館に期待される役割を示したもので、美術館の使命・基本理念や中長期目標の策定に活用できるようになっています。
  「III.」は、設置者と公立美術館の運営主体それぞれが行なうべき具体的なアクションを項目化したもので、「1. 支える」「2. 伝える」「3. 高める」「4. 分かちあう」「5. つながる」の5つのキーワードで分類しています。これらの項目はこれまで国内外で検討された美術館のあり方や基準、ミュージアム一般に求められる国際的な倫理規程等を踏まえており、設置者による指定管理者制度や政策評価のための定性的な指標や、公立美術館の自己評価の指標として活用できます。各項目は「設置者は~」「美術館は~」のいずれかで始まっており、設置者と運営主体の役割分担を明確にしています。
  「逐条解説」では、指針の全項目について、背景や意味の解説と参考資料等を示し、指針の内容理解を深めることができるようにしています。
  「活用例」は、設置者や公立美術館の運営主体がこの指針をアレンジして活用するためのいわば取扱説明書で、7つの具体的な活用シーンを設定し、参考事例や活用想定例のほか、このガイドラインをすぐに美術館運営に活用できるよう、指針項目をアレンジしたチェックリストの見本も掲載しました。

③平成22年度「地域の公立文化施設実態調査」「市町村合併と公立文化施設に関する調査」

 「地域の公立文化施設実態調査」報告書には、地方公共団体と専用ホールの現状を把握したアンケート結果を掲載しています。地方公共団体における文化振興条例の策定状況、文化施策の担当部署、文化施策推進にあたっての課題や、専用ホールにおける指定管理者導入状況、芸術監督・プロデューサーなどの配置状況、自主事業やアウトリーチの実施状況など最新のデータが明らかとなっています。また、「市町村合併と公立文化施設に関する調査」報告書には、公立文化施設における市町村合併の影響を把握するアンケート結果と、地域の一体感の醸成に文化・芸術を活用するなど特徴ある取り組みを行っている合併市町村(岩手県奥州市、富山県南砺市、相模原市、兵庫県朝来市、沖縄県うるま市)の事例調査の成果を掲載しています。なお、リーフレットを作成し、調査結果を広く活用していただけるよう成果の普及につとめています。

photo01.jpg

平成22年度「『公立ホール・公立劇場の評価指針』活用のすすめ ~運営・事業レベルアップの第一歩~」
[調査研究委員・評価アドバイザー]草加叔也(空間創造研究所代表)、熊倉純子(東京藝術大学音楽環境創造学科教授)、中川幾郎(帝塚山大学法学部教授)、吉本光宏(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室長)
[問い合わせ]芸術環境部 角南
Tel. 03-5573-4183

平成21・22年度美術調査「『公立美術館の公益性に関する指針』についての調査研究」
[調査研究委員会]委員長:篠雅廣(大阪市立美術館館長)/委員:大西秀人(高松市長)、貝塚健(ブリヂストン美術館学芸員)佐々木秀彦(東京都美術館交流担当係長・学芸員)、泰井良(静岡県立美術館主任学芸員)、藤原通孝(地方自治確立対策協議会地方分権改革推進本部事務局部長)、水嶋英治(常磐大学大学院教授・研究科長)
[問い合わせ先]総務部 布施
Tel. 03-5573-4143

平成22年度「地域の公立文化施設実態調査」「市町村合併と公立文化施設に関する調査」および平成22・23年度「文化・芸術を活用した地域活性化(行政効果の検証)に関する調査研究」
[問い合わせ]芸術環境部 角南
Tel. 03-5573-4183

カテゴリー