一般社団法人 地域創造

平成22年度「アートミュージアムラボ」報告

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被災された地域の1日も早い復興をお祈り申し上げます。

財団法人地域創造

平成22年度アートミュージアムラボ報告
2011年3月9日~11日

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写真
いの町上東地区で実施した《事業体験プログラム》「休・廃校プロジェクトinいの町」の様子(2日目)
左上:いの町上東地区で手漉き和紙による地域づくりに関わる方々に話を聞いた(STEP1)
右上:版画家・松林誠さんのワークショップ体験(STEP2)
下:美術館に帰ってグループでプラン検討(STEP4)

 これまでステージラボの1コースとして開講してきた美術館等職員のための研修プログラムを独立させた「アートミュージアムラボ」が3月9日から11日まで高知で開催されました。新しくなったアートミュージアムラボの特徴は、先進的な取り組みを行っている公立美術館を会場に、実際に行われている事業を現地で疑似体験する「事業体験プログラム」を取り入れていることです。今回は、4年前から「休・廃校活性化プロジェクト」を実施してきた高知県立美術館との共催により、美術館を拠点にした地域交流型事業の新たな手法を中心に学びました。多大なご協力をいただきました関係者の皆様には心より感謝を申し上げます。

 

コーディネーターは美術館館長

 コーディネーターを務めたのは高知県立美術館の藤田直義館長です。研修をスタートするにあたって、地方銀行職員という経歴をもつ藤田館長からは、「公立の美術館や文化施設で働くうえで、“地域との関わり”や“地域への貢献”をしっかりと意識することを忘れてはいけない。今回のラボではその点を踏まえ、初日に地域資源発掘の方法と活用事例を学び、2日目に「休・廃校活性化プロジェクト」を現地で疑似体験していただき、3日目に改めて公立美術館とアートの役割や位置づけを考えるプログラムとした」とのお話がありました。
  今回は、コーディネーターに加え、地域創造の公立美術館活性化事業や研修にもご協力いただいている世田谷美術館教育普及課長の高橋直裕さんがアドバイザーとして参加。高橋さんからも「地域に貢献するということがなければ、これからの地方美術館の将来はない」という檄が飛ぶなど、ホットなスタートとなりました。講義のトップバッターとなったのは、高知県を拠点に一次産業や地域をデザインの力で再生しているデザイナーの梅原真さん。「本当に何もないか」をテーマに、自らの取り組みについて紹介されました。
  何もない砂浜を美術館に見立てて全国から公募したTシャツアートを砂浜に張ったロープに物干し状態で展示する「砂浜美術館」、その砂浜を会場整備のために清掃して集まったゴミをそのまま展示する「漂流物展」、農作物であるらっきょうの花に価値を見いだした「らっきょうの花見」、地域経済指標では評価されない高知県の84%を占める森林をアピールした「84プロジェクト」、経済性から廃れてきた酒の桶仕込みを推進する「桶の底力」─次々に紹介されるプロジェクトに共通しているのは、「発想の転換」による創造力です。
  「僕の原点は、赤瀬川原平さんの『宇宙の缶詰』(実物のカニ缶を使って、外側のラベルを缶の内側に貼ったアート作品)だ。たった2,500円の缶詰のラベルを貼り替えただけで宇宙の缶詰が出来ることに驚愕した。赤瀬川さんが行っている路上観察学会のメンバーを高知県赤岡町(現・香南市)に招いて路上観察をした時も、彼らが撮影した写真を見て驚いた。“そう見たのか”という豊かさに溢れていて、まちが寂しいのではなく、そう見えない自分が貧しかったのがわかった」と梅原さん。
  「コミュニケーションをつくり出すのがデザインだ」「サプライズはコミュニケーションの素だから、サプライズを面白がろう」「比較するからいけない。自分たちの個性(絶対価値)を光らせればいい。本当に何もないのか。本当に何もないのはそう思う自分の頭の中ではないか」という一言一言に、受講生たちは刺激されっぱなしの90分でした。
  また、各地のアートプロジェクトの現場に詳しい京都造形芸術大学准教授の山下里加さんからは、休・廃校や空き家、地域資源を活用した事例に関わる地域のキーパーソンやアーティストについて紹介されました。特に地域に暮らす人の日常をキュートなアートとして捉えて展示したアートグループART LAB OVA「近江八幡お茶の間ランド」、地域の記憶が残る古い建物にニュー公民館としてのコミュニケーションをつくりだすnadegata instant partyの「どまんなかセンター」など、新しい世代のアーティストたちの取り組みは興味深いものでした。

