寒風吹きすさぶ1月、小さな美術館は子どもたちの歓声で包まれる。公募で集まった約20人の“子どもスタッフ”が企画した展覧会「子どものための美術館」が始まるのだ。6回目となる今年は、1人1点ずつ選んだ収蔵作品と、作品の面白さや想像したことを書き出した文章、作品から発想した造形物─絵画や立体だけでなく、絵本や詩、映像、パズルもある!─を並べて展示。子どもたちのユニークな視点を通して収蔵作品の新しい魅力を発見するなど、大人にとっても見応えのある内容になっていた。
「市内の小中学校から授業で訪れていた子どもたちが、作品について話しているのを一般のお客さんも楽しそうに聞いているのを見て、子ども目線で収蔵品を紹介する展覧会がつくれるのではと思ったのがきっかけです」と、嘱託職員と一緒に一人で切り盛りしている学芸員の中込潤さんは言う。
準備期間は、なんと7カ月。子どもたちは月2~3回ほど美術館に集まり、「子どもスタッフ会議」を開く。まずは、収蔵作品を印刷したアートカードや対話型鑑賞などで美術作品をよく見ることから始まる。その後、3つの班ごとに収蔵作品の特徴や受けるイメージを語り合って展示のテーマを設定し、アートカードから候補作品を1人10点ほどに絞り込む。
「最後は、収蔵庫に行って絵を見比べて決めました。作品は重くて出し入れが大変でした。でも、本物はやっぱりすごい!」と子どもスタッフ2年目の河村雅さん(小学5年)が言うように、作品の取り扱いも子どもたちで行う。
「作品の扱い方を学べますが、リスクもあります。ですが、谷尾氏が地域の文化振興を願って収集した作品は、直方市民の財産です。死蔵するより、子どもたちの成長に繋がるよう生かすべきだと思います」と中込さんは言う。
初代館長の日高幸子さんが元小学校長、中込さんも元中学校の教員だったこともあり、同館では子どもを作品や美術館に惹きつけるノウハウと姿勢を培ってきた。例えば、選んだ作品の作家と手紙で交流したり、会期中に子どもスタッフによるギャラリートークを行い、7カ月の成果を家族や来場者に発表する機会をつくるなど、きめ細やかな工夫が凝らされている。また、日高さんが提案した作品の「模写」(実物の絵を見ながら展示室内で好きな部分を好きなように描く)は、小中学校の格好の授業プログラムになっている。こうした活動は美術館の外へも波及し、商店街の巨大バナーや成人式の垂れ幕、市の公的冊子などに子どもスタッフが絵を描く場面も増えた。「要望は多いですが、子どもが商店街で声をかけてもらえるなど、“自分が地域の役に立っている”と実感できるものに限っています」と中込さん。
教育普及と並ぶ同館のもう一本の柱が、地域の文化振興だ。2010年度は、地元出身の日本画家の回顧展、築豊ゆかりの若手作家による展覧会、地場産業の鉄工業と連携した「直方で出会う鉄たち」展を開催。少額の予算でやりくりし、外部から支援を仰ぎながら地域と子どもたちのために“美術館ができること”を積み重ねている。そして、6年目の今年は、子どもスタッフを経験した中高生がサポートスタッフとして企画全体を手伝うまでに成長した。
河村さんは、「私たちの班は、テーマである“夜の光”の感じを出したくて、移動壁を動かして展示空間を丸くしました。ここでは、みんなで考えたことが本当に実現していく。ゲームより面白い。将来の夢は学芸員です」と元気よく答えてくれた。
小さな直方谷尾美術館は、地域と子どもの夢を大きく育てている。
(アートジャーナリスト・山下里加)
●子どものための美術館6
[主催]直方谷尾美術館(指定管理:財団法人直方文化青少年協会)
[会期]1月4日~3月21日