その新たな試みが、小中学校の教職員によるオリジナル舞台シリーズ「センセイノチカラ」だ。これは、先生たちが共にひとつの舞台づくりに挑み、表現と舞台制作過程を実際に体験し、学校とはひと味違った姿をお披露目する発表会だ。2008年の第1回がダンス、翌年がミュージカル、そして今回は演劇公演『さくら先生の初戀(はつこい)』にチャレンジした。
この作品は、青春の思いを忘れてしまったさくら先生がシェンロンの導きで高校時代にタイムトリップし、恋バナに心ときめかせた頃を思い出すというストーリー。17名の先生たちはセーラー服や学ランに身を包み、満場の教え子や保護者たちを前にいきものがかりの『じょいふる』を踊り切り、絵に描いたようなツッパリ高校生を演じ、プリンセス・プリンセスの『M』に乗せて切ない恋心を歌い上げ、“先生”という役割から解放された剥き出しの心と身体で大奮闘し、喝采を浴びた。
作・演出を担当したのは札幌の人気劇団イナダ組代表のイナダさんだ。サンライズホールが97年から毎年3月に行っている市民参加劇「体験版 芝居で遊びましょ♪」の演出も今年度を含めて4回担当し、毎回2カ月近く朝日町に滞在している。「自分の劇団でやった台本を出演者に合わせて稽古しながらサンライズ用にアレンジしている。『芝居で遊びましょ』でも70歳のおじいちゃんがチーマーになるなど、かなり無茶をやっているが、リアルな自分と距離があるほうが面白くなる。僕のオモチャになることで、“恥ずかしい”が“オイシイ”に変わる芝居の面白さに気づいてもらえたのではないか」とイナダさん。
開館以来、一貫してプロデューサー役を担ってきた漢幸雄さんは、「市民参加劇もセンセイノチカラも演劇というコミュニケーションツールを使って仲間づくりができるよう、じっくり時間をかけてつくっている。作・演出はプロにお願いしていて、コミュニケーション能力があり、人を見る目が優しく、作品の中の登場人物がきちんと生きている人を選んでいる」と話す。
実際に参加した先生たちはどのように感じているのだろうか。この企画の提案者でもある鈴木和彦さん(元朝日中・現美瑛中)は、「朝日中では演劇の力を教育のツールにして、先生とホールとのいい関係の中で子育てができている。演劇の力を他の学校の先生たちにも体験してもらい、こうした取り組みがどこでも当たり前にできるようになればいいと思った。それと先生にもっと隠れた才能を舞台で発揮してもらいたかった」と言う。
また、3回とも出演している柿崎清澄さん(温根別小)は、「学芸会の指導をはじめ、協力する心、一生懸命人に伝える気持ちなど、子どもたちに還せる部分が本当に多い。一緒にひとつのものをつくることで通じ合った先生たちとの確かな絆がいろいろなところで生きている」と言い、すでに鈴木さんの脚本とサンライズホールのサポートで学芸会を成功させたとか。
自らも「士別市民劇場」を主宰する士別市教育長の安川登志男さんは、「先生方が輝いている姿を子どもたちに見せるのはとても良いこと。アウトリーチを受け入れる学校側の意識改革にもなり、良い着眼点だと思う。士別市の教育課程にアートを位置づけられるようこれからも北海道教育委員会に対して呼びかけていきたい」と高く評価していた。
出演者から裏方までを多くの朝日中の先生たちが支えていたり、市民参加劇も含めるとこれまでに400人以上が本格的な演劇づくりを経験するなど、サンライズホールの眼に見えない蓄積が花開いているのを感じた。センセイノチカラを終えた数日後には、3月の市民参加劇に向けた初顔合わせを実施。こうして北の大地では、今日も市民が仲間たちと舞台人生を楽しんでいる。
(坪池栄子)
●あさひサンライズホール
人口約2,000人の北海道・旧朝日町の直営ホールとして1994年にオープン。2005年に朝日町と士別市が合併し、現在は士別市の直営ホール。所管は教育委員会地域教育課。300席のこだまホールのほか、図書館、多目的スペース、資料館、研修室、調理実習室、文化サークル室、美術工芸室などを備える。職員はスポーツ担当を兼務している館長を含めて6人(雑誌「地域創造」第28号“座談会”参照)。
●センセイノチカラVol.3『さくら先生の初戀(はつこい)』
[主催]ARCHあさひ
[会期]2010年12月11日
[会場]あさひサンライズホール
[作・演出]イナダ(劇団イナダ組)
[振付]宮崎善行(トラックストリートダンススタジオ宮崎)