 

美術館を飛び出した事業体験

 「休・廃校活性化プロジェクト」は、高知県立美術館が「アートの視点から地域活性化を目指す」「地域での文化創造に関心をもつグループや拠点をつくる」「美術館から遠い地域の方にも美術館を知ってもらう」ことを目的に、同館の河村章代主任学芸員を中心に平成19年度から実施している取り組みです。第一期の美術館から車で4時間離れた土佐清水市布地区での取り組みに次いで、今年からは、いの町上東地区の旧・上東小学校での事業がスタート。今回は、実際に上東地区に出掛け、地域のキーパーソンへのヒアリングや地元の小学生を対象にした美術ワークショップの見学、地域視察などのフィールドワークを実施しました。また、それを踏まえてこの地域の資源を活用した企画づくりワークショップも行われました。
  上東地区は美術館から車で約1時間30分、四国のまん中に位置する人口140人の山間の集落です。コウゾの産地として知られ、昔ながらの手漉き和紙を活かした地域づくりが行われています。キーパーソンのヒアリングでは、和田光正さん(上東を愛する会副会長、いの町グリーンツーリズム会長)、尾崎伸安さん、田村亮二さん、磯崎裕子さん(若手紙漉職人たちで立ち上げた土佐の山・紙資源の会メンバー)、山中雅史さん(高知版画協会事務局長)、竹村直也さん(土佐和紙プロダクツ代表)などからお話をうかがいました。
  「上東をひとつの家族のような地域にしたいと、「交流とふれあいの里づくり」「文化発信」「農業振興」を3本柱にして再生計画をつくり、地元が誇る樹齢数百年の椿(かたし)を活かした「かたしの花祭り」、旧・上東小学校でのスチールドラム事業、酒米づくりに取り組んでいる」という和田さんのお話に始まり、和紙を護るために農家によるコウゾの原料栽培を支援しながら和紙づくりのプロセスを知ってもらうための広報を行っている若手紙漉職人の活動など、美術館に閉じ籠もっていては知ることのできない最前線の地域づくりにふれる貴重な機会となりました。
  また、美術ワークショップでは、いの南小学校の45人の子どもたちが、地元の版画家・松林誠さんと現代美術家・松林由味子さんの指導で、椿の版画アートづくりと木造校舎の教室と校庭のインスタレーションに挑戦しました。
  こうした事業体験を踏まえて発表された企画には、「開校します」と題して地域の方が和紙を中心とした活動を通年で行うプラン、地区の家々の軒下に和紙のメッセージや提灯を下げる企画、地域の人々と美術館で滞在制作中のアーティストが相互にワークショップをしあう企画などなど、地域力を活かした現場感のあるものが多く、学芸員と地域を繋ぐ研修としての成果となっていました。
  最終の3日目には高知県立美術館の美術館評価を担当した同志社大学教授の河島伸子さんや、アサヒアートフェスティバルにより市民のアートプロジェクトによる地域づくりを推進しているアサヒビール芸術文化財団事務局長の加藤種男さんによる講義もあるなど、充実した3日間となりました。

●アートミュージアムラボ高知プログラム
◎第1日(高知県立美術館)
・開講式・施設見学
・ゼミ1「趣旨説明と自己紹介」(藤田直義、高橋直裕)
・ゼミ2「休・廃校プロジェクト概要説明」(高知県立美術館担当者)
・ゼミ3「地域資源の発見 本当に『何もない』か」(梅原真)
・ゼミ4「目覚めよ!休校、空き屋、遊休施設」(山下里加)
・交流会

◎第2日(いの町上東地区・高知県立美術館)
《事業体験プログラム》「休・廃校プロジェクトinいの町」
・STEP1「キーパーソンを探そう」
・STEP2「ワークショップで地域資源を掘り起こす」
・STEP3 シミュレーションワークショップ①「地域資源を掘り起こす…各自の視点で~フィールドワーク~」
・STEP4+ STEP5 シミュレーションワークショップ②「地域資源を掘り起こす…各自の視点で~プラン検討~」/シミュレーションワークショップ③「地域資源を掘り起こす…各自の視点で~プラン発表・講評~」(藤田直義、高橋直裕)

◎第3日(高知県立美術館)
・ゼミ5「公立美術館に求められるもの」(河島伸子)
・ゼミ6「アートプロジェクトと美術館」(加藤種男)
・ゼミ7「アートミュージアムラボのまとめ」(藤田直義、高橋直裕)
・修了式

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