一般社団法人 地域創造

長崎県小値賀町 第10回おぢか国際音楽祭

 長崎県五島列島の北端に位置する小値賀島、野崎島を舞台に、9月18日から25日まで、第10回おぢか国際音楽祭が開催された。これは、大小17の島から成る小値賀町がボランティアの実行委員会と共に主催している手づくり音楽祭だ。同町は2003年、「独自メニューがあれば離島にも人は来るはず」と佐世保市との合併ではなく単独町制の継続を選択。07年にはNPO法人おぢかアイランドツーリズム協会を設立し、「島暮らしの体験ツアー」を目玉にした島おこしに着手。また、古民家を宿泊施設などに再生するプロジェクト(*)を立ち上げ、人口3,000人を割る島で年間1万人の観光入り込みを実現して注目されている。10年目の音楽祭の現場を取材した。
Photo09.jpg
阿弥陀寺コンサート
©おぢか国際音楽祭実行委員会

 9月24日、佐世保からフェリーで3時間、目指す小値賀島に到着したのは夜の8時。音楽祭の立ち上げから関わり、現在は同協会理事長として音楽祭事務局を引き受けている尼崎豊さんの案内で、阿弥陀寺に向かった。狭い本堂には120人を超える老若男女が集まり、ご本尊を交えて和気あいあいとしたライブが行われていた。
  演奏していたのは、第1回音楽祭の時に学生として参加して以来、この島に通い続けているヴァイオリニスト・山内達哉とゆかいな仲間たち。島唄などを交えた親しみやすいプログラムで、音楽祭のテーマソングとも言える山内作詞・作曲のオリジナル曲『小値賀』がラストを飾った。
  「1番の歌詞は僕が小値賀で見た風景、2番は漁師さんの家に民宿した時に感じたこと、3番は隠れキリシタンが暮らしていた野崎島を思ってつくりました。それぞれ島唄風、演歌風、讃美歌風で歌ってください」
  “神が与えた無限の時とき間…笑顔の絶えない小値賀島”─この夜のホームパーティのような交流が、この音楽祭が過ごしてきた10年を何より物語っている。
  小値賀島は、中国大陸と九州を結ぶ中継地として古代には遣唐使船も寄港。捕鯨で栄えた時代の屋敷や隠れキリシタンが移り住んだ野崎島の旧野首天主堂など、歴史的な資源にも恵まれている。しかし、漁業が衰退し、無人島化が進むなど徐々に活気を失っていく。
  2000年、町制60周年記念の関連でヴァイオリニストのエドアルド・オクーン、萩原淑子らが天主堂で演奏したことが縁となり、翌年から音楽祭がスタート。「萩原さんに提案された時には、音楽ホールもない島でできるのだろうかと思いました。『音楽は施設の問題ではなく感性の問題。感性を磨くためにこの自然の中でやることが重要だ』とオクーンさんに言われ、交流人口が拡大し、知名度が上がって“オヂカ”と読んでもらえるようになればと話し合いました」と尼崎さん。
  プログラムは、アカデミー(滞在型音楽講習会)や各所で行われるコンサートなど。05年からは町民が音楽とふれあう機会を増やそうと、山内たちを中心にしたプログラム(楽器体験、各種ライブ、2,000円でどこにでも出掛けていく音楽宅配便)を充実。今年は、絵画、彫刻、陶芸の体験教室と展示を新たにスタートした。
  山内は、「インターネットで楽器を買った子、音楽祭で出会った酒屋さんと結婚してピアノの教室を始めた人など、ここから音楽が生まれるようになってきた。10年一区切りで、これからは色んなアーティストが集まる芸術祭のようになればいいなと思います。音楽を通じた交流に必要なのは技術半分、人間性半分。この島での交流は僕ら演奏家が人間として成長する上でとてもいい経験だと思っています」と話す。
  今回の取材で小値賀島と出合ってIターンした人たちに何人も出会った。新しいまちづくりにチャレンジしたいと家族で移住した元熊本県職員、仕事で訪れたのが縁で島の人と結婚した音楽祭事務局の担当者、大学のゼミ調査で島と出合い念願かなって移住した古民家レストランの担当者など。こうした縁を結んでいるのが、音楽祭であり、アイランドツーリズム協会であり、古民家再生プロジェクトなのだ。
  それもこれも音楽祭という未知の事業にチャレンジすることを決意した10年前があったればこそ。人々が守ってきた島の宝と、文化が運んできた創造力という未来への宝が結びつき、島が文化で磨かれ、人々の縁が島を支えていく。そのサイクルを垣間見た気がした。

(坪池栄子)

●第10回おぢか国際音楽祭
[主催]おぢか国際音楽祭実行委員会、小値賀町
[共催]小値賀町教育委員会、小値賀町公民館、NPO法人おぢかアイランドツーリズム協会、(株)小値賀町観光まちづくり公社
[会期]2010年9月18日~25日
[会場]長崎県小値賀町各所(離島開発総合センター、野崎島旧野首教会、若者交流センター、あわび館、社会福祉協議会、小値賀町総合体育館ほか)
[音楽監督]リサ・スミルノワ(ピアノ)
[出演・講師]アンナ・カンディンスカヤ(ヴァイオリン)、ロバート・サン・ウン・チョイ(チェロ)、山内達哉(ヴァイオリン)、井尻兼人(チェロ)、水野貴以(ヴォーカル)、大河内淳矢(尺八)、小堺香(ピアノ)ほか・おぢかアイランドツーリズム協会
http://www.islandtourism.jp/

*古民家再生事業
総務省のアドバイザー派遣により京都で町家再生事業を手がけるアレックス・カー氏の協力により実施。5軒の古民家ステイ、捕鯨と酒造業で財を成した旧藤松家をリニューアルした古民家レストランがオープン。レストランは今回の音楽祭のディナーライブ会場、陶芸作品の展示会場ともなった。

カテゴリー