一般社団法人 地域創造

ステージラボ奈良セッション報告

ステージラボ奈良セッション報告
2011年2月1日~4日

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左上・仲道郁代さんのワークショップ(ホール入門コース)
左下・能の仕舞を体験した「お能の魅力について」(共通プログラム)
右上・修了証を手に遷都1300年マスコット「せんとくん」と記念撮影(自主事業Ⅱ(演劇)コース)
右下・田村緑さんの「ファイナルコンサート」(自主事業Ⅰ(音楽)コース)

  今回のステージラボは、昨年末に平城遷都1300年祭を終えたばかりの奈良で2月1日から4日まで開催されました。会場となったのは、JR奈良駅に隣接するなら100年会館です。磯崎新設計による建物は外観を瓦タイルで覆われた巨大潜水艦のような形で、8通りのステージ変化と可動観客席をもつ大ホール、壁面すべてがガラス貼りの中ホールなどをもつランドマークです。共通ゼミでは奈良発祥の能を体験する金春流仕舞のワークショップも行われ、修了式には「せんとくん」も登場するなど、忙しい研修の合間にも奈良を感じたラボとなりました。共催者として奈良市、財団法人奈良市文化振興センターには、全面的なご協力をいただきました。

●演奏家ならではのカリキュラム
 音楽コースでは、演奏家が初めてコーディネーターを務めました。コーディネーターとなったのは、平成14・15年度公共ホール音楽活性化事業登録アーティストで、これまで何度もラボの講師としてご協力をいただいたピアニストの田村緑さんです。4日間のカリキュラム全体が最終日の田村さん自らが演奏家となって開くファイナル・コンサート企画に繋がるという仕掛けで、これまで講師として行ってきたワークショップを集大成した演奏家ならではのものとなりました。
  ピアニストの中川賢一さんによる奈良市立椿井小学校でのアウトリーチ見学から始まり、グランドピアノの解体、客席の位置によって聞こえ方が異なるホールの響き体験、自らが演奏家となって解説した楽曲のアナリーゼ、そして田村緑を題材にしたコンサート企画づくり─。その締めくくりとして開かれたのが田村さんが受講生ひとりひとりに好きな曲をプレゼントする「おひとりさまコンサート」です。
  「皆さんのことが知りたくて好きな曲を10曲リストアップしてもらいましたが、それを見ている間にその中から1曲ずつプレゼントしたいと思いました。これは皆さんが主役のコンサートです。ベストシートにひとりずつ座っていただいて、初日に自分宛に書いてもらった手紙を読み返していただければと思います」と田村さん。ステージ上には、ゼミ毎に受講生が感想として書いた漢字1文字の書道が10枚インスタレーションされ、受講生の座った席をピンスポットが照らし出すという凝った演出にみんな感動の面持ちでした。
  ドビュッシーの『月の光』をプレゼントしてもらった高橋裕亮さん(北上市交流センター・さくらホール)は、「自分のために皆さんが考えてくださっているのがわかり、お客様ひとりひとりのことを考えてコンサートがつくれる人間になりたいと思いました。生まれ変わって、今日が誕生日のつもりで頑張ります。ラボでこれからも続く人間関係がつくれたことに感謝しています」と話していました。

●国際的ピアニストの仲道さんも登場
 入門コースは演劇や音楽、ダンスのアーティストによる体験講座を中心にカリキュラムが組まれました。特に音楽では、今年で演奏活動25周年を迎える国際的ピアニストで、地域創造の理事でもある仲道郁代さんが登場。2時間にわたってアウトリーチのモデル・プログラムが体験できるという贅沢なプログラムもありました。仲道さんのプログラムのテーマは、音を耳で聴くだけでなく、見たり、触ったり、イメージしたり、五感で感じられるようになること。「輪っかが出てきました」「二人の人がお互いに話しかけています」「なぜか元気になってジャンプして、飛び出していきそうです」「雲のようにたなびいてホール中に漂っていきます。音の行方を目で追ってみてください」─モーツァルトの『キラキラ星変奏曲』の生演奏に合わせて、仲道さんのリードでどんどん音が見えるようになるマジカル体験に受講生はすっかり夢中になっていました。
  ピアノの鍵盤を叩いて音でホームランを打ったり、仲道さんが弾き分けるドビュッシーの『月の光』の情景の違いをイメージしたり、音が語りかけてきた内容を勝手に想像してその曲への“お返事”を考えたり。そして最後、ショパンの『英雄ポロネーズ』では、受講生が二人ずつ手を握り見つめ合いながら、あるいは客席を向きながら全員が手を繋ぎ横一列になりながら音楽を聴きました。同じ曲でも、さまざまなシチュエーションや身体の置かれた状況によって、音の感じ方やイマジネーションの広がりが全く違うことを体験できる機会となりました。
  「音は空気の振動なので地球にしかないものです。空気の振動によって心を揺り動かされたり、温かいと感じたりするのは、考えてみると不思議です。音は難しいものではなく、実は一番心にすっと溶け込んでいけるものです。音にできることはたくさんあるはずなので、どんなことでもいいから、それぞれの場所で、それぞれのやり方で小さなことを積み重ねていっていただければと思います」(仲道)
  このほか、演劇コースでは、演劇づくり、学校とのワークショップづくり、演劇と地域の関係などを総合的に学ぶカリキュラムが組まれました。演出家の内藤裕敬さんや世田谷パブリックシアター・ファシリテーターの富永圭一さんとのワークショップのほか、新国立劇場などでも仕事をしている舞台監督の三上司さんからはプロの現場について、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督の多田淳之介さんと雑誌「地域創造」などの編集プロデューサーである坪池栄子さんからは地域と演劇との関わりについて考える講義が行われました。
  また、特別共通ゼミとして青山学院大学の苅宿俊文教授による教育学の立場から芸術のアウトリーチについて熱く語る講義も行われるなど、充実した4日間となりました。

●奈良セッション プログラム表

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●ステージラボ奈良セッション コースコーディネーター
◎ホール入門コース
津村卓(地域創造プロデューサー/北九州芸術劇場館長)
◎自主事業Ⅰ(音楽)コース
田村緑(アーティスト(ピアニスト))
◎自主事業Ⅱ(演劇)コース
渡辺弘(埼玉県芸術文化振興財団事業部長)

